破れば親友の手で地獄行き。ファミリー“血の掟”<マフィアの十戒>。ギャングとオメルタの束縛

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、九話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、九話目。

***

前回は、ギャングの“おいしそう”なニックネームや、アイルランド系の偽名を使ったイタリア系マフィアなど「ギャングスターの名前」について話した。今回は、イタリア系ギャングが交わす“血の掟”「オメルタ」について。オメルタで定められているルールや、オメルタを破った命知らずのマフィアについて追ってみよう。

▶︎1話目から読む

#009「マフィア入団に命をかける構成員。10の掟の拘束力」

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全米ベストセラーに『ルールズ〜理想の男性と結婚するための35の法則』という少々胡散臭い恋愛指南書がある。「自分から男性にメール・電話しないこと」「土曜のデートの申込みは水曜夜までで締め切ること」「デートの待ちあわせ場所を、お互いの中間地点にしないこと」「1回目や2回目のデートでは、5時間以上一緒にいてはいけない」という、なんとも読んでいるだけでもめんどうくさい決まりごとがつらつらつらつら。きっと元祖キャリー・ブラッドショーなベーシックガールズの化身がワイングラスにバスローブ姿で気ままにたてたオキテだと勝手に推測するが、そんな可愛らしいもんじゃないのがマフィアの“ルールズ”、オメルタ(血の掟、沈黙の掟、マフィアの十戒)だ。恋愛ルールズを破っても失恋で心を痛めるしか他ないが、マフィアのルールズを破ったら確実に地獄行きである。

 マフィアの発祥地・シチリアで生まれた「オメルタ(Omertà)」は、マフィアの新しい一員になる者が、構成員の前で結ぶ入団の誓いである。儀式の詳細は定かではないが、別名“血の掟”とも呼ばれるように、新構成員は針によって指を刺されその血で聖人画に触れ、「ルールを破ったら自分の肉体は始末される」と唱え忠誠を誓うといわれている。要は、組織に魂を売る儀式であり、入団したからには10の戒律を遵守することを強いられるわけだ。シチリアのマフィアボス、サルバトーレ・ロ・ピッコロの自宅から発見されたというマフィアの十戒。本当のところ如何なものなのか、館長と一緒に検証してみる。

命より重いオメルタ
〜入団で交わす10の契り〜

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<1. 他ファミリーと初対面する際には、第三者に紹介してもらう必要がある。
決して一人で会ってはいけない>
<2. 仲間の妻と関係を持ってはならない>
<3. 警察と手を結んではいけない>

「はい、その通りですね」

<4. 酒場やクラブ通いをしてはならない>

「うぅん、これは必ずしもそうではないですね。
ヘンリー・ヒルや彼の仲間はクラブを拠点にしていましたから」

<5. ファミリーのためならいつでも出動できるようにしておくこと。
それはたとえ妻が出産している瞬間でも>
<6. 約束は果たさなければならない>

「これらは正しいです」

<7. 妻を大切にしなければならない>

「これはグレーかと。実際、“goomah(グーマ、愛人)”をもつマフィアは多いですからね」

<8. 情報提供を求められたら、真実を語らなければならない>

「はい」

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<9. 他人や他組織の金に手を出してはならない>

「理想的にはそうです。私の知り合いだった女ギャングのテリーはかつてこう言っていました。『ギャングが殺されることがあれば、それは金銭問題のもつれであって、大抵は知り合い、そして多くの場合は親友によって果たされる』

ちなみにラストの掟は、<10. 親族に警察官がいる者。裏切り者の親類がいる者。素行が悪く倫理道徳にそぐわない行動をする者は、コーサノストラの構成員にはなれない>だ。

オメルタ破った密告者、ジョゼフ・ヴァラキ

 破ったときのことを想像しただけでもちびりそうなオメルタだが、これをファミリーの前でバリバリと引き裂いた無鉄砲なギャングがいる。ニューヨークのジェノヴェーゼ一ファミリーの構成員だったジョゼフ・ヴァラキだ。彼は麻薬犯罪で刑務所に収監された際に、自分の暗殺者だと勘違いをしまったく関係のない囚人を殺してしまったことから二進も三進もいかなくなり、1963年にFBIと司法取引をすることになる。証人保護プログラムに入る代わりにファミリーの内部事情を垂れ流した。ヴァラキは、マフィアの歴史や構成員などについて公にした最初の現役構成員となったのだ。

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 彼の告発は「ヴァラキの証言」として知られ、映画『The Valachi Papers(72年)』にもなっている。歴史に残る“大失態”を犯されたファミリーは、彼の首をかけて懸賞金などをかけたものの、ヴァラキの最期は意外にも心臓発作によるものだった。オメルタより怖いものは、不健康というわけか。

 ヴァラキの他にもオメルタを破った者には、ガンビーノ一家のアンダーボスで政府に寝返ったサミー・グラヴァーノや、シチリア島のマフィア、トンマーゾ・ブシェッタなどがいる。ちなみにグラヴァーノは存命、ブシェッタは癌で死亡している。

 次回は、「ギャングとアニマル」。動物園の〇〇と友だちになった伝説のマフィアや、人間には冷酷だが動物には優しかったユダヤ系ギャングについて、たまには微笑ましく書いてみようと思う。

Interview with Lorcan Otway

▶︎▶︎#010「猫レスキューギャング、猿と仲良しモブスター。動物に従うワルたち」

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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