倉庫に眠る「サンプル」をオンライン販売。“ファッション業界の余り物”で教育現場を良くする27歳のやり方

ファッションの街、ニューヨーク。この街には無数のデザイナーやブランドが存在し、シーズン毎に数え切れないほどの新作が生み出されているわけだが、その新作を製品化する前に作られる「サンプル」こと見本品は、役割を果たしたあと一体どこへいくのか。

「倉庫やショールームで死蔵されるか、捨てられるか」。そう話すのは非営利団体「ザ・ファッション・ファウンデーション(The Fashion Foundation)」の創始者アマンダ・マンズ、27歳。
彼女は、それら大量のサンプルのオンライン販売をはじめた。その“ファッション業界の余り物”を効果的にチャリティに繋げるのだという。

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アマンダ・マンズ(Amanda Munz)

倉庫に眠る「余ったサンプル」で何かできるはず

 若干24歳の時に同団体を立ち上げたアマンダだが「最初から社会起業家を目指していた訳ではなかった」という。中高生の頃から「夢はファッションバイヤーになること」だった。ニューヨーク州立ファッション工科大学(F.I.T.) で学び、在学中にはスイムウェア・エニウェア(Swimwear Anywhere)やマイケル・コース(Michael Kors)でインターンシップも経験してきた。卒業後は、その経験を活かしてフルタイムのポジションを目指すという選択肢もあった。だが、ファッション業界の現場で目にしてきた「あること」が彼女を思い留まらせたという。

 その“あること”とは、毎シーズンごとに作られる「サンプル品」。製品化する前に作られる見本品のことで、だいたいどのブランドも新作を量産する前に見本を作り、発色やシルエットを確認する。だが「たとえば靴の場合、一つのデザインにつき7色のサンプルを作ってみて実際に製品化するのはその内の3色だけだっけだったり。選んだ色も『この赤の発色をもっと明るくしてピンク寄りに』などの意見に沿ってさらに何度か作り直すことも少なくありません」。こうして何度も作り直し、最終的に出来上がったサンプルも、取引先に向けた展示会で会場に並べられるなど文字通り「見本」としての役割を果たした後はお払い箱。それらを「サンプルセールとして販売したり、従業員や関係者に配ることもありますが、それでも処理しきれないくらいの量があります」。処理しきれなかった残り物はどうなるのか。「ショールームや倉庫で死蔵されるか、置く場所がなければ捨てられることがほとんど。ブランドがそれらの処理に困っているのを見てきました」

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 ただでさえファッション業界の衣服廃棄は問題になっている。「ゴミは極力減らすべきですし、何より新品同様のものをただ捨ててしまうなんて勿体無い。これらのファッション業界の”余り物”を利用して、何か世の中のためになることはできないか」。卒業後、大学院で非営利団体の立ち上げと運営について学び、サンプル品をオンライン販売する「ザ・ファッション・ファウンデーション」の創設に至った。

誰にとってもウィンウィン(win-win)な活動であるはずなのに。

 
 運営が軌道に乗りはじめたのは2016年。特に、ニューヨークの人気デザイナーのレベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)との出会いは大きかった。二人が出会ったのは「ソーシャルイベントで。彼女にファッション・ファウンデーションの活動について話したところ、とても興味を持ってくれて。翌週には20箱分の商品を寄付してくれたんです!」
  
 それらの商品は、ザ・ファッション・ファウンデーションのウェブサイトでオリジナルの店頭販売価格の約70パーセントオフで販売されている。レベッカ・ミンコフのような「業界のビックネームが寄付をしている」ということは、そのまま団体の信頼性にも繋がる。実際、レベッカ・ミンコフの名前を出せるようになったあと、アマンダはカルバン・クライン(Calvin Klein)やブルーミングデールズ (Bloomingdale’s) などを巻き込むことに成功した。その他にも参加しているグローバルブランドはあるが「残念ながら、名前は公開できない」そう。理由は、それらのブランドが「名前を公に伏せることを条件に余剰品を寄付してくれているので」。

 業界の事情をあまり知らない立場からすると、せっかく世の中のためになることしているのに、名前を隠す必要などあるのか。また、ブランドやデザイナーは処理に困っている「余り物」で地域への還元や社会貢献ができるというのに何を渋っているのか、倉庫の在庫を減らせれば、取られる税金も減らせるし一石二鳥ではないか、と不思議に思ってしまうが、そう簡単な話ではないらしい。

 彼女も「これは誰にとってもウィンウィン(win-win)な活動であるはずなんです」と話す一方で、ブランドやデザイナーを巻き込む難しさについてこう話す。「商品、つまり完成品ではないサンプルを市場に出すことを嫌がるブランドもあります。あとはザ・ファッション・ファウンデーションという団体の信頼性の問題でしょうか」。確かにいくらチャリティ団体とはいえ、まだ年数も実績も少ない団体に商品を寄付するのはブランドにとってリスクがないわけではない。転売されたり、コピーされたり「悪用されるのでは」「ブランドイメージに傷がつくのでは」と、ブランド側が懐疑的になるのもわからなくはない。
 だが、この状況にも屈しない。「たとえメールや電話での問い合わせは無視されたとしても、実際に関係者に会って、活動の目的や実際の活動内容についてお話すると概ねポジティブな反応をいただけます。ストーリーを伝えることの大切さを痛感しています」

理念でダメなら「体験していただきましょう」

 アマンダは参加してくれたブランドに、そのソーシャルインパクト(社会的影響力)の大きさを体感してもらうために、提携する公立学校にブランドを招待する企画もはじめた。上述の通り、ザ・ファッション・ファウンデーションは売上や寄付金でノートやペン、遊具やスポーツ用品などの学校用品を購入し、必要数を賄いきれていない市内の公立学校に寄付している。彼女はレベッカ・ミンコフの従業員約70人を提携する公立小学校に招待し、同ブランドの寄付で購入した学校用品を、従業員から子供たちへ手渡しする触れ合いの場を設けたことがある。「倉庫で眠っていたあの商品で、子どもたちをこんなに笑顔にできるなんて思いもしなかった」。そんな反応を見てきた彼女は「サンプル品や在庫が持つソーシャルインパクトの大きさを、ファッションに関わるひとりでも多くの人に伝えるのも、私の使命の一つだと感じている」と語る。理屈や数字を並べるだけでは人を動かすことはできない。「体感してもらうのが一番だ」と。

⏳ waiting for our four day weekend ⏳

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ファッション業界は子どもたちの教育状況を改善することもできる

 寄付する側とされる側である子どもたちが触れ合うことは、子どもたちにペイ・フォワード*の概念を教えるきっかけにもなる。ザ・ファッション・ファウンデーションは、いままでに10校以上の学校に総額530万円以上相当の学校用品を、数千人もの子どもたちに提供してきた。提携する学校は、低所得者が住むエリアの公立学校。酷いところではトイレットペーパーすら十分に賄えていないほどその学習環境の悪さは深刻だった。

*親切を受けた人がまた別の他者へ親切にすることで、より大きな輪にしながら親切や扶助を繋いでいくこと。またそのための運動。

「何か足りていない学校用品はありませんか」と問い合わせることからはじめることもある。学校側には「突然、なんですか?」と警戒されるも、なんども会って会話を重ねることで信頼関係を築いたという。無論、学校へ「何が必要か」をヒアリングをし、それらを購入して届けるより、ただお金を送金するだけの方が手間は省ける。彼女がそうしないのは「子どもたちが本当に必要としているものを届けたいから」に他ならない。

「うちの女子野球クラブの生徒は、学校に女子用のヘルメットがないため男子用のヘルメットを使っている」と聞けば女子用の野球ヘルメットを、また、特別支援学校からは「障害を持つ子どもたちのために作られた『このパズルが欲しい』」と具体的な商品名をいくつかリクエストされれば、予算内で購入できるものを選んで届けてきた。

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 彼女の住まいとオフィスは、マンハッタンから車で片道約2時間の場所にある。そこから週に1、2回、自ら往復4時間の運転をし、ミーティングや商品のピックアップ、学校訪問、ソーシャルイベントなどのためにマンハッタンに通っている。なかなかの重労働だが、フルタイムでまわしているのは「私ひとり。あとは10人くらいのボランティアに協力してもらっています」。

「いつかはマンハッタン内にオフィスを持てたら。従業員を雇えたら」と語りつつ、目下取り組んでいるのは「より多くのニューヨークの有名デザイナーを巻き込むこと」。それが実現すれば、団体の信頼が高まり、より多くの有名デザイナーの商品が充実すれば、売り上げも増え、売り上げが増えればより多くの子どもたちに豊かな教育環境を提供できる。より多くの子どもたちがより良い教育を受けられれば、それは未来の社会全体の幸福へつながる。10代の頃からファッション業界に憧れてきた彼女はいま、ファッション業界を、そして社会を変える仕事に邁進している。とても大きなビジョンを描きながら。

Interview with Amanda Munz

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The Fashion Foundation

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Photos by Kohei Kawashima
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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