「スヌーピーもコロンブスもギャング」ギャングの定義は?マフィアと呼ぶな?米ギャングスターズの黒い雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、一話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、一話目。

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前回は、重要参考人の棲息地で、禁酒時代にもぐり酒場として繁盛したナイトクラブの隣に佇む「アメリカン・ギャングスター・ミュージアム」の逸話で連載の口火を切った。今回の第一話では、手はじめに「ギャングスターって何者だ?」。ギャングっていつごろからいた? ギャングを“マフィア”と呼んではダメ? など、謎多きギャングの姿を原型から暴いていこう。

#001「コロンブスもラッパーもスヌーピーもギャング? ギャングスターの黒い正体」

 最近はじめてこんなことを知った。漫画『ピーナッツ』のスヌーピーと仲間たち(チャーリー・ブラウンやサリー、ルーシー、ライナスら)をまとめて「ピーナッツギャング」と呼ぶらしい

 …と、かわいらしくはじめたいが、今回の主役は決して怒らせたらいけない冷血漢“ギャングスター”なので本題に移ろう。
 アメリカン・ギャングスターの連載をはじめるなら、まずはギャングスターとは何者か、がわからないと話にならない。ギャングと聞いて、ゲトーな“ギャングスタ”ラッパーの首にぶら下がるゴールドチェーンを想像してしまった人も、「ギャング・オブ・フォーなんてバンドいたな…」と思い出すコアな洋楽マニアも、ひとまず一旦黙ろう。まあ重要参考人の館長も「バイカーグループだって言ってしまえばギャングです」とのたまっていますが。ウェブスター辞典によると、シンプルに「a group of criminals(犯罪集団)」。または「違法、または反社会的な目的をもつ集団」、もしくは犯罪要素を引いて、「一体となって働く人々の群れ」。だから、ビーグル犬を中心に一丸となっててんやわんやしているスヌーピーの仲間たちが“ギャング”、も間違いでは全然ないのである。

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「ギャングの語源は正確にはわからないですが、そのコンセプトはずっと前から存在していたことは確か」と館長。たとえば極端な話、「クリストファー・コロンブスも“ギャング”」。その心は「ギャングとは、つまり組織犯罪(organized crime)。コロンブスのアメリカ・インディアン大虐殺も、組織的に計画された暴力犯罪の一例です。殺人という犯罪で逮捕されたコロンブスは、立派なギャングといえますね」。コロンブスの他にも、17世紀植民地時代のアメリカでインディアンと白人特権階級に対して一丸となってベーコンの反乱を起こした社会的地位の低い白人と黒人奴隷、抑圧してくる政府に対し権利運動を率いたアメリカ・インディアンたち「アイムスター(AIM [American Indian Movent]-ster)」、さらには奴隷制に反対した米キリスト教一派のクエーカー教徒だって、脱走奴隷を助けることで法を犯した“ギャング”たち。政治抗議運動を発端に暴力事件を起こした集団は、ギャングと呼ばれてしまうわけである。

移民コミュニティの束ね役、荒稼ぎビジネスマン

 昼飯後の3限目・世界史みたくなってきたので、ここで、みんなが想像するいわゆる“ギャング”の話をしよう。わかりやすい例として、19世紀ニューヨークで出現しはじめた移民ごとのストリートギャングたちをあげよう。
 ロウアーイーストサイド(マンハッタンの南東部)を中心に、この区域はアイルランド系、ここのエリアはドイツ系、あそこの地区はイタリア系などに区分されていた。ニューヨーク最古だと言われるアイルランド系ギャング「フォーティー・シーブス」やイタリア系「ファイブ・ポインツ・ギャング」、その宿敵のユダヤ系ギャング「イーストマンズ」。コミュニティ別ギャングの目的は、コミュニティ内の秩序を守りコントロールすること。よく言われる「マフィアが取り仕切るラスベガスは、秩序が保たれている 」と同じ原理だろう。

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July 4, 1857 battle on Bayard Street of the Irish gang, the ‘Dead Rabbits,’ against the Bowery Boys, a nativist, anti-Catholic, and anti-Irish gang. Based in Five Points neighborhood of New York City.

 やがてストリートギャングたちは「政治面での犯罪」にも手を染めた。投票数を稼ぎたい政党や政治家はストリートギャングと結託。ギャング集団は、長髪髭面のみすぼらしい身なりの失業者たちを束ね、口髭を剃らせてはもう一回、髪を切らせてはもう一度“別人”として投票に行かせる。一人から複数票を捻出し、政党のため票を操作したのだ(ギャングの元で投票要員として駆り出された男たちは“リピーター”と呼ばれた)。
 のちに迎えることになる1920年代の禁酒法時代には、ギャングたちは密売酒の流通ルートを独占し「経済的な権力へのアクセス」を手に入れる。故に、ギャングスター=ビジネスマンという方程式もあながち間違いではないのである。

“Mワード”は、なぜ禁止?

 と、ここでなにか気づいたことはないだろうか。さっきから、ギャングギャング言っているが、なぜ“Mワード”ー「マフィア」が出てこないのか。館長もこう言う「ギャングを指すとき、“マフィア”という言葉を使用しないよう十分注意を払っています」。

 そりゃ、マフィアと口にしたからって命に別状はない。しかし、マフィアとは「シチリア島由来のギャング集団」を指す限定的な言葉。だから、ナポリのギャングは厳密には“マフィア”ではない(事実、その昔ニューヨークでは、ナポリやカラブリアのギャングはローワーイーストサイド、二流イタリア人とされていたシチリア出身のマフィアはそこから北上したアップタウン、と勢力地域も棲みわけされていたらしい)。でもまあ、マフィアをギャングと広義に捉えてロシアン・マフィアとも香港マフィアともいうから、その塩梅は好きなようで構わないと思う。

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Collection of Museum of the American Gangster

判事さまが宅間で酒を振舞ってくれたらそれは温かい“もてなし”だ。しかし、俺が酒をすすめたらそれは立派な“密売”になる」。“禁酒時代・シカゴ暗黒界の帝王”アル・カポネがこぼしたこの洒落は、ギャング自らが“ギャング”という名の持つ重さを揶揄している。頭の切れるビジネスマンやコミュニティから慕われるまとめ役だろうが、世間の目からしたらやはりギャングは犯罪者なのだ。

 次回は、ギャングのお仕事について。アル・カポネは家具屋さん、とあるギャングは“トマト売り”…。ギャングが掲げていた表向きの職業やギャングと労働組合(ユニオン)との関係などについて、話を進めていこう。

▶︎▶︎#002「“家具のセールスマン”だったアル・カポネ、“花屋”だったギャングメンバー。ユダヤ系ギャングは安息日に銃を置く」

Interview with Lorcan Otway

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Museum Photo by Shinjo Arai
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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