「オレたちが許すことはないだろう。いざ、ここに団結しよう」。やり場のない怒りにたぎる人々がいる。今年の9月9日、近年最大、いやもしかすると今世紀最大の…..ピザ詐欺が起こった。11万人もの善良な市民を翻弄したのだ。
9月9日を待ち望んでいた多くの人は落胆と怒り、そして悲しみのあまり、固いアスファルトに膝をついた。ピザを積んだトラックでいっぱいになるはずの駐車場(イベントスペース)はガラガラ、並んでいたのはこんな細いの見たことない、というお粗末にカットされた冷凍のピザ。
無理もない、本当だったら、というかイベント主催側が示していた内容通りであれば、30以上のピザベンダーが集まり「ニューヨークのピザが集まる日! 小麦粉とた〜っぷりのチーズとピザソースで一日祝福しよう!」のはずだったのだから。
「オレの拳よりも小さいピザしかない」
フェイスブックで「ニューヨークシティ・ピザフェスティバル」のイベントページはやけに盛り上がっていた。「ニューヨークは最もすばらしいピザを作る街。みんなで一日中、ありとあらゆるピザを食べてそれを証明しないか?」、その文言に誘われ「参加しないなんてピザ好きの名が廃る」とでもいうように早くから参加の意思表明があいつぎ、「オレはカリフォルニアから参加する」と、他州からわざわざ駆けつけるという思いの強さを見せるポストも。最終的には3万人が参加予定、8万人が興味あり、のべ11万人の心を惹きつけていた。いい意味で、そのフェイスブックイベントページは荒れた。開催一週間前から思い思いの人々が“マイピザポスト(お気に入りのピザ関連画像)”し、いかに楽しみかを書き綴る。だが、その来たる当日、いざ足を運んだ彼らを待っていたのは…ほとんど空の駐車場だった。
テントはたったの3つ、ピザを用意していたのはそのうち一つ。そして、そこに並んでいたのは小さな小さなピザ。さらにそれは、冷たくてカチカチだった。この時のピザを愛する人々の心を想像すると…苦しい。参加者からの怒りのコメントを見て欲しい。
“愛する彼女の誕生日だから、ぼくは150ドルを支払ってここにきた。つまりぼくは150ドルで冷凍のピザを買い、おまけに彼女を幻滅させたことになる。”
“7,500円のチケットを買って、2時間も早くきた。手に入れたのはおれの拳よりも小さなピザ。”
実際のピザ画像はこれ。
This pizza fest was a failure of 'Fyre Festival' proportions https://t.co/NWtB3yuo8l #Brooklyn #NYC #NY #News pic.twitter.com/ICqnpKcPjw
— Brooklyn Roundup (@BrooklynRoundup) September 12, 2017
そして、ピザピーポーの隣で同じように、だが似て非なる理由で怒りたぎる人たち。「オレたちのハンバーガーはいつになったらくるんだ!!!」。なんと、ここではまったくの同時刻から「バーガーフェス」も開催予定だった、というのだ。バーガー側はスマホでイベントページを見せながら「山のようなフライドポテト、ケチャップの海、滝のようなビール」を約束された、と訴えた。つまりこの9月9日、殺風景なその駐車場にはアメリカ中のピザピーポー、バーガーピーポーが集結していたのである。なけなしのピザが配られてみなが群がった際に、ピザ側「待ってくれ! それは…ピザピーポーのためのピザだろう?」と、いう場面もあったらしい。
“せっかくワシントンからはるばるやってきたのに、手に入れたのは小さくてまずいピザ。”
“彼ら(なけなしのピザを配っていた人)はまるで、通常のサイズのピザを配っているかのように振舞っていた。だが、あれは普通のサイズじゃない、ケーキのサイズだ。子どもの誕生日パーティーで配られるケーキのサイズだ。明らかに小さい、極小サイズのピザだった。”
冷たいピザにすらありつけなかった人もいる。
“楽しみにしてたのに、わたしたちが手に入れたのはぬるくてくそまずい赤ワインだけ!”
騙されたピザピーポーたちは「ピザフェスティバル、被害者の会」まで立ちあげてしまった。
あれ、実は咋年も?
実際のフェイスブックのイベントページを見ていると、一年前に同じような事件が起きていたのでは? と気づいた。2016年の同日、イベントページは以下のようなコメントで溢れていたからだ。
ピザフェス、どこでやるの?
ねえ、どこに行けばいいの?
どこ? 詳細まだ?
結局、どうなってるの?ピザのイベント!
これ、ただの詐欺っぽい。イベントなんてやってねえよ、みんな家に帰ったほうがいい。
一年前、誰かが注目を集めたいのかなんなのか、架空のピザイベントについてをポストしており、今年同様のフェイスブックイベントページを使ってさらに多くの人を引っかけた、ということか…?
さらに見ていくと「あれ、開催日時が来年になってる、2017年っぽい!」というコメントを発見。どうやら主催者、当日土壇場で開催日を一年も引き伸ばしたらしい。この時も怒る人々は多かったが、まだよかった。金銭のやり取りが発生していなかったからだ。つまり、昨年は「ピザイベントをします!」と告知されたものの、いっこうに開催場所が明かされず、架空イベントだった、というオチ(とはいえ楽しみにしていた人がたくさんいたので許しがたくはある)。だが、今回は実際に「チケットを売り(3,000円、5,000円、7,500円、さらにVIPとして1万5,000円)、一応開催し、冷凍ピザの小さな切れ端を配った」。れっきとした大詐欺である。
フードイベントクラッシャーだった
一体どんなやつが…。調べていくと、一人の人物の名が(写真つきで)晒されていた。イシュマイル・オセクレ、写真で見るところ20代後半だろうか。彼こそがこのピザ事件を起こした張本人らしい。が、驚いたのはここから。実は彼、昨年の夏にもアフリカンフードのイベントを行い大失敗していた(地方各紙、“歴史に残る大惨事”と形容)。この時も2,000円から1万5,000円のチケットを売り、「25以上のシェフとフードベンダーが集結! ありとあらゆるアフリカのご飯が楽しめるフェス」を予定していた。どう大惨事だったか? まず、イベントは「グリーンハウス(という体育館みたいな場所)」の中で行われていた。冷房ナシ、 8月の真夏日に、だ。そして、約束されたフードとドリンクは明らかに少なかった。以下、そのイベントへのコメント。
“みんな、着いて会場に入った途端に汗だくになった。閉め切りだし。チケットを買った人にはドリンクとフードが約束されていたのに、何も配られなかった。しかも、3-5ドルで水を売っていたの。ひどすぎる。”
この時から一年足らずで再びフードイベントを企画し、またも大惨事。時期から察するに、昨年このイベントで大失敗したことにより、ピザフェスティバルを延期したのではないか。
だが、あろうことかオセクレ青年、今年のピザフェスティバルから21日後の9月30日に、ビールフェスなるイベントを予定していた。もちろん、「こいつのイベントには行かないほうがいい」という“警告”があちこちでなされたのは言うまでもない。
現在、オセクレ青年はすべてのチケット購入者に返金することを約束している。この大惨事の原因を、「約束したピザのベンダーたちが遅れてきたり…。見切り発車だった」と語っている。見切り発車、って…。そして「予定していたピザ屋たちが集まらないから、僕がピザをデリバリーしたんだ」。カッチカチの冷たい冷凍ピザみたいなお粗末なピザは、その辺のピザ屋でデリバリーしたものだったのか…。
なかなか人々の怒りはおさまらない。今回のピザ事件、アフリカンフードイベントの比にならないほど尾ひれを引いている。今後、彼がイベントオーガナイザーとしてはやっていけないことだけは間違いない。食べ物の恨みはなんとやら….どころではない。ピザとハンバーガーをこよなく愛するアメリカ人の心を踏みにじった罪は重い。
Text by Sako Hirano