「密輸酒ビジネスを操った女、ウォール街の大金を集めた女」男勝りで華麗な女ギャングたち

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、六話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、六話目。

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***

前回はギャングたちが愛してやまない「食」について、トマトソース、刑務所飯、ギャングのおやつ・カンノーリなど、Gたちの胃袋を解剖した。今回は、男社会のギャング世界で大暴れした女性のギャングたち。犯罪企業をまとめあげた女や禁酒法時代に金を荒稼ぎした女などのプロフィールを公開する。

▶︎1話目から読む

#006「男社会のギャング界で猛威をふるった、“バッドアス”なクイーンたち」

数ある映画のなかでも、“女の狂気”を非常にヒリヒリと描いている一つに『トゥルー・ロマンス』がある。偶然なる手違いでコカインがぎっしり詰まったスーツケースを手に入れてしまった男女の逃避行を中心に話が展開するのだが、マフィアの追っ手に殺されそうになってもニターっと笑い中指を突き立て「F**K YOU」、最後には追っ手を殺り返してしまうヒロイン・アラバマちゃんが突き抜けている(追っ手役を演じたのは、人気マフィアドラマ『ザ・ソプラノズ 』の故ジェームズ・ガンドルフィーニ)。タランティーノ脚本だけあってバイオレンスが甚だしいが、クリストファー・ウォーケン(マフィア幹部役)とデニス・ホッパー(警官役)の気の触れた伝説アドリブシーンだけでも観る価値があるので、是非(すぐ殺されるサミュエル・L・ジャクソンや、ポン引き役のゲイリー・オールドマン、ハッパでトンでいるブラッド・ピットなどが脇役を堅める奇跡の映画だ)。

ついつい饒舌になってしまったが、今回は、男を凌ぐ根性をもつアラバマちゃんのように肝っ玉が座っていた「女ギャング」の話だ。

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ウォール街の金を集めて。犯罪組織を操った女

「『ギャングの世界の女は家庭に入り、家庭を守る』という“組織犯罪界における女性の役割”を堂々と無視した反抗的な女ギャングがいました」。館長の友だちでもあったというその女ギャングの名は、テリー・ダレッシオ。第5話で、刑務所の飯はまずくて無理だ、と書類を改ざんして厨房に立ちイタリア料理をこっそりつくっていたあの女性だ。

 父はニューヨークのスタテンアイランドを拠点としたギャング、兄弟はガンビーノ一家幹部、コロンボ一家に仕えたギャング、と極道の女テリー。生まれながらにしてその暴れ馬の血を受け継いだ彼女には、刑務所クッキングの他にもいろいろ仰天話がある。

「テリーはとてもアクティブで発案力に富んでいました。現に、彼女はある犯罪企業を作りました」。1960年代の話。西海岸から東海岸へ自動車を移動させたいとき、「誰か運転手を求む」と新聞に募集広告を載せるのが一般的だった。これに目をつけたテリーは、フロリダに中古車販売代理店を開業。先のような新聞広告に応え、運転代行の自動車を自分の販売代理店に送りこんでは売りさばいてしまったという。

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テリー・ダレッシオ
Collection of Museum of the American Gangster

「彼女の犯罪企業はこれだけではありません」。あるときは、手下に2台の車でウォール街を巡回させた。平日は毎日、郵便が届く直後にだ。「1台目のクルーが郵便配達人を装い、オフィスビルの郵便物をかき集めます。そして2台目のクルーが郵便物を調べ、高額の小切手を見つけます。メンバーにはサインを捏造できるプロがいるので、小切手に受け取りのサインをし換金してしまうのです」。テリーたちの悪行はやがて密告者によって摘発されてしまったが、この手法を用いて彼女たちは数年間荒稼ぎをしていたという(ウォール街で出まわる小切手、額面は法外だったに違いない)。晩年は犯罪組織からは退きスタテンアイランドでバーを経営していたそう。「人生に後悔はない」と言い残し、数年前、テリーは女ギャングの一生を終えた。

荒海で暴れていた“禁酒法時代のクイーン” 

 禁酒法時代の1920、30年代。ショートボブに丈の短いスカートでキセルをすぱすぱ吸う洒落た女性「フラッパー」がゴロゴロするなか、なりふり構わず密売酒の運搬にセコセコ精を出ていたのが、ガートルード・リスゴーだ。
 
 速記者としてイギリスの酒輸入会社のニューヨーク支社に勤めていたガートルード。やがて禁酒法時代を迎え酒会社にとったらそれこそ危機的状況に瀕していただろうが、この状況を彼女は逆手にとった。バハマ(フロリダ半島と目と鼻の先の島)のナッソーに倉庫を建て、イングランドから船で航送されてきたライ(ライ麦を主原料とするウイスキー。当時安い酒として重宝されていた)をその倉庫へ運搬。箱に入っていた酒瓶を硬い布でできたバッグに入れ替え、一回で運べる酒の量を増やした。禁酒法時代伝説の密売者ビル・マコイも彼女が取り扱った酒を大量に買い込んだという。ガートルードはビルとともに帆船に乗り込み、ロングアイランド沖(ニューヨーク近郊)まで航海する日々だったという。男性中心社会の禁酒法時代、酒の運搬を牛耳り密輸ビジネスに大きな貢献をしたのだ。

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「一つ逸話があります。あるとき航海から帰ってきたガートルードは、ピーコートにジーパン、砂まじりの髪のまま、荒稼ぎした100ドル札をズックにいっぱいに詰めこんで、マンハッタンまでやって来ました。タクシーに乗りいざ支払いというとき100ドル札しかなかったので、両替するためにウォルドルフ=アストリア(超一流ホテル)のフロントに寄ったのです。彼女のことを不審者だと思ったフロントはセキュリティを呼ぼうとしましたが、袋いっぱいの100ドル札を見てスイートルームを提供してあげました」。彼女には「悪口を言ってきた男を取っ捕まえて、銃で脅して命乞いさせた」というギャングな話もある。

女ギャングの元祖? 盗品さばいた極悪おばちゃん

 “刑務所シェフ”テリーも、“禁酒法時代のクイーン”ガートルードも、相当強い心臓をもつ女たちだが、女ギャングの原点といったらユダヤ人のマンデルバウムおばちゃんだろう。19世紀後半、ストリートギャングなどの強盗や泥棒を100人以上束ね、ニューヨークのロウワーイーストサイドに盗品専門のディーラーを経営(表向きは洋品店)。20年もの間で500万ドル(約5億3000万円)から1000万ドル(約10億6000万円)相当の盗品を取り扱ったといわれている。おばちゃんは体重100キロの“巨漢”だったらしいので、それだけでもストリートのゴロツキをひれ伏させる存在感だったに違いない。

 次回は、「ギャングと銃(ナイフも)について」。よくギャングが担いでいるトミーガンは、なぜ愛されている? ギャング映画のドンパチシーンって本当なの? など、Gたちの大好きな武器について紐解いてみよう。

▶︎▶︎#007「ドンパチは映画のなかだけ?ギャングが愛したトミーガンに『グッドフェローズ』の包丁」

Interview with Lorcan Otway

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Museum Photo by Shinjo Arai
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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