「ギャングのあだ名」はどう決めていた?可笑しなニックネーム、FBIと世間のイメージを操った偽名

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、八話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、八話目。

***

前回は、マフィアに愛されたトミーガンや映画『グッドフェローズ』の出刃包丁など、物騒きわまりない「ギャングの武器」について紹介した。今回のお題は「ギャングスターネーム」。ラッキー・ルチアーノの“ラッキー”はニックネーム、大物イタリアンマフィアのフランク・コステロは“偽名”だった。Gたちの名前にまつわる逸話を紹介しよう。

▶︎1話目から読む

#008「バナナにエッグ。もはやギャグなあだ名に、アイリッシュ系の偽名。ギャングネームのあれこれ」

ジョニー・ソーセージにジョー・バナナ。“うまそう”なギャングのあだ名

ずっと勝手に疑問に思ってきたことなのだが、なぜギャング映画の登場人物に「ソニー」が多いのか。『ゴッドファーザー』に『フェイク 』、『ブロンクス物語』などのギャング映画には「ソニー」という名前のギャング野郎が出没する(70年代カンフー映画でアメリカでも大人気だった日本を誇る映画スター、千葉真一の愛称も“ソニー千葉”だが)。フランクやトニー、ジミー、トミーなどの毎度おなじみギャング名に連なる、ソニーという聞き慣れない名前。ギャングの世界でソニーはそんなによくある名前なのか。長年、自分のなかで勝手に温めていた疑問をアメリカンギャングスターミュージアム館長にぶつけてみた。

「“ソニー”という名前は多いですが、なぜ多いのかはわかりません」。わからなかった。ただ、英語名で一般的な“アンソニー”を略して“ソニー”にしたり、年下の男性や少年のことを親しみをこめて呼ぶ“ソニー(sonny:坊や、息子)”が語源だということはわかったので、満足だ。

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 ギャングの名前やニックネームは奥深い。歴代イタリア系ギャングには、とても可笑しなミドルネーム(あだ名)を冠している者がいる。たとえば、シカゴアウトフィットのボスに君臨したトニー・“ビッグ・ツナ”・アッカルド。ビッグ・ツナは文字通り「巨大なマグロ」の意味で、釣り好きな彼があるとき180キロの巨大なマグロを仕留めたことからつけられたあだ名だ。他にもおもしろニックネームといえば、NY五大マフィアのひとつ、ジェノヴェーゼーファミリーの幹部をつとめたジョニー・バルバートのニックネームは“ジョニー・ソーセージ”、同一家のアンダーボスだったヴェニーロ・フランク・マンガーノは、“ベニー・エッグ”、ボナンノ一家のジョセフ・ボナンノは“ジョー・バナナ”、シカゴアウトフィットメンバー、ウィリアム・ダッダーノは“ウィリー・ポテト”。ガンビーノ一家のボス、ポール・カステラーノの苗字はカステラを思い出させてくれるが、これはれっきとした本名だ。
 おいしそうな名前ばかりが集まってしまったが、食べ物のほかにも、シカゴアウトフィットのヒットマン、チャールズ・ニコレッティは“ザ・タイプライター”、ボナンノ一家の殺し屋トーマス・ピテラは“トミー・カラテ(空手)”、そしてもっとも有名なギャングのひとりである“ラッキー”・ルチアーノ(本名はサルヴァトーレ・ルカーニア)。ラッキー(好運)は、ギャング抗争で瀕死状態になったものの生き延びたことからつけられたという。

 いったい誰がこんなふざけたニックネームをつけているのか。「ギャング同士であだ名をつけあうこともありますが、よくあるのが、警察やFBI、新聞が勝手に命名することです」。たとえば、ニューヨークのヘルズキッチン地区を縄張りとしていたアイルランド系ギャングのグループ名「ザ・ウェスティーズ(The Westies)」。「警察が“ザ・ウェスティーズ”と名づけました。実際彼ら自身は自分のグループのことをウェスティーズとは呼びませんでしたね。もちろん自分たちのグループをギャングだとは認識していましたが、特に名前もなく、たんに“一緒に法を犯す仲間”としか思っていませんでしたから(笑)

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 ニックネーム考案をたのしんでいるのは、ギャングメンバー同士もだ。ギャングには互いにニックネームをあたえるときにちょっとした掟がある。実際とは違う特徴をあだ名にするのだ。「痩せているジョーには、“ファット・ジョー(でぶっちょジョー)”、おしゃべりなボブは“クワイエット・ボブ(だんまりボブ)”。チビのジョーイは“のっぽのジョーイ”という感じです」。ギャング流の洒落といったところか。

アイリッシュ風の偽名をもつギャングたち。隠されていたアメリカの闇

 ニューヨークのマフィア「コーサ・ノストラ」のボスで、政界とのパイプも太く“暗黒街の首相”と呼ばれたギャング、フランク・コステロ。彼の本名はフランク・コステロではない。聞いただけでイタリア系だとすぐにわかる「フランチェスコ・カスティーリャ」が本名だ。しかし彼は、いかにもアイルランド系といった「フランク・コステロ」という偽名を使った。アル・カポネの部下だったヴィンチェンツォ・アントニオ・ジバルディもジャック・マクガーン、ニューヨークのマフィア、パオロ・アントニオ・ヴァッカレリもポール・ケリーと、アイルランド系の名を名乗った。「特に1920年代、イタリア系とユダヤ系のギャングがアイルランド系の仮名をもつことが多かったのです」

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イタリア系の本名以外にアイリッシュ系の偽名を使いわけたフランク・コステロ。

 一体なぜ。背後には、実に多国籍のアメリカらしい一筋縄ではいかない複雑な事情が絡んでいた。一言でいうと「白人のなかでの“肌の色”」である。白人の肌の色は白では? と疑問に思うかもしれないが、ここでは“どれだけ白いか”の話だ。褐色のイタリア系に比べるとアイルランド系は肌の色が白い。つまり、イタリア系よりもアイルランド系の方が、白人でも上層にいるゲルマン系やWASP(アングロサクソン系プロテスタントの白人、主にイギリス系)により近い、ということで、警察など表向きにも好印象になる。そのためカトリック系のごりごりイタリア系ギャングはアイルランド系の名前を使用することで、“肌の色が白ければ白いほど善”と無意識に感じる警察や政府、世間を操っていた。我々日本人からすると、イタリア系でもドイツ系でもアイルランド系でも白人は白人かもしれないが、白人には白人なりの階級に左右されているのだ。

 次回は、イタリア系ギャングが交わす“沈黙の掟”「オメルタ」について。オメルタで定められているルールや、オメルタを破った命知らずのマフィア、ジョセフ・ヴァラキの話をしよう。

▶︎▶︎#009「マフィア入団に命をかける構成員。10の掟の拘束力」

Interview with Lorcan Otway

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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