「YouTubeも、ゲイであることも、ドラァグパフォーマンスも認めたい」母と息子。“多様性”の時代の親子関係は?

一人より二人が、心強いよね。
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親はどこまで子どもに理想を抱くもの?そして、子どもは親の理想にどの応えたらいい?
特に、いまの“多様性”の時代に、子どもが持ちうる価値観・希望・選択を、親はどこまで尊重できるものなのだろう。

ママのおかげで「自分らしく生きても嫌われない」って思える

日本生まれ、海外育ちの23歳(取材当時の2022年5月)、Stan Fukase(スタン・深瀬)。そして、その母、通称スタン・ママの親子関係は本当にいい。YouTuber、ドラァグパフォーマー、そして、ハーフ、ゲイ。世間が抱く「普通」とは違う息子だが、そんなことは気にせず、自由に羽ばたくその姿を母は心からリスペクトし、丸ごと愛しているという

worldofextra(ワールド・オブ・エクストラ)の名前で開設されたスタンのYouTubeチャンネルにはすで50万人を越えるチャンネル登録者に(2023年取材当時。現在は80万人を越える)。日本を拠点でありながらも動画は英語なこともあり、フォロワーの多くは海外在住だという。
おもしろいのは、動画に度々「ママが登場」すること。ファンからは「ママもYouTubeチャンネルつくって!」の声が多く、それに応えてママもYouTubeチャンネルworldofmama(ワールド・オブ・ママ)を開設。現在では、スタンにサポートしてもらいながら、ママもYouTubeの撮影、編集を奮闘中。ママとスタンの個性的なキャラクター、動画内での何気ないやりとりがおもしろい。

※取材は2022年に実施したもの※

「普通ってものはないと思います。自分の普通と、他の人の普通は違うから」

 動画では和気あいあいとした親子の様子が見受けられるが、そんな2人の23年間は、どういうものだったのだろう。ゲイでドラァグパフォーマーで、YouTuberとして生きていくことを決めたスタンにも、医者を志し勉学に励んできた幼少期、医学部に入って困惑した時期などもあったのだとか。

HEAPS(以下、H):コロナの影響で、ママさんとスタンの2人での生活がはじまったと聞きました(後、一番下の弟も加わり3人暮らしに)。

Stan(以下、S):日本での大学進学のために僕が日本に帰国して、その時、ママは海外で仕事してたんですけど、コロナの影響で急にママも日本に帰ってこないといけなくなっちゃって。

H:それでスタンが住むアパートにママさんが急遽滞在することになったと。

Mama(以下、M):私、普段は海外で働いていて、あっちこっち行ったりしていて。でも、三人兄弟のなかでなぜかいつもスタンといつも一緒にいるんです。

H:ママさん、ワールドワイド!ふたりの毎日どんな感じですか?

S:なぜかいつもお互いわかり合えてるよね。どっか行こうとか、無理に計画はしない。いつも自然に一緒の趣味を持ったりするよね。

M:2人とも忙しいから、話さないときは数日間話さなかったりもするんです。お互いやらないといけないことに集中したりして。けど、いつも趣味が合うんですよね。

H:最近は、どんなことにハマってるんですか?

M:いまはネックレス作りにハマってて。その前は一緒にジムで鍛えたり、走ったり。

S:毎週末プールとかも行ってた時期もあったよね。でも、多分僕らがいま一番ハマってるのはYouTube。

M:そうです。2人ともYouTubeハマっちゃいましたね(笑)

H:スタンのチャンネル登録者数は約50万人、ママさんのチャンネル登録者も約10万人に(2022年5月現在)。親子揃って人気YouTuber。

M:スタンがYouTubeのアカウントをつくってくれたんです。最初にあげた動画がバズっちゃって。これは続けたほうがいいなと思って、頑張って、なんとか…(笑)。YouTubeってやりたくても、なかなかできないじゃないですか。そこを頑張っちゃうのが私の性格なのかな。

H:撮影・編集方法はスタンからみっちり学んだそうで。

S:最初は僕がママのチャンネルの分も、撮影・編集してたんだけど、僕も忙しいから。「僕もうできない!」ってなったんです(笑)。そのときママはYouTubeにハマってて、「じゃあ自分でやる」って言うので、僕が撮影・編集の仕方とか教えたんですよね。カメラも僕のお古をあげて。それでいまは自分で撮影して、編集して、字幕も自分でやるようになったんだよね。

M:土日YouTuberです。月から金までは仕事で忙しいので、金曜の午後5時以降はもう頭を切り替えて。仕事を置いといて、とにかく撮影・編集をするんです。

S:でも、YouTubeになると僕結構厳しいんです。いつもママの動画を僕が最後に確認するんですよ。「ここの編集すごい汚い」「この撮り方だめ!何も見えないじゃん」とか言って(笑)。その横でママはいつも一生懸命ノートとってる。

H:職場みたい(笑)

M:同じことを何回も言われるのはやっぱり悔しいので、全部メモして、何回も確認して。

S:でも、たまに「この前言ったでしょ?」とか僕に言われちゃうよね(笑)。

M:…。そんなんで、あの、なんとかやってます(笑)。自分でやってみて、YouTubeの大変さを身に染みて感じてます。「Youtubeなんて簡単だ」ってみんなに言われるんですけど、自分で企画して、撮影・編集してって全部やるわけですよ。批判とかも全部自分にくるわけですからね。いや、大変ですよ。

H:1人でYouTubeをするより、親子でYouTubeするいまのほうがお互い心強いですか?

S:そうね。

M:そうなの? まあ、でも助けてね。企画考案が1人じゃ絶対できないんですよ。私が企画考えても、「それじゃない!」とかってスタンに言われるんです(笑)。

S:やっぱり僕のほうがSNSを使ってたりするから、流行とかわかってると思うんですよね。ママって「折り紙の折り方についての動画をつくりたいな」とかって言うんです。でも正直、誰も見なさそうじゃない?って僕思っちゃうので(笑)。「違うな。今日はそれじゃなくて、セブンイレブンのモッパンだな」って僕がアイデアをだしたりもします。

H:定期的に新しい企画考えるのって大変そうです。

S:でも、ママの企画もいいのあるよ!オカメの化粧したやつとか。

M:やだ。でも恥ずかしくない? 次はアンパンマンもやりたいな。おもしろいことするの好きなんです。昔からそうなんです。それは歳とっても変わらないですね。

S:ちょっと!歳とってないけどねん❤︎

H:幼い頃のスタンはどんな子どもだったんですか?

M:泣き虫。もうずーっと泣いてた。学校に送りに行っても、「ママ行かないで!」ってずっと泣いてるんです。迎えに行っても、先生に抱っこされてまだ泣いてるんですよ。
体も弱かったんですよね。物心ついてからはずっと「医者になる」って言って、一生懸命勉強する真面目な子でした。でも、その代わり勉強を頑張って、ルールを守れば、好きなことはなんでもやっていいって私も教えていたので。12歳くらいの頃も、YouTubeをやったりしてたよね。

H:12歳からYouTubeって早っ。

S:その時も趣味でYouTubeやってたんですよ。お金を稼ぐためにやってたわけではなかったんですけど、ありがたいことにお金を稼ぐことができたので。そのとき、海外に住んでたんですけど、勝手に自分の部屋を工事してたこととかもあります(笑)。ママ、家に帰ってきてびっくりしてたよね。「なに工事してるの!?」って。

M:おかげさまで、10代からはお小遣いあげたことがほぼないんですよ。

H:ママさんの教育方針も気になるところです。

M:自分の幼い頃は、やりたいことをやらせてもらえる機会がなかったんですよね。そのぶん自分の子どもたちにはやりたいことをやらさせてあげられたいと思ってたんです。だから、うちのルール三箇条があって、それさえ守ればなにやってもいいよっていうふうに教えて育てました。でも、好きなことやったら、責任は自分で負うんだよっていうことも。

S:その3つはなーに?

M:覚えてるでしょ!?

S:法律を守ること。自分の体を大事にすること。他の人に迷惑をかけない。

M:幼い頃はかなり厳しくしつけをしました。悪いことをしたら外に出したりもしてたことがあるくらい。そのおかげで、動画とかではバカやってても、素はしっかりした子に育ってくれたんだと思います。だから、私も安心して、一緒にバカやっていけるし。それはお互いわかってる。

H:2人の信頼関係があるからこそですね。片方の理想を押し付け合うのではなく、お互いを理解し合う。特に、日本は「普通じゃないとダメ」みたいな風潮があるから、親も子どもを普通にさせようと必死になっちゃうケースが多かったりもします。

M:やっぱり親ってこういう子どもになって欲しいってあるじゃないですか。でも、子どもって絶対そうじゃないんですよね。そういう風に見せたりするんですけど、実は心のなかでは違和感を感じてたりすると思うんです。だからそういうのを押し付けないお母さんでいたい。

H:多様性の考え方が一気に進む社会でいま親は自分たちの子の選択にどのように向き合うべきなのか。これ悩んでる親、いっぱいいると思います。

M:それはもう、ただひとつだけ。否定しないこと。せっかく子どもが話してくれたのに、親にそういう姿を見せてくれてるのに、それを頭ごなしに「ダメ」とか「やっちゃいけない」とかって言ったら可哀想ですよね。守ってあげれるのは、親しかいないんですから。

H:スタンがカミングアウトしたときは、ママさんはどういう反応をしましたか? 実際にはどういう気持ちだった?

M:「あ、そうなんだ」って感じ。なんかそこに重い感情ないんですよね。やっぱり私そういうところオープンマインドで、国籍とか性別とかって気にしないので。

S:ママも子どものとき、女のものとか、男のものとか気にしなかったって言ってたよね。いつも男の子みたいな格好して、いじめられても自分らしくやってたし。

H:保守的な国、日本で息子がゲイとして生きていくということに対して、心配する気持ちとかってありました?学校や職場で差別されないかとか。

M:もうね。この子は心配がなくなるくらい強いんですよ。自分のセクシャリティーを隠すんじゃなくって、自分でどんどんアピールするんですよね。学校でいじめがあっても、自分で先生に行ったりして、自分で解決しちゃうし。

S:僕、自分に自信を持ってるから本当に強いんだですよね。大学生のときに、英会話教室の先生のバイトをやってたんですけど、そこで「男が化粧ちゃダメじゃない?」って言われて。その場で、「じゃあ、辞めます」って言って辞めたこともある。

人が自分らしく生きることは、悪いことじゃないと思うんですよ。みんな普通に慣れすぎちゃってると思うんですよね。「自分らしく生きても嫌われない」ってことをもっと多くの人にわかってほしい。普通じゃないからってダメなんてことはない。みんなそれぞれ色んな可能性を持ってると思うんです。

H:さすがのママさんも、幼い頃から医者になるのが夢だったスタンが「医者になるのを辞めて、有名になる」って言われたときは少し落ち込んだそうですね。

S:ねー、もう本当6歳からずっと医者一筋だったもんね。海外で医学部に通ってて、病院でも1年間働いてたりもしたし。でも、働いてみて思ったんです。僕には医者が合ってないって。自分がもっとハッピーになれることがしたかった。

M:スタンがある日、私に言ったんです。「ママ…。幸せな人生ってなんだろう」って。そしたら、その数日後には「もう医者になるのやめて、僕日本に行く」って突然決めてて。日本に帰る手配とか、早稲田大学に入る準備とかも勝手にしてて。
医学部を急に辞めて、「有名になる」って言われて、大丈夫かなっていうのは正直ありました。でも、自分で進む道を次々と決めていく姿をみて大丈夫だなと思ったんです。でもやっぱり、少し落ち込みましたけどね。

S:でもママ、落ち込んでるところも見せなかったじゃん。これは僕の問題じゃなくて、ママの問題なんだって言ってたよね。「医学部辞めないで」とかも言わなかったじゃん。「そうなんだ、じゃあ頑張ってね!」って優しく言ってくれた。

H:息子を理解しようとする。反対しない。簡単に聞こえて難しい。スタンは、ママさんに感謝してるってところは?

M:何よ。

S:えー、全部。ママのおかげで、僕もこういう人になれたので。毎日一緒にいて、色んなことをママから学んでます。だから、そういうとこいっぱいありがたい。こんな僕をリスペクトしてくれて、ありがとう。…(隣で涙ぐむママさんを見て)泣かない!!

M:だって泣きそうなんだもん。もう、本当に幸せですよ。もう最近ずっと言ってるんです。幸せだなって。

H:これからどんな2人でいたいですか?

S&M:変わらないよね。

S:僕も大人になるのでママと一生一緒に生活することはできないと思うけど、もし離れたりしても、この関係はなくならない。これからも仲良く、買い物とか、日々の出来事とか話せる仲でいたいですね。
ママの目標は100歳まで生きることなんだよね。ママが100歳のときは、僕もババアになってるから、そしたら一緒にお茶でも行きましょう❤︎。

M:そうですね❤︎(笑)

Interview with Stan Fukase and Mama
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Images via Stan Fukase and Mama
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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