“ダメ、ゼッタイ”のイメージとは、もうおさらば。旨味のある一大産業として認識されるようになり、そのしたり顔が目に浮かぶ。「マリファナ産業」の話だ。
マリファナミルクにマリファナの名刺、マリファナの家、マリファナ写真素材サイト。潤う市場を土壌に、マリファナビジネスの伸びしろはまだまだ計り知れない。その旨味をみすみす見逃すまいと、ビジネスマンもマリファナビジネスに夢中なわけだが。日を増すごとに増える参入者、なかでもここ最近目立つのが人生の“大センパイたち”…。ご年配の方々のマリファナ起業家が増えているって、マジ?
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じいばあ、第二の人生はゆるりマリファナビジネスで
昨年度の米国マリファナ産業、収益は医療用・娯楽用合わせ、およそ67億ドル(7477億円)に達した。前年比で30パーセントも伸びたというから、その勢いたるや。終わりの見えないその成長の追い手となるように登場しているのが、「年配のマリファナ起業家」である。新たな成長産業と形容されるマリファナビジネスに、リタイア後の“第二の人生”を謳歌する50代後半から60代が続々参入してきている。
おばあちゃんのマリファナパイプショップ
若者で賑わうニューヨークのイーストビレッジ地区に一昨年オープンしたパイプショップ*「ヴィレッジ・グラニーズ(Village Grannies)」。“Grannies(おばあちゃん)”の通り、経営するのはヴェレッド(56)とジバヤ(60)という初老女性二人組だ。
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パイプショップといえば、ガラス張りで蛍光灯ピカピカな、なんとも“怪し〜い、いかがわし〜い”イメージがあるが、ここはまるでアートギャラリーのような洗練さ。ジバヤは映画や広告などのクリエイティブディレクター、ヴェレッドは元ジュエリーデザイナー、「退職のことも考えて」かねてから構想していた“いままでにないスモークショップ”をオープン。ちなみに彼女たちと同世代の50代、60代女性の利用客も少なくなく、「年配女性客の多くは、お酒にとって替わる手段として楽しんでいるわ。なぜなら、マリファナの方が健康的にベターでしょう」。ニューヨーク・マガジンの「ニューヨークで行きたい店」に選ばれるなど、注目を集めている。
*マリファナを吸うための喫煙器具を売る店。
まだまだあるよ、グランマたちのマリファナプロダクト
パイプショップばあちゃんたちは氷山の一角。医療用マリファナ常用者だったカリフォルニアの女性(62)が手がけるのは、「マリファナを入れても匂わないバッグ」。ティーンのように罪悪感たっぷりにこそこそ吸わなくても、「洗練された大人の女性らしく、上品なバッグからマリファナをサッと取り出していいじゃない?」。これを実現するため、マリファナ特有の匂いを抑える加工済みのハンドバック・クラッチバッグブランド「アンナビス(Annabis)」を立ち上げたそう。うーん、カをアに変えるだけで急に女性っぽさと高級感。彼女、前職のマーケティング・コンサルタントの経験を活かしつつ、マリファナ産業へとキャリアチェンジに成功している。
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その他にも、年内には総売上1200万ドル(約13億円)を叩き出すといわれるTHC**入りグミ「ワナ(Wana)」を開発した女性(59)に、CBD***入りの石鹸やボディクリーム、リップクリームのブランド「マ・クッシュ・ナチュラル(Ma Kush’s Natural)を立ち上げ、マリファナの栽培から製造まですべて自ら行う元調剤技師・営業職の女性(66)など、調べれば出るわ出るわのご年配マリファナ起業家たちだ。
*マリファナを吸うための喫煙器具。
**大麻(マリファナ)の主な有効成分
***“大麻に最も多く含まれる成分「CBD(カンナビジオール)」。いわゆるハイ状態”にさせる成分(THC)を含まない。
確かに抵抗はないのかも。「ラブ・アンド・ピース」を肌で感じた世代
一見食べあわせの悪そうにみえる「ご年配」と「マリファナ」。背景には、マリファナ合法化の事実はもちろんのこと、彼らが育った時代も大きく関わるといえるかも。というのも、年配マリファナ起業家は1946年から64年頃までに生まれた「ベビーブーマー」世代。つまり彼らの多くは、60・70年代の「サマー・オブ・ラブ」や「ヒッピーカルチャー」 を多感な10代に経験している。高齢マリファナ起業家たちが、その昔マリファナを燻らせるヒッピーだったかどうかは定かではないが、ヒッピー文化と切っても切り離せない“ドラッグ”という存在を肌で感じた(そして肺に吸い込んできた)世代にとって、マリファナに対する抵抗感はほかの世代に比べて薄いのかもしれない。
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また、モグりのビジネスはさておき、マリファナビジネスは大々的に展開できるようになってまだ数年と歴史が浅い。「数百年の伝統と成功例がある産業に比べ、若いマリファナ産業には(いい意味で成功などの)規範がない」との声もあるように、年齢・性別などの隔たりなく参入できる敷居の低さが売りだ。合法化も進み、ビジネスも勢い増すなか、あらかじめ決められた約束のように、マリファナフレンドリーな世代が絶妙なタイミングで退職を迎える。当面、「緑の葉っぱ+年配起業家=新たな成長産業」で間違いない。
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Text by Shimpei Nakagawa
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