世界中、特に大都市では家賃がバカ高く釣りあがり、手頃な値段の寝床が足りていない。近年、“ホームレス化”する大学生が増えているとも聞く(知人宅をカウチサーフィンする若者も)。もっと住居の数があればいいのに。「いや、実は住める場所、探したらあるんです」
最近話題となっているこの近未来的な物体。なんだ、また現代アートやインスタレーション、ポップアップなんちゃらの類だろう…と思いきや、これは住居だという。もう一度言うが、これはちゃんとしたお家だ。
Photo by Jim Stephenson
若き建築家グループ仕掛けの「屋上にマイクロアパートメント」
ロンドン中心街、テムズ川沿いにそびえるアーティストスタジオの屋上に、銀色に光るモノが出現した。エアダクト? なかは空洞?
正体は「マイクロアパートメント」。人が住める空間が広がっているというのだ。
屋上というオープン空間にマイクロアパート。そんな新しい都市住居の概念を生みだしたのが、ロンドンの若き建築家グループ「PUP Architects(ピー・ユー・ピー・アーキテクツ)」。これまでもツリーハウスならぬツリーミニライブラリーや、川の土手にシティーファームなど、画期的な空間デザインをアーバンライフに組み込んできた。その彼ら、今回は家賃の急高騰に嘆くアーバンシティと市民に対し「実は創意工夫でこんなところにもアパート作れますよ」。デッドスペースにクリエイティブかつサステナブルな住居アイデアを、「ゲリラ・ハビテーション(住居)」というコンセプトで提案する。
Photo by Jim Stephenson
「ゲリラ」という言葉には、どうしてちょっとおっかないイメージがつきまとう。しかし近年、廃駅跡でゲリラアート展示会や、勝手に荒れ地をお手入れしてしまうゲリラガーデニングなど、都市で繰り広げられる“ソーシャルグッドなゲリラ”が多発。そして、この屋上アパートメントも新しいグッド&クリエイティブな“アーバンゲリラ”だというのだ。
「屋上には冷暖房空調設備(HVAC)設置など(英)政府の許可なしで設置や開発が認められています。しかし、その割に屋上スペースは十分に有効活用されていないと感じていました。市の建物規制にきちんと則れば、屋上にアパート建設も不可能ではない」と、プロジェクトを率いる建築家のセオ・モロイは話す。
むき出しの木造梁にリサイクルパック
この屋上マイクロアパートメントは、英デザイングループ主催の“クリエイティブでサステナブルな住居アイデア”コンテストで見事優勝。3階建てアーティストスタジオの最上階から螺旋階段で登れるようになっており、大人6人もいればぎゅうぎゅうとなる小ささだ。中は木材の梁(はり)がむき出しの素朴な造りで、SFワールドを醸し出す建物側面はリサイクルされたテトラパック(飲み物の容器に使用されている素材)と、サステナビリティにも気を配る。
Photo by Jim Stephenson
Photo by Jim Stephenson
Photo by Jim Stephenson
ミニマルで可愛らしいフォルムのアパートにスーツケース一個で即日入居…したいところだが、残念ながらまだ完璧なアパートとしては機能していない。「実は、まだ作り手のぼくも一晩泊まったことはないんです」。
設置可能なものの断熱材をまだ入れていないため、寒い冬の期間は住むことができない。水道システムも整備されていないため、シャワーやトイレ、キッチンもなし。さらにアクセスは最上階からのみ…と、実現性はあるものの、まだまだインフラ整備段階、現時点ではまだ快適な夏の東屋(あずまや)というところだ。さらに重量耐久性など安全面の徹底なども課題にあげながらも「制限のない“自由な”プロジェクトですからね。技術的に乗り越えなければならない問題はたくさんありますが、将来は人が長期間住めるようにどんどん改良していきたいです」と話す。
Photo by Jim Stephenson
Photo by Jim Stephenson
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大都市の小さな“隠れ”デッドスペースを見つけよ
屋上マイクロアパートが実現すれば、異常な地価高騰に喘ぐロンドンだけでも何千もの住居を作ることが可能だという。考えられる居住者は、マイクロアパートというだけに独身ミレニアルズが多いだろう。キッチンやバスルーム、出入り口は共有になったとしてもシェアハウスに慣れている彼らなら、問題なしだ。となると、若い世代が重視する“見てくれ”も重要要素となる。デザインとともにリサイクル可能な素材や廃材を使用するなど「サステナビリティとのバランスが重要ですね」。
Photo by Jim Stephenson
Photo by Jim Stephenson
屋上アパートメントだけでなく、都市に隠れているデッドスペースを人が過ごす空間にアップグレードする動きは目立っている。スペインでは、あるデザイナーが高架下のくぼみに宙に浮くようなかたちで、吊り下げ式の隠れアーティストスタジオを手造り。これもゲリラ・ハビテーションの一例と言えよう。「どの都市にも価値が見出されていない小さな“隠れ”未使用スペースが、まだまだ残っていると思います」。アパート建設に関しては、「ぼくたち建築家と大工さん、ボランティアたちで協力し、ものの一ヶ月ほどで建ててしまいました。自分たちの手でぱぱっと作れてしまうようなDIY要素がありますね」。ゲリラ住居は、何十年も続く長期的に持続可能な家、というよりかは、短期間でDIY建造できるテンポラリーの住処といったところだろう。
スペインの高架下アーティストスタジオ
Image via Lebrel
Image via Lebrel
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規制スレスレのところまでで作られては消える(かもしれない)ゲリラ住居。特に消費が早くヴィジュアル・センシティブな若者世代を中心に、「デザインの良さ・サステナビリティ・DIY」で、突発的に挑戦的に、世界中の都市生活スタイルを変えていくのだろうか。
Interview with Theo Molloy
PUP Architects
Photo by Jim Stephenson
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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine