女性がカラフルにしていると、子どもっぽいってなるの、どうでしてだろうね?」
カラフル=秩序がない、アンプロフェッショナル?
「“ウルトラ”マキシマリスト」と自ら名乗るセットデザイナー/アーティスト、Lydia Chan(リディア・チャン)、30歳。カナダ生まれ育ち、現在はロンドンを拠点に活動中。これまでにはVivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウェストウッド)、Stella McCartney(ステラ・マッカートニー)、Vogue China(ヴォーグ・チャイナ)、Gucciとコラボレーションをしてきた。
ウルトラマキシマリストだから、手がける作品にはとにかく多様な色が使用されている。「いろんな色が混ざって秩序がない、あのごちゃごちゃが最高に大好き!」。昨年3月にロンドンで開催されていた個展『Your Ship Has Landed(ユア・シップ・ハズ・ランデッド:あなたの宇宙船は到着しました)』でも、たくさんの色と形を使用しカートゥーンの世界のような空間を演出した。
色を愛するからこその悩みもあるそうで。「女性アーティストが、色を使って真っ当さを表現するのは難しい。色ってやっぱり子どもが好きなもの、たのしい、幸せ、楽観、みたいなイメージが強いんだと思う」。リディア曰く、歴史的にみてもカラフルな色を扱い成功しているアーティストは男性には多いものの、女性アーティストはほとんどいない。
女性アーティストとしてのカラフルとのありかた、社会のなかでのカラフルのあり方を、カラフルを愛してやまないリディアと一緒に考えてみる。
HEAPS(以下、H):(あれ…。取材の予定時刻過ぎてるけれど、まだかな)
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Lydia(以下、L):(20分後)。ごめんね。仕事からの帰り道に電車が途中で止まって、遅れちゃった…!
H:大丈夫! では、早速。マキシマリストを超える“ウルトラ”マキシマリストと自身を称するリディア。“ウルトラ”だって認識しはじめたのは、いつ?
L: まずね、子どもの頃は、みんなマキシマリストじゃない?子どもって、いろんな色、カラフルなものが好きでしょ。オモチャやお菓子がそう。みんな、マキシマリストとして生まれて、大人になるにつれて、“普通になるよう術”、“周りに馴染めるようにする術”を学んでいくんだと思う。
H:その術のひとつに、カラフルからの卒業があるという。確かにね。
L:かくいう私は、物心がついたときからいままで、ずっとマキシマリスト。大学時代に、初めてミニマリストという言葉の意味を知ったときは「私には絶対無理」って思った。
H:どのあたりが好きじゃない?
L:ミニマリストってなんだか、真っ白な部屋の中に自分がひとりがいる感じがして寂しいじゃん?
H:逆に好きなのは。
L:たとえば、プリントされていたり刺繍が施されていたら、すごく自分らしさを感じる。パターンがプリントされたものとか。小さいものがいっぱい集まってる様子に惹かれる。
H:私もスマホやパソコンにはいつもシールペタペタ貼っちゃいます。
L:ひとつひとつの主張は小さくても、色んなものがいっぱい集まれば、新しいものができあがるあの感じがいいよね。子どものとき以上に、大人になったいまの方がマキシマリスト度が増したもと思う。
H:いまは「選んでいる」という実感があるからこそ、そう思うのかもしれないね。いまも、カートゥーンやモンスターも、好きなんだよね?
L:(大好きなものの周りに囲まれているとき)世界観に存分に浸るのが好き。ストーリー性があるモノが好きなんだ。カートゥーンやモンスターはキャラクターならではの設定や性格がある。
H:個展『Your ship has landed』でも、これでもか!ってくらいのたくさんの色を使用していました。ここで、思うことがあったようで。
L:反響もよかったし、多くの人に楽しんでもらえたからうれしかったんだけど…。やっぱりここでも感じたのは「色は真剣に捉えられない」ことがある、ということ。カラフルでワクワクするものだから、子どもたちから特に反響がよくてそれはとても喜ばしいんだけど、大人たちもそうだ、ということ。「インスピレーション、コンセプト、ストーリー」などの設計に、興味をもってもらいづらい。誰にとっても、カラフルは“ただの表現”になってしまう。
H:なるほど。ちなみに、どんなコンセプトだったんだろう?
L:パンデミック期間はみんなずっと家にこもっていたでしょ。家のなかは白や茶色つまらない色だらけ。「私たちはいま(パンデミック期間)宇宙船のなかにいて、新しい世界に到着するのをずっと待っている。宇宙船のなかは白や茶色、何もかもがデジタル化されている。自然の緑がどんなものだったかはもう覚えていない。やっと宇宙船が到着する。足を踏み入れたその世界は、眩いくらいのカラフルな世界!」。
H:いいですね。そういった設定の表現と、カラフルさって、バランスが難しい?
L:うん。カラフルすぎたら子どもっぽい、シリアスすぎたら、ファンタジーな要素や色が失われてしまう。丁度いい具合を見つけないと。女性のアーティストがカラフルな色を取り扱うというのは、さらに難しさが増すとも感じてる。
H:というと?
L:世の中で活躍している、多様で派手な色を用いるアーティストの多くは男性。たとえば、村上隆とか。長いアートの歴史のなかで、超カラフルな制作をして成功している人はほとんどいない。女性が手掛けるカラフルなアートは、アンプロフェッショナルに思われる性質があるんだと思う。
H:うーむ…。リディア自身は、プロフェッショナル性とカラフルのバランスを取っているの?
L:色の使用量の調節。あと、ライトの調節とか。そういう方法でバランスを取るようにしている。。アーティストとして活動しはじめてから、いまもずっと模索している、難しいことのひとつ。
H:「カラフル=子どもっぽい」はアート業界以外にもいえますよね。派手なカラーの色を着ると「変わってる」になる気もする。異色枠になるというか。
L:社会に溶け込めるような服、あまり目立たないような服を着るのが社会での礼儀みたい風潮あるよね。大人になって、みんな遊び心を失っていく感じ。どんどん、人にできるだけ気づかれないような服装になっていく。
H:大人になってからの色は、それだけである種の不服従さはあるともいえますね。“問題ない”とされるカラーではない色を選ぶという時点で。
L:色が一度にたくさん使われていると、秩序がないというイメージが持たれやすいのもあるよね。いろんな感情が一度に溢れている感じでさ。ごっちゃごちゃの状態、みたいな。
H:あー。
L:でもね、何も主張がないより、秩序がないと思われる方がまだ良いと、私は思ってる。
H:作品もそうだけど、普段はどんな服装なの?
L:ありがたいことに、クリエイティブ業界で働いているから正直みんな私の服装をあまり気にしないから、着たいものを着てる。まわりがベージュや紺色、黒の服を着ているときも、私はいつもカラフルな服。でもおかげで私は目立つし、カラフルな色たちが私を特別にしてくれる気がする(笑)!
H:すごくポジティブ。すきです。
L:私はもうすぐ30歳で、まだまだカラフル。私が街を歩いている様子は、巨大トマトが歩いているみたいだと思う(笑)。たまに、そろそろちゃんとするべきなのかなとか、考えたりもするけど…まだまだ色に夢中になっていたい。
私にとっては、空気や水と同じくらいに、カラフルでいることは大事。空気がないと死ぬように、色がないと死んじゃうと思うなあ。
Interview with Lydia Chan
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Images via Lydia Chan
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine