先日ツイッターに「HEAPS編集部の2009-2012」と題した動画を投稿。「2009年から2012年にもう一度戻ってみたい人たちが集まるフェイスブックグループ」の取材記事にインスパイアされ、編集部インターンがその3年間の時代に愛用していたものを集めました。実家の押入れから懐かしの品を掘り出したり、近所のレンタルショップで当時好きだった映画やドラマ、アルバムと再会したり。とにかくエモかった。当時の仲間と居酒屋で思い出話に花を咲かせることが難しいいま、代わりにあの頃の記憶を1冊に綴るのもいいかも。
HEAPSでは毎月、2冊のインディペンデントな出版物を取りあげています。1冊は雑誌から、1冊はジンから。いずれも個人たちの独立した精神でつくられる出版物だが、特にジンからの1冊は、時代性、社会性、必要性などの存在意義も問わずに、世界一敷居の低い文芸・ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」のおもしろさを探っていきます。
さて、今月の1冊は「明日からあなたの身の回りの『もの』の見え方を変えるジン」。
縛られないものの見方を表現する
『gitai #01 ハムの惑星』
作った人:小瀬古智之
表紙はハム。ページをめくってもハム。パラパラ見るだけだとハムの特集雑誌かと思う。だけど目を凝らすと、それぞれのハムの肉質に特徴があることに気づく。その模様、実は地球、火星、金星など9つの惑星の表面の質感になっている。とてつもなく大きく遠い存在の惑星でも、ピンク色に塗りトレーに乗せラベルを貼ってしまえば、スーパーに並ぶハムに見えてしまう。いやもうハムだ。
ハムと惑星に接点が生まれる「新たな見えかた」。明日からハムを見ると、惑星が思い浮かぶかも。
———惑星をピンク色に塗ると、ハムに見えてしまうんですね。
そうなんですよ。以前、地図を赤く着色すると牛肉のように見えることを発見しまして。
———2016年に発行した『gitai 肉する擬態地図』のことですね。肉の赤身や脂身の部分は、世界地図の湖や河の形からできている。だから湖沼が多いフィンランド部分は、霜降りサーロインみたいでおいしそう。
そのアイデアを受けて、地球をピンク色に塗ってみたらどうなるのかな、と思ったんです。
———「惑星とハム」のアイデアは、「地図と牛肉」から続きの発想なんですね。
地球のピンク色を試作してみると、思いのほかおもしろい表現になりました。さらにほかの惑星を着色して試行錯誤を重ねることで、『gitai #01 ハムの惑星』が完成したわけです。
———その惑星でできたハムを、トレーに乗せ、ラベルを貼り、スーパーに並ぶハムに見せる。おもしろいです。
デザインに関しては、ここ最近のアジアでのアートブックフェアで出ていた本に触発されました。色使いを参考にしつつもタイポグラフィを合わせる、豚骨スープにお出汁を入れるような感覚でデザインしました。
———『gitai 肉する擬態地図』と『gitai #01 ハムの惑星』に共通しているのは、身近な食べ物に地図や惑星といった異なる世界を重ねている点。
はい。異なる2つのものの間に、新たなつなぎ目を作りたいと思っています。
———これまでまったく関係性がないと思っていたものの間にも、デザインというレンズを通すことで「新たな見えかた」が生まれるわけですね。
制作のコンセプトは、「デザインの力で『もの』に潜む擬態をビジュアライズする」ことです。
———昔から物事を柔らかく考えることは得意だったんです?
子どもの頃から特に得意ではありませんでした。美大の学部時代までは特に固定観念に縛られていたように思います。
———いまのようなものの見え方へのアプローチはいつから?
大学院では頭よりも手を動かすことを意識しました。そのときに研究した「共通認識化※」という表現手法が、擬態シリーズのベースになっています。
※相互の共通の認識、特に同じ物事や同じ言葉について、同じように理解しているという共通の理解のこと。
———どんなときにひらめきが生まれるのか気になります。
日常生活で目にするものをしっかりと観察することで、なにかを発見することがあります。たとえば電柱を眺めていると、上下を逆さにしたカギのように見えます。リラックスして、眼を働かせると、思わぬ発見があるかもしれません。
———「惑星×ピンクでハム」や「地図×赤で牛肉」の他に、新たな関係性を見出したものはありますか?
最新号の『gitai #02 おいしい惑星』では、「惑星×卵料理」の世界を表現しました。
———身近な食べ物をもちいて表現するのにはこだわりが?
果実やパンケーキなどいくつか試したのですが、「ハッとする何か」を表現するまで到達しませんでした。お肉や卵のように「生命」を感じるものがおもしろいな、と思っています。
———眺めているだけでもたのしいし、身の回りのものの見え方を変えてくれるジンです。
ビジュアルな表現だけで内容が成立するように作っているので、言語によらず、世界中の人たちへ、日常に対する新たな視点を届けていきたいです。
Eye Catch Image via 小瀬古文庫
Text by Shunya Kanda
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine