2009-2012にいる“ふり”をしよう。現10代が運営するフェイスブックグループで共有し合う「あの頃、たのしかったね」

グループの人気タグは当時の若者の合言葉「#yolo(You Only Live Once、人生一度きり)」
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フェイスブックに登録する人が増え、ジャスティン・ビーバーがフィーバーを迎え、映画『トワイライト』でヴァンパイアブームが社会現象化。CDショップにはブラック・アイド・ピーズやリンキン・パークが並び、みんなの手にはまだ“パカパカ携帯”に旧式iPod。

懐かしの2009年から2012年。

この3年間の時代にもう一度戻ってみたい。そんな人たちが集まるフェイスブックグループ「A Group Where We Pretend its 2009-2012(2009年〜2012年にいるふりをするグループ)」がある。「あの頃のこれ好き」「懐かしい」「たのしかったね」と振り返り、共有し合う。もう一つ気になる点として、これをはじめて運営をしているメンバーが10代、20代前半だということ。

Only Post Shit from 2009-2012

「2009年から2012年までのやつだけ投稿すること。2012年以降のは厳禁」。いいねと思ったらチョイスはオールドスクールに「👍」のみ(新機能の❤️や😆は禁止)。フェイスブックのプライベート・グループ「A Group Where We Pretend its 2009-2012(2009年〜2012年にいるふりをするグループ)」のガイドラインは厳しい。うっかり、今年流行りのバーニー・サンダースのミトン画像を投稿したら、即削除されるだろう。

 プライベート・グループなので、参加するには運営側の承認が必要だ。すぐに加入リクエストを送ってみた。メンバー数は約36.3万人と膨大だ(その10日後には約41万5,000人。メンバー増加スピードが凄まじい)。リクエスト後まもなくして承認されたため、メンバーの投稿タイムラインを開いてみる。2009年から12年を高校3年から大学生として過ごした筆者には、胸の奥がキュッとなる画像のスクロールが待っていた。


 キーボードつきの携帯電話として人気だったブラックベリーや、初期iPhoneの野暮ったいホーム画面。ラジオでもガンガン流れていたLMFAO、KE$HAら、ウェイ系パーティーチューン。なぜか流行ったヒゲのマークに、女子に人気だったドラマ『プリティ・リトル・ライアーズ』。教科書の内側に携帯を隠す技、プランキング・チャレンジ(椅子や箱の上でうつ伏せになり死体のまねをするるネットジョーク)。当時流行ったゲームやテレビのキャラクター、当時付き合っていたセレブカップルの写真。グループの人気タグは、当時の若者の合言葉「#yolo(You Only Live Once、人生一度きり)」。

 懐かしのアイテムやジョーク、現象を紹介するだけではなく「このCD、ママにウォルマート(大型スーパー)で買ってもらった!」「Amazonってサイト聞いたことある?」「やっとケータイ、ゲットした!!!メールして!!(fiiinallY g0t a phoneee!!! textt me!! ;))))) <333 XD)」など、当時にありそうな会話をあえてする投稿も。一つの投稿に1,000前後のいいね、100以上のコメントがついている。


現実逃避?ひと昔前のSNS疑似体験?なに目的?

 このグループをつくったのは、10年前の高校生活や大学生時代を懐かしむ20代後半、30代…ではなく、10代。昨年4月に、フィリピンに住む高校生のロレンツォ(16)が高校の友だち数名と一緒に立ち上げた。フィリピン在住の運営メンバーの最年長は17歳で最年少は15歳。ドイツ在住の22歳の会社員がモデレーターを務める。グループの目的は「当時のジョーク画像やニュースを見て、あの良き思い出をもう一度」だが、運営メンバーたちは、当時2歳から7歳だ。当時を“懐かしむ”には、幼すぎるのではないか?

 10代の運営メンバーたちは、当時のソーシャルメディアを疑似体験したのしんでいるのだろうか。先述したが、グループのルールの一つは「投稿に対する反応は👍のみ」。フェイスブックが2016年以降に導入した❤️や😆のリアクションボタンは使わない(ここ最近変更があったのか、そのルール記載は消え、実際の投稿でも❤️や😆が目立つように)。現代のスピード感ある、豊富な機能を搭載するソーシャルメディアしか知らない世代が、もっとシンプルだった当時のソーシャルメディア体験をしてみたいのか?

 それか「現実逃避」か。最近、「仮想の世界」に住んでいることを装うフェイスブックグループが人気だ。アリの巣で生活するアリになりきるグループ酪農家と牛になりきるグループ人間になろうとしているエイリアンになりきるグループメンバー全員がルームメイト同士になりきるグループ中年のお父さんになりきるグループ一切れのパン(!?)になりきるグループなど。多くのグループではコロナ期にメンバー数が一気に増えている。その理由として心理学の教授などは「さまざまに混乱を極める実世界をゆるやかに拒否している」として、これら仮想世界フェイスブックグループのメンバーたちは現実逃避を求めている、と分析している。

 運営のロレンツォくんにフェイスブックメッセンジャーで質問を送ってみると、あらシンプル。「たくさんの人が、この特定の年代をたのしく過ごしたから」「2009年〜2012年を思い出して純粋にたのしんでいる」という答えが返ってきた。せっかくなので、もう少し話しを聞いてみることにした。

HEAPS(以下、H):このグループは、高校の友だちとつくったそうですね。どこから得た発想なのですか。

Lorenzo(以下、L):退屈してたので、なにかのフェイスブックグループをつくろうと思っていました。それで友だちに話したら、このグループについてのアイデアが出てきた。

H:2009年から12年という絶妙な年代設定にこだわりがありそう。

L:たくさんの人が、この特定の年代をたのしく過ごしたからですよ。

H:2013年から16年じゃいけなかったんですか。

L:なんでかはわからないです。これらの年号(2009年、2012年)が浮かんできたんです。

H:2009年〜12年というと、当時ロレンツォくんは5歳前後のはず。グループの目的である「当時を懐かしむ」にしては、幼すぎたのでは?

L:5歳くらいでしたが、当時の曲やアニメはたくさん覚えていますよ。デクスターズラボ(米カートゥーンネットワークで放映されたアニメ)とか、ジョニー・ブラボー(同じくカートゥーンネットワークで放映されたアニメ)とか、ケアベアーズとか*。MTVもよく観ていて、好きな曲を聴いていました。

*これらの放映時期を調べてみたら、2009年前だった(笑)。フィリピンに上陸するまでに、ラグがあったのかもしれない。

H:子どもの頃から、欧米のエンタメをたのしんでいたんですね。

L:欧米のドラマや音楽を流しているテレビチャンネルがあり、露店で映画や音楽(CD)がたくさん売られていたので。



H:さて、このグループ、大変な人気ですね。38万人のメンバー(取材時)がいます。

L:スタート時の数ヶ月は放置してました。メンバーを増やすためになにも特別なことはしていない。ある有名人がこのグループをレビューしたことで、みんなに知れ渡ったんだと思います。

H:有名人とは誰ですか?

L:オジー・マン・レビュー*です。

*ユーチューブで人気のレビューチャンネル。フェイスブックやユーチューブにあるおもしろいものを評価する。

H:2009年から12年という設定、当時、高校生や大学生だったミレニアル世代(現在20代半ばから30代後半)の琴線に触れまくりです。投稿には、ジョーク画像やお騒がせセレブたちの写真、当時のライフスタイルに欠かせないアイテムなどの写真が溢れていますが、よく見かける投稿は?

L:エモ*、ゲーム、当時のアニメ、セレブ。

*2000年代に若者のあいだで流行った音楽ジャンル/サブカルチャーで、エモーショナルな音楽性やダークなファッションや髪型、メイクなどが特徴。



H:当時まだ幼かったロレンツォくんの琴線に触れるのは、どんな投稿でしょう。

L:ゲームです。『ゴッド・オブ・ウォー』『プロトタイプ』『グランド・セフト・オート・サンアンドレアス』『グランド・セフト・オート・バイスシティ』『レフト・フォー・デッド2』。

H:自分の好きなものの投稿があると、うれしくなっちゃいますか?

L:メンバー同士がたのしんでいると、僕もたのしい。

H:20代半ばや30代なら当時にタイムスリップした気分になりますし、ロレンツォくんのように10代なら、疑似体験している気持ちになったり?

L:疑似体験という感じはしないです。みんな、いまの時代だとあまり好かれないような懐かしのコンテンツやトレンドを投稿できて、純粋にたのしいんだと思います。

H:いまだと好かれないコンテンツって?

L:文脈もへったくれもない意味不明のミーム(ネット上で流行るジョーク)や、ベビーブーム世代のミーム*です。

*考えが古いベビーブーム世代(50〜70代の“団塊世代”)に対し、若者たちが「OK boomer(はいはい、わかりましたよ、おじさんおばさん)」とスルーするようなジョークが、2009年にオンライン掲示板「レディット」に出現。その後、OK boomerにまつわるさまざまなミームができたが、近年では、「年齢差別」だとして問題視されているジョーク。



H:いまネットで流行るものは、政治的や社会的なものや、背景がしっかりしたストーリーなどが多いですね。テキトーな感じや、過激なのは好かれないのでしょうか。そうそう、グループのタイムラインを見て「そういえば」と思い出したんですが、いま主流のGIFや動画がほぼないね。静止画が多い。

L:静止画像はいまでも人気だと思いますよ。みんな、いまだにジョーク画像やカースドイメージ*をつくったりしますから。

*2015年ごろ、マイクロブログサービス「タンブラー」上ではじまったネットの上の流行りで、説明がつかないような不可解な写真や心霊的な写真のことを指す。

H:グループの投稿を見て、2009年っぽいな、2012年らしいな、と思うことはありますか。

L:ファッションスタイルですかね。いまよりもっとゴス、エモっぽかった。

H:フェイスブックでは最近「仮想の設定のなかにいるふりをする」グループが大人気といいます。これに対し専門家は「現実逃避だ」などと分析しているようですが、2009-12年グループの人気はそのあたりもありそうですか。

L:わからないですねえ。



H:当時の流行をフェイスブックという当時一世を風靡したソーシャルメディアで共有したかっただけか。

L:フェイスブックを選んだのは多くの人が使っているから。それに僕自身、他のソーシャルメディアをあまり知らないんです。

H:勝手なステレオタイプで、10代はもう好んでフェイスブックを使わないのかと思っていました。

L:フェイスブックは、ミームやジョークが気軽に共有できるから好きです。でも、フェイスブックには、こういうジョークを真面目に捉えすぎて台無しにする人もいるから、そういう時はフェイスブックのことを嫌いになりますよ。

H:少なくとも2009-12年グループでは、みんな純粋にジョークをたのしんでいる。

L:僕たちはただ単純に、あんまり悩みがなかったあのいい時代にもう一度戻ってみたいだけです。

※※※

せっかくなので、ロレンツォくんだけでなく、運営メンバーで最年少のラバズモくん(15)とモデレーターのマルセルくん(22)にも話を聞いてみた(もちろんフェイスブックメッセンジャーで)。

※2021年5月現在、Marcelくんは、グループからは脱退している様子。

H:2009-12年というと、ラバズモくんは3~6歳だったと思います。覚えていることはありますか?

Labazmo(以下、Lz):当時のことを濃ゆく体験したわけではないですが、両親のおかげでこの時代のことをよく知ってます。いい子ども時代でした。

H:最年少の運営メンバーとして、このグループのどんなところがいいですか。

Lz:みんなが古き良き時代を思い出し、ノスタルジーを感じられる場所をつくれてうれしい。また、過去にいるふりをするということに、一種のユーモアを感じます。

H:いまや、いろいろなソーシャルメディアがありますが、フェイスブックを思いっきりたのしんでいますね。

Lz:現実世界でお互いのことを知らなかったとしても、フェイスブック上でたくさんの友だちと繋がれて、友だちのように話ができるので、たのしいです。

H:マルセルくんは、モデレーターをしているそうですね。なにをしているんですか?

Marcel(以下、M):メンバーたちがルールにきちんと沿った投稿をしているか監視しています。スパムやルールに従わない人たちのアカウントを停止したり、投稿を許可したり拒否したりも。

H:メンバーをざっと見ただけでも、米国やフランス、チェコ、ラトビア、インド、チュニジア、フィリピンなど、世界中からみんな参加している。エリアによって、“懐かしポイント”は違うのでしょうか?

M:僕はドイツ出身なのですが、唯一発見した特徴は、ドイツ人が投稿するものと米国人が投稿するものが違うということ。(ドイツ人の投稿では)世界のみんなが知っているバイラルネタが多いですが、米国のミームなどのネタは知らないこともよくありますし、なぜおもしろいのかわからないこともあります。

H:当時、マルセルくんは10歳~13歳でしたが、フェイスブックは使っていましたか?(当時や現在の年齢制限は、13歳以上から)

M:使っていました。

H:どんな使い方をしていた?

M:ビデオゲームなどのヒントが欲しいときに、回答を探すためにグループ機能を使っていました。

H:当時ハマっていたことは?

M:ブルートゥースを通じて、友だち同士でおもしろい着メロや写真を送りあっていましたね。オールド・スクールですね。

H:いまマルセルくんは20代前半ですが、同じ年代のグループメンバーはどんなたのしみ方をしているんでしょう。

M:良き古き時代をもう一度思い出すの、いいですよね。学校から帰ったら、ご飯が用意されていて、座って、テレビを観て、なにも心配することがなかった時代。大人になったいまは、仕事をしなければいけませんし、現実にも直面なければいけませんから。このグループにいると、みんなには同じような子ども時代の思い出があるんだな、とわかってうれしいです。ずっと昔に忘れていたものやしばらく思い出してもみなかったことを、もう一度思い出すことができますしね。

Interview with Lorenzo Kriss, Labazmo T. Timo, Marcel Pietrzok

All images via A Group Where We Pretend its 2009-2012
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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