編集部が選ぶ今月の1冊。汚い字、下手な挿絵、雑な音楽シーンレポート「嫌われ要素たっぷり」なジンづくりの結果

ジン読者の5パーセントは食べ物系が好きではないらしい。ほんと?
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村上春樹の、Tシャツにまつわる18のエピソードと108枚のお気に入りを掲載した本『村上T 僕の愛したTシャツたち』。誰もが1枚は持っているであろうそれには、考えてみればそれぞれにストーリーがある。テーマパークのグッズ売り場で買ったアレ、旅先で着替え代わりに買ったアレ、ノリで買ったはいいけど結局部屋着になったアレ。家族のTシャツをアーカイブとしてジンにしたら、振れ幅があっておもしろそうだなあって、サウナで考えていた今日。ととのいました。

HEAPSでは毎月、2冊のインディペンデントな出版物を取りあげています。1冊は雑誌から、1冊はジンから。いずれも個人たちの独立した精神でつくられる出版物だが、特にジンからの一冊は、時代性、社会性、必要性などの存在意義も問わずに、世界一敷居の低い文芸・ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」のおもしろさを探っていきます。タイトルを見て気づいたあなたは、立派なヒープス愛読者。はい、今月から紹介するのは3冊から1冊になりました(ネタ切れじゃないよ)。引き続きどうぞよろしく。

さて、今月の一冊は「読みたいと思わせない、嫌われジン」。

***

“ジンの嫌いなところ”を詰め込んだ、全然読みたくない一冊
Most Unwanted Zine

作った人:Liz Mason(リズ・メイソン)

「ダサいフォント」「雑なパンクシーンレポート」「下手な挿絵」。ジン作りのうえで、読者に届けたいならば避けたほうがいいとされるものたち。そんな嫌われ要素をとことん詰め込んだのが『Most Unwanted Zine(モスト・アンウォンテッド・ジン)』だ。日本語で、最も欲しくないジン。ジンカルチャーにどっぷり浸かる作者が、あえて作った1冊。そう言われると逆に欲しくなっちゃうもの? レビューは星5つで「最高!」「エンターテイニング!」と称賛されている。

———読みたいと思われない予定のジンが、人気になりましたね。

ジン愛好家たちにジンの好きなところと嫌いなところを聞いて、それをもとにジンを作ったらどうだろうと思いついて。実際にアンケートを取ったんだ。私が働いている本屋でもジンを販売しているんだけど、その反応で読者がジンに求めているものがなんなのかもだんだんわかってきてさ。

———本屋で働いてるんだ。

2001年から、シカゴにある本屋「Quimby’s Bookstore」で。

———20年ですね。ジン作りは?

1990年代から!

———いずれも長くジンカルチャーにあかるい。アンケートもとって読者がジンに求めているものがわかったうえで、どうして最も欲しくないジンを作ろうと思ったの?

ロシアのアーティスト、ヴィターリ・コマールやアレクサンドル・メラミッドが「Most Wanted(最も欲しい)」と「Most Unwanted (最も欲しくない)」をテーマにアートや音楽を作っていたことからインスピレーションをもらったんだ。

———で、「Most Wanted(最も欲しい)」ではなく。

どうせつくるなら「Most Unwanted (最も欲しくない)」の方がおもしろいじゃん?

———確かに。“もっとも欲しくないジン”、まず字が汚いですね。汚い字で書かれたあいさつ、ネガティブな日記、つらつらと綴られた長文の詩。

とことんふざけた構成にしてみた。

———特にヴィーガンパイのレシピページ、カオスです。材料の数が異常だし、名前も似ててとにかく見にくい。

材料のなかにはとんでもないものも入れたから、このヴィーガンパイ、多分食べられない(笑)。

———レシピって、嫌われ要素のひとつなの? 意外。

そう。アンケートでは、ジン愛好家の5.2パーセントが「食べ物に関するジンは好きではない」って答えてる。

———へえー。あと、オカルトコンテンツ「Radical Witch(ラディカル・ウィッチ)」のページが怪し過ぎ。

ジン愛好家の2.4パーセントが、魔女、神秘主義、オカルトといったスピ系コンテンツが嫌いなんだよね。ついでに9パーセントが嫌いだという「下手な挿絵」も添えてみた。

———とことん嫌われようと。独自の調査から、ジンの嫌われ要素を徹底的に洗い出したわけだけど、これまでに読んだなかで全っ然おもしろくなかったジン、ある?

意地悪な質問だねぇ。あるけど、タイトルは言えないよ(笑)。作り込まれていないジンは好きじゃないな。冒頭で「ただ作ってみただけ」とか制作に対する妥協や言い訳が書いてあると、読む気が失せてしまう。

———『Most Unwanted Zine』って、どんな人に読まれてるの?

ジンカルチャーに精通する人たち。大衆向けではないよ。おバカでニッチな個人プロジェクトとして作ったんだもん。

———読者の反応ってどんな感じ?

みんな「おもしろい!」って言ってくれる。思ってた通りの反応。ジンカルチャーに精通している人たちもジンの嫌われ要因をよく知ってるから、このジンは皮肉ったジョークと理解したうえでおもしろがってくれてるよ。特に評判なのは「ごちゃごちゃしてる非常階段の写真ページ」と「内容が雑過ぎるパンクシーンのレポートページ」。

———”あえて”をわかる人たちからの絶賛で、レビューは星5つなのか。最後に、好きなタイプのジンを教えて。

私は、練られた文章でユニークなテーマに焦点を当てているものとか、ミニコミ(ZINEの世界でいうコミックのようなもの)も好き。描いている人の日常や個人的な問題をテーマにしたジンは、やっぱりイイ!

Eye Catch Image via Liz Mason
Text by Shunya Kanda
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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