世の中のティーン女子たちの黄色い歓声をあびる存在「ボーイズグループ」。代表格はバックストリートボーイズ、最近だとワン・ダイレクション。「一般受けするハンサムな顔・歌唱力(+踊りの才能)・各メンバーのキャラ」を持ち合わせ、キャッチーな歌詞と曲で女の子たちの心を鷲掴みにする男性アイドルたちだ。
大衆ポップの象徴、商業メインストリーム文化のど真ん中にいるような「ボーイズグループ」だが。最近の彼らは多人種&クィアのメンバーを擁し、メンタルヘルスについて歌い、ローファイなMVを自主制作、SNSにはプライベート写真だらけ。先輩ボーイズグループと、なにやら様子がだいぶ違うぞ。
ポップカルチャーの雄〈ボーイズグループ〉に変化が?
ポップソング界の代表曲『アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ』を歌った王道バック・ストリート・ボーイズに、UK発の国民的人気者テイク・ザット、あのジャスティン・ティンバーレイクが在籍していたイン・シンク、世界中の女子たちに何万リットルもの涙を流させ解散(活動中止?)したワン・ダイレクション(1D)。アリーナ級のライブパフォーマンスをおこない、音楽テレビ番組に出演してお茶の間にも顔は広い。
「ボーイズグループ」は、スーパーマーケットの雑誌コーナーに並ぶティーン誌の表紙にも、その顔を見かける若い歌手の男の子たち。英語では、ボーイバンド(boy band)と呼ばれているが、楽器を演奏する若い男の子たちのバンドというよりかは、ダンスもできるヴォーカルグループのことを指す(本記事では、わかりやすく「ボーイズグループ」と呼ぶことにしよう)。ちなみに元祖ボーイバンドといったら(本当のバンドになってしまうが)、公演では興奮のあまり卒倒するティーンもいたビートルズや昭和日本の中学生の下敷きに切り抜きが入っていたスコットランド出身のベイ・シティ・ローラーズ。いやもっと遡れば、1950年代の黒人ドゥーワップグループに、ジャクソン5もいたか。日本でいったら、シブがき隊やスマップなどのジャニーズ系の男性アイドルグループ、韓国でいったらビッグバン、防弾少年団あたりが同義だろう。
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元祖ボーイズグループ、バック・ストリート・ボーイズ。
@backstreetboys
90年代、一世を風靡したボーイズグループ、インシンク。
@nsync
21世紀の一大ボーイズグループ、1D。
@onedirection
日本の話はさておき、いわゆるUS・UKのボーイズグループの特徴といったら「メンバー全員・白人ストレート男子」(たいてい一番人気の金髪蒼眼が一人いて、あとはダークヘアの落ち着いたお兄さん的存在や、隣の兄ちゃん的な元気印がいたり)、「タレント発掘オーディション出身」、「大物プロデューサー/マネージャー(日本でいえば大きな芸能事務所も)による仕立て」だったと思う。大衆文化にウケる要素をもりもり盛り込んだパッケージとして売られることも多いボーイズグループだが、最近のZ世代のグループには従来の〈ボーイズグループ方程式〉は通用しないらしい。
「ストレートの男子5人組(メインは白人)」の定説が崩れる
自らを“アメリカズ・フェイバリット・ボーイ・バンド”と称するグループが、今年のサマソニにも出演する「ブロックハンプトン(Brockhampton)」だ。2015年に「カニエ・ウェストのファンフォーラムで出会った」という男の子たちで結成、13人の大所帯のグループ(14人、15人ともあるので、メンバー数は流動的?)。
バック・ストリート・ボーイズやイン・シンクが名物プロデューサーのルー・パールマンに、また1Dが有名プロデューサーのサイモン・コーウェルに見出されたというような、かつてのボーイズグループにあった“バックに音楽業界の大人がいる構造”をまったく無視した結成話である。2018年にはスポティファイで月間200万回再生を実現するなどインディーながらブレイクの兆しがある彼ら、歌うのはヒップホップだ。そして特徴は「多人種でクィアもいること」。メンバーの一人は「アメリカの理想のボーイズグループは、いわゆる“イケメン”のストレートの白人のお兄ちゃんたち5人組って感じだった。でも僕は、南アジアにルーツがあるってゆう」とコメントしていた。
ボーイズグループといえば“白人のストレート男性”、を覆したのは「プリティマッチ(PrettyMuch)」も同じ。こちらは先述のサイモン・コーウェルに見出されたらしいので、少し商業的な感じはするものの、メンバーは多人種。西アフリカ、ドミニカン、メキシカン、イタリアン、アイリッシュ、スコティッシュ系の血を引き継いでいる。人種の多様性があたり前となった現代らしさをしっかり包含している。
新星ボーイズバンド、ブロックハンプトン。
@brckhmptn
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多人種メンバーが揃った、プリティマッチ。
@prettymuch
それに、これまでのボーイズグループが歌っていたことといったら「恋」だった。これからはじまる恋についてだの、燃え上がる恋についてだの、終わった恋についてだの(ビートルズの『抱きしめたい』『涙の乗車券 』も然り)。「ナチュラルなそのままの君で十分なのに」と、女性の自信も取り戻してくれる歌や、「ねえ、なんでか教えてよ。心が引き裂かれそうだ」と失恋した傷心の男ごころを歌う曲もあり、ロマンチック要素は欠かせなかった。
しかし、最近のボーイズグループはそうではないようだ。プリティマッチは、女性が男性を引っ張る恋愛関係についてや、ダンスフロアでの男性の女性へのマナーなど、パワフルな女性についてを歌う。#metoo時代の影響といいつつ、ややプレッシャーを受けている感じもするが。
ジェンダー、人種ごちゃ混ぜのブロックハンプトンの曲も、ことごとく時代に沿っている。人種差別やアンチゲイへの感情、メンタルヘルスなど社会的な問題やアイデンティティ寄りのトピックだ。これを支持するファン層も、多感な時期に現代を生きる「13から19歳くらいの女の子、あるいはクィア。学校なんかクソくらえと思っているクィアキッズ」だそうだ。
MV自主制作。インスタはプライベート写真。ブランディングもセルフマネジメント
ブロックハンプトンは自らを“ボーイズバンド”と称しているが蓋を開けてみると、ラップグループであり、マルチメディアコレクティブであり、クリエイターのクルー。メンバーにはラッパーのほか、フォトグラファー、ビデオグラファー、プロデューサー、グラフィックデザイナーがいる。つまり、かつてのボーイズグループは大きな事務所や敏腕プロデューサーによって売れ線として商業的に仕立て上げられた感じがあったが、次世代のボーイズグループはレコーディングもミュージックビデオ制作なども自分たちでセルフプロデュースしてしまうのだ(しかも彼らは一軒家で共同生活しながら音楽活動をしている)。
忘れてはいけないのは、いまのボーイズグループのメンバーがZ世代だということ。Z世代といったら、1990年代後半から2000年生まれのことを指し、ミレニアル世代以上にデジタルネイティブなことで知られている。物心ついた頃から手のひらにはスマホがあり、私生活をSNSに共有することへの抵抗は少ない。ブロックハンプトンも初期のころは、ブログプラットフォーム「タンブラー」から人気を博したクチ。現在、74万人のフォロワー・1つの投稿に10万いいねがつくこともある彼らのインスタグラムでは、コンサートショットやメンバーのポートレートだけでなく、ソファで寝ている隠し撮りだったり、パソコンや携帯をいじっている日常ショットだったり、キッチンで談話、ベッドの上にマフィンとプライベート丸出し。比較として、ひと世代前のボーイズグループである1Dのインスタをのぞくと、メンバーの素顔はわかるものの、歌っているショットやミュージックビデオのビハインド・ザ・シーンなど、仕事に関わるオンステージショットがほとんどのようだ。
インスタだけでなく、ツイッターやスナップチャット、各種動画サイトも駆使。先述の名物プロデューサー、サイモン・コーウェルが仕掛け人でコロンビアレコードという老舗大手レーベルがバックについたプリティマッチでさえ、各メンバーが“6秒動画”のヴァインのアカウントでそれぞれが発信。グループのユーチューブチャンネルでは、ファンからの質問に答えるコーナーや、怒り狂ってテレビをプールに投げ込むメンバーをとらえた映像など、いままでなら所属の大手レーベルや事務所が隠したくなるメンバーのプライベートも垂れ流しだ。
Z世代の彼らは堂々「ぼくたち“ボーイズバンド”です」
メンバーの多様性にSNSでのプライベート露出など、時代の流れによって変わりつつあるボーイズグループ。あと一つ特徴をくわえるとすると、それは「ぼくたち、ボーイズバンド(ボーイズグループ)です」と公言していること。え、いままでもみんな公言してない? って? ひと昔前のボーイズグループがは、“ボーイズバンドと呼ばれることを嫌っていて、間違っても自ら自分たちを「ボーイズバンドです」などとは言わなかった。バックスストリートボーイズは「ボーイズバンド」という呼び名を“軽蔑的”と不服に感じ「ボーカルグループ」だと主張、オーストラリア出身のファイヴ・セカンズ・オブ・サマーは、あくまでも“ロックバンド”として扱われたがっていた。1Dが“踊らない”ボーイズグループだった理由に、メンバーは「『ボーイバンド=踊る』の方程式を強く打ちくだきたかったのかもしれない」と答えている。
比べて最近のボーイズグループたちは、たんなる呼称には怯まない。むしろ「ぼくたちはボーイズグループです」と誇らしげだ。その理由はわからないが、プリティマッチもボーイズバンドであることを嬉々として押し出しているし、ブロックハンプトンのメンバーも「(1Dの人気メンバー)ゼインやハリーが俺たちのアイコンだ」と、いわゆるボーイズグループのボーイズたちを崇めている。“大衆ポップさ”、“大物がバックについたギラギラ商業的さ”がべったりと付着していたボーイズグループという呼称を忌み嫌うことなく、自分たちのやり方、表現、スタンスがしっかりあるから「ボーイズグループと呼んでね」とあっけらかん。その態度は、「あえてグッチのパチモンを着る(メガブランドに魂を売るのがダサいのをわかったうえであえて着る)のがかっこいい」というような、世代独特の感覚に通ずるものがあるのかとも思う。
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Eye catch illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine