サッカーのサポーターがスタンドから選手を応援するために掲げているタオルのような、マフラーのようなアレ。アレをモチーフにしたブランドマフラーを、あまたのファッションデザイナーがこぞって発表しているのはなぜなのか—を考えていたら、見えてきたのは若き消費者たちのブランド品を着ることへの興味深い皮肉メンタリティー。「あえて」とか「逆に」とか、随分ツイストが効いている。
消費者は“賢くなった”のではなかったのか。
そりゃそうだ。コートをはおったらTシャツやトレーナーのロゴは、どんなにデカくてもみえないもんな。だから、冬季は「スカーフにロゴ」というのはわかりやすい。「スポーツっぽさ」をミックスするのは一昨年くらいから引き続きトレンド、ということで革のブーツに無地のコートなんて冬こそ、首元にカラフルなサッカースカーフをオン。それだけでアスリージャー感のあるいまっぽいコーディネートになる—と、ファッション誌やブログには書いてあるが、しかし。そのスカーフのデザイン、スポーティーってかまんまスポーツじゃねーか、と思った次第である。
これはまんまサッカーのスカーフ。
まんまスポーツで、まんま応援グッズのスカーフ。だが、デザイナーズブランドから出ているものはだいたい一枚1万円はする。さすがに素材は応援グッズのような安価なアクリルではなく、ウールやコットンが使用されており、つけ心地に「高級感」はあるらしい。
このサッカースカーフ、諸説あるが、2015年の秋冬コレクションで発表したヴェトモンや、そして、ゴーシャ・ラブチンスキーやシュプリーム、ステューシーなどのブランドがアーリーアダプターだといわれている。今期はさらに、ステラ・マッカートニーやトム・ブラウンなどのメジャーブランドが同じようなロゴスカーフをリリースしているのだから、きっと売れ筋商品なのだろう。
一体、なんでそんなに人気なのか。そして、なぜ“サッカーっぽい”なのか。サッカー人気と関連してのことかと思いきや、それとこれはまったくの別物らしい。結局は、2017年を制したロゴブームや流行りの90年代スタイルにおける「ミニマルよりもハデなのがいい」と同じ流れを組んでいるだけのことだった。ただ、「それだけのことだった」といいつつも、巷では“賢くなった”と言われている現代の消費者が、なぜいまさらブランドのロゴを目立つところに身につけ、やたら主張の強いデザインを選んでいるのかは興味深い。
メインカルチャーに魂を売ったわけじゃない。
Photo by Melinda Martin-Khan
いまそういった「ロゴつきのわかりやすいブランド品」に熱をあげる若者の心に、90年代にあった「高級ブランドのロゴを身につける=ステータス自慢」というメンタリティーは存在しないらしい。ステータス自慢なんてダサいし、実によくできた偽物を着るのもイケてない。決して社会の支配的な文化(メインカルチャー)を持ち上げるつもりではない、と。
では、なぜ主張の強いロゴアイテムを着るのか。どうやら、メガブランドに魂を売るのがダサいのをわかったうえであえて着るのが「ウケるー。“逆に”かっこいいね」ということなのだそうだ。言い換えれば、ウケないと “逆” にならないのでただダサい。なので、ウケるようにできるだけ本物っぽくないものを選ぶのがポイント。要は「見せたいのは『ステータス』ではなく、あえてそれを選ぶ『スタイルやセンス』」ということらしい。
本物っぽくないものというのは、いわば90年代後半のアメ横に氾濫していたような、ロゴのサイズやデザインが若干(というか結構)違う「それ、絶対にパチモンだよね?」なデザインを指し、それが逆にイケていると解釈されている。なんだが随分ツイストが効いた皮肉である。
デザイナー側もこの「逆に」のメンタリティーに理解を見せている。たとえばグッチ、紛い品の中でもGUCCIの文字やロゴの主張が妙に強い、バブリーというかマキシマルというか「それ、どこからどうみても絶対グッチじゃないよね?」な安っぽい紛い品をあえてデザインに採用し、大成功。特に、フェイクっぽいデザインを採用したロゴティーシャツは夏にバカ売れした。
出典:https://www.gucci.com/us/en/
世界最大級のファッションサイト「Lyst」によると、2017年に最も検索されたブランドは「グッチ」であり、このロゴティーのヒットによるところが大きいと分析。ティーシャツやマフラーは、ハイブランドでもバッグやジャケットに比べると比較的安価なので、学生でも手が届きやすいというもの要因の一つだろう。そんなことも踏まえると「スポーティーっつうか、まんまスポーツじゃん」なカラフルで主張の強いサッカースカーフを選ぶのは、「“逆に”イケている」わけで、いまのトレンドの流れでいうと「正解」。
お揃いのロゴで帰属意識を高める消費者にブランド側はウハウハ?
また、こういったロゴアイテムを身につけることは、多かれ少なかれ「僕も私も、その皮肉を理解する種類の人間です」という外へ向けた意思表示である。それは、スポーツでいうところの「チーム〇〇の応援団です」という主張と同じで、共感できるロゴアイテムを身につけることは、自然と一体感を醸成する。
なにはともあれ、ハイブランドにとっては消費者が勝手に帰属意識を高めてくれることほどおいしい話はない。一見すると、ハイブランドがストリートやサブカルチャーに媚びているようにもみえるロゴブームだが、消費者に1個ウン万円のモノを買わせることに成功してガッポリ儲けているし、ストリートやスポーツに近づくことで、90年代以降ハイブランドが失ってきた消費者の「熱狂」を取り戻すこともできた。ブランドも消費者もハッピーならそれに越したことはない。というのも、上述のグッチなどは、ユニセフへの寄付や女性のエンパワーメントのための資金調達および意識向上を目的としたグローバルキャンペーン「CHIME FOR CHANGE (チャイム・フォー・チェンジ)」を設立するなど、(賛否両論あるが)積極的な社会貢献活動をおこなっているからだ。
となると、気になるのは“賢くなった”消費者の意識の中にあったはずのメインカルチャーへの皮肉の行方。“逆に”の姿勢をそのまま企業にまるっと包み込まれ(企業もいい思いをして)、結局、一周して元に戻った感じだが、それはそれでいいのか?
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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine