「愛だけが、時間も空間も超えられる」2010s映画、歯の浮くセリフに罵り言葉を改めて細かく見てみましょう。AZボキャブラリーズ

シティの真ん中からこんにちは。ニュース、エンタメ、SNS、行き交う人から漏れるイキな英ボキャを知らせるHEAPS(ヒープス)のAZボキャブラリーズ。
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3月テーマは、まだまだ引っ張りますよ「懐かしの映画・ドラマで放たれた、登場人物の決め台詞」。今回は、現在進行形の「2010年代」の映画から。やはり時代ですね、テクノロジーの怖さ、驚異、切なさを扱った作品もちらほら。今回も、じ……っくりと解剖。

1、「I want you to know, from the bottom of my heart, that that won’t be true.(あなたに知っておいて欲しいと心の底から思うんだけど、それは違うわ) 」

—世界最大のSNS、フェイスブックの創業秘話を映画化『ソーシャル・ネットワーク』

かつてないほどの勢いを増すテクノロジーエイジ・2010年代最初の年に公開されたのが映画『ソーシャル・ネットワーク(The Social Network、2010年)』。世界最大手のSNS企業・フェイスブックの創始者マーク・ザッカーバーグが、ハーバード大学在籍中の2004年、ルームメイト数人とフェイスブックを創設した裏側の実話が描かれたドキュメントだ。

若干19歳でフェイスブックをスタートさせた天才マークは、天才ゆえ他人への共感や相手の心を思いやる気持ちがあまりない。たとえば映画の冒頭で、ガールフレンドのエリカと食事をしているシーン。あまり雲行きがよろしくない。エリート思考のマークに辟易し、エリカは別れを切り出す。すると極めつけに、ハーバード大学のマークは、エリカが通うボストン大学を見下すいや〜なヤツ発言をするのだ。去り際にエリカはこんな捨て台詞を一息に言う。

「You are probably going to be a very successful computer person. But you’re going to go through life thinking that girls don’t like you because you’re a nerd.I want you to know, from the bottom of my hear, that that won’t be true. It’ll be because you’re an asshole.
(あなたはおそらくコンピューターの世界で成功すると思う。この先の人生でモテないのは、自分がオタクだからだと思うでしょう。あなたに知っておいて欲しいと心の底から思うんだけど、それは違う。あなたがゲス野郎だからよ)」

この早口での喧嘩シーン、なんと99テイクかかった。俳優魂が詰まった数分だ。

フェイスブックの誕生や成長にまつわる話だけでなく、敵を作ってしまうタイプである不器用なマークの人間関係も描くこの映画。ちなみに本人は、映画中の「女の子にモテたい、エリートになりたいからフェイスブックをはじめた」というニュアンスは真実ではないと主張している。

2、「You shut your mouth or I’ll kick your teeth down your throat and shut it for you.(お前が黙るか、俺がお前の歯をへし折って強制的に黙らせてやるか) 」

—〈車〉を中心に二重生活を送る孤高の男“ドライバー”の暴力性がスリリング『ドライヴ』

人気俳優ライアン・ゴスリング主演のクライムサスペンス『ドライヴ(Drive、2011年)』。舞台はアメリカ西海岸の街。類稀なる高度な運転スキルをもつ主人公ドライバーは、昼は映画のカースタントマン、夜は強盗の逃し屋(強盗現場にいる実行犯を安全かつ速やかに逃亡させるドライバー)の2つの顔をもつ。彼は同じアパートに住む、夫が服役中の人妻アイリーンと恋仲になるが、夫の釈放とともに危険にさらされた彼女を守るため裏組織と闘う…。

クセのあるストーリーにくわえて、この映画の魅力といえば「とめどなく放出されるバイオレンス」。寡黙で冷静沈着なドライバーだが、暴力的な一面が徐々に見えてくる。たとえば、バーで話しかけてきた男に顔色ひとつ変えずに、

「How about this. You shut your mouth or I’ll kick your teeth down your throat and shut it for you.
(こういうのはどうだ。お前が黙るか、俺がお前の歯をへし折って強制的に黙らせてやるか)」

いつも大口を叩き罵り言葉を放つ男より、ドライバーのような紙一重の男の方がアブない気がする。

3、「just lesser versions of what I’ve already felt.(すでに感じたことのある気持ちの“迫力ない版”、というか) 」

—AIガールに恋してしまった、ある男の切ない恋物語『HER』

舞台は、近未来のロサンゼルス。主人公は、ライターのセオドア。ヒロインは、コンピューターやスマホから発せられる“声”。サマンサという名の人工知能型OSだ。2013年に公開されたSFラブストーリー『HER/世界でひとつの彼女』は、近い将来ありえそうな(あるいは、もうすでに現実でおこっているかもしれない)、人工知能に恋してしまった男の“揺れる感情”をセピア色の世界観で描く。

メガホンを撮ったのは『マルコビッチの穴』やビースティー・ボーイズ、ファットボーイ・スリム、ダフト・パンクなどのMVでも独自のセンスを見せつけたスパイク・ジョーンズ監督。脚本も手がけた監督だが、まだiPhoneのSiriが誕生するずっと前から人工知能とやりとりができるサイトをたまたま見つけ、“人工知能と人間の恋”というストーリー案を思いついていたそうだ。

妻と別れて傷心だったセオドアが、AIガール・サマンサと声だけでの交流を介して心の距離を縮める様子が微笑ましいが、次第に感情がすれ違い、音信(通信)不通になってしまうなど、心がキュッとつままれる苦味さも感じる。たとえば、セオドアがこんな風にサマンサに打ち明けたとき。

「Sometimes I think I’ve felt everything I’m ever gonna feel and from here on out I’m not going to feel anything new – just lesser versions of what I’ve already felt.
(時々、僕は、僕の人生で感じる感情をすでに感じ切ってしまっていて、これから何も新鮮に感じられないんじゃないかと思うんだ。すでに感じたことのある気持ちの、“迫力ない版”、というか

セオドア役を演じたホアキン・フェニックスもハマリ役だったが、それ以上に高い評価を受けたのが、“声”のみの出演となった女優スカーレット・ヨハンソン。彼女の官能的とすらいえるハスキーボイスに恋に落ちてしまった観客も多いはず。

4、「Love is the one thing we’re capable of perceiving that transcends dimensions of time and space.(愛だけが、時間も空間も超えられる) 」

—〈愛〉がテーマ、宇宙の未開地へ旅立つ男の壮大な“ハードSF”超大作『インターステラー』

「果たして人類は生き残れるのか」。これまでに多くの科学者が答えを探そうとしてきた難題であるが、ある映画監督も映画でその答えを見出そうとした。『インセプション』で脚光をあびたクリストファー・ノーラン監督だ。

2014年の公開作『インターステラー(Interstellar)』。地球規模の食糧難と環境変化によって人が住めない星になっている地球。人類の滅亡のカウントダウンがはじまるなか、農場を営むクーパーは、NASAからの要請で「ラザロ計画」というプロジェクトに宇宙飛行士として参加する。ミッションは、地球外で人類が居住できる惑星を探し、人類を移住させること。クーパーは娘に「必ず戻ってくる」と誓い、アメリア博士、ロミリー博士、ドイル博士と一緒にに未知の銀河系に向けて出発する。

インターステラーの特徴は、SF作品のなかでも「ハードSF」というサブジャンルであること。ハードSFとは、科学性の極めて強い、または科学的理論が密接に関係するテーマのSF作品。同映画は、特殊相対性理論(ウラシマ効果)やニュートン力学、漆黒の宇宙空間、運動の三法則など科学知識に裏づけられた理論、つまり学説ありきの要素を含んでいる。…説明の字面だけでもハードコアな映画だが、登場人物だってときには歯の浮くようなセリフを言ったりもする。アメリア博士の例だ。

Love is the one thing we’re capable of perceiving that transcends dimensions of time and space. Maybe we should trust that even if we can’t understand it yet.
愛だけが、時間も空間も超えられる。たとえ理解できなかったとしても、信じてみるべきなのかもしれない)」

なんだかビートルズの『愛こそすべて(All You Need Is Love)』が軽快に流れてきそうなドリーミーな哲学だが、ハードSF作品にも科学的に証明できないロマンがあっていいのかもしれない。

5、「I’d rather die drunk, broke at 34 and have people at a dinner table talk about me…(泥酔したまま無一文で34歳で死んで、みんなに語り継がれる人生がいい) 」

—ジャズドラマーを目指す青年とスパルタ教師の血の滲むような訓練描く『セッション』

鬼教師はいつの時代もどこの国にもいるものだ。アカデミー賞3部門を受賞した映画『セッション(Whiplash、2014年)』のなかにも。

名門音楽学校に入学し、世界的なジャズドラマーになろうと野心に燃える青年ニーマンが出会ってしまったのが、鬼教師と知られる“かなりおっかなくて、かなりキレキレの”フレッチャー先生。罵声・暴力も厭わず、生徒を肉体的にも精神的にも追い詰める先生の指導スタイルに、ニーマンは果敢にも向かい合う。先生の狂気じみた行動とニーマンの根性に、最初から最後まで自然と歯を食いしばらせてしまう映画だ。

異常なまでのスパルタ教師についていくニーマンの本気度は凄まじいもの。その根性は、親戚と囲む食卓の席でも感じられる。一文無しで酒とヘロインに溺れて34歳で死んだジャズの伝説、チャーリー・パーカーのことを、親戚の一人は「俺は、そんな人生、成功だとは思わないね」。それにニーマンは、こう反論する。

I’d rather die drunk, broke at 34 and have people at a dinner table talk about me than live to be rich and sober at 90 and nobody remember who I was.

金持ちのしらふで、誰にも覚えられずに90歳で死ぬ人生より、泥酔したまま無一文で34歳で死んで、みんなに語り継がれる人生の方がいい)」

さて、夢に向かって燃えるニーマンは果たしてフレッチャー先生の激しごきに耐えることができたのか…。

次回は、「平成最後の月に振り返りたい〈平成・邦画のボキャブ〉」。

1989年から2019年に公開された〈日本映画の“あの台詞”を、英語で言ってみたら?〉
を2回にわたって紹介する。

「別に寂しくはない。初めから何にもないねんもん。
It’s wasn’t particularly lonely. Because there was nothing from the start.」
—『ジョゼと虎と魚たち』

おたのしみに!

▶︎もしも〈平成邦画の主人公のセリフ〉が英語だったら。空飛ぶ豚・フーテン寅さん・ジョゼ、平成30年間の「あの一言」AZボキャブラリーズ

▼これまでのHEAPS A-Zボキャブ
「シャキっとしなさい!」一筋縄ではいかない2000sキャラたちのパンチなひとことを吟味しよう。AZボキャブラリーズ
「うげぇ、超サイテー」!—90年代癖あり名映画の名台詞を解剖。“90s米ギャル捨て台詞”まで。AZボキャブラリーズ
このクソメガネ野郎が!—『E.T.』『スタンド・バイ・ミー』青春の置き土産、80s名台詞を解剖。AZボキャブラリーズ
俺の仲間たちよ—『時計仕掛けのオレンジ』『タクシードライバー』主人公らの名台詞(英語)を解剖。AZボキャブラリーズ

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Illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita, Editorial Assistant: Kana Motojima
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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