足を洗ったギャングたちが働く先は、パン屋さん。
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殺人、窃盗、不法入国。レイプ、麻薬密輸、銃の不法販売。
時には生き抜くために凶悪犯罪を犯し続ける、ストリートギャングたち。
そんな悪名高い若者が人生をやり直すために働きはじめた先は、「パン屋さん」。

そのパン屋の店員は全員、「元ギャング」

s_Media Kit - Homegirl Cafe

「Homeboy Industries(ホームボーイ・インダストリーズ)」。何だかアットホームな響き…。
と思いきやコレ、ロサンゼルスにある元ギャングのためのいうなれば「足の完全な洗い場」、社会復帰支援施設だ。1992年「彼らが更生し、社会の一員として貢献できること」を目的にGreg Boyle(グレッグ・ボイル)神父が設立したNPO団体。

 観光地としても人気のロサンゼルスだが、一方で全米を代表する犯罪都市の側面も持つ。

「銃殺による死者数は内戦を起こしている街と変わらない」
「中南米系のギャングが約700チーム、黒人系が約200チーム」
「ギャングにならざるを得ない状況下の子どもたち、年間約1万2千人」

 そんな現実にもかかわらず、刑務所に入り“felony(重罪)”を背負った若者が更生するための施設は存在しない。そんな彼らに無償でチャンスを与える世界で唯一の場所が、ここホームボーイ・インダストリーズなのだ。

s_Media Kit II - Homeboy Diner Coffee

 更生希望の元ギャングはまず、直接本社に足を運ぶ。そこでプログラムへの参加が可能かを見極められた後、いくつかのプロセスを課され、やっと参加が認められるという流れだ。活動は主に仕事のトレーニング。プログラムに参加する若者たちのために、ホームボーイベーカリー(パン屋)、ホームガール・カフェ&ケータリング(カフェ)、ホームボーイ・ダイナー(レストラン)など、7つのスモールビジネスを展開中。そこで働くスタッフはもちろん、全員元ギャングだ。

わざわざギャングが集う“元”超危険地帯で切ったスタート

 合い言葉は“Jobs for a Future(未来のための仕事)”、グレッグがこのプログラムをはじめたのは1988年のこと。場所は、危険地帯ダウンタウンと“超”危険地帯イーストロサンゼルスの真ん中、ボイルハイツ地区。いまでこそ次のジェントリフィケーション(貧困層が住む停滞した地域に、富裕層が流入する人口移動現象)が起こると予想されているが、当時はギャングたちの抗争により問題が絶えず「ギャングのメッカ」と称され、まっとうな人生を送っている人にはおよそ近づく理由もないような場所だった。

「地元のギャングメンバーやギャングに入る恐れのある若者たちに、ポジティブな選択を与えたかったんです」と、当時を振り返ったグレッグ。
「多くの地元企業と話し合い、彼らを雇い入れてくれるビジネスを探しました。教会の人々とともに最初にはじめた事業が、地元の廃倉庫を使ったホームボーイ・ベーカリーでした」

s_Media Kit - Bakery Retail

 ラティーノが多く住むエリアだったこともあり、パンに加えトルティーヤ(メキシコ料理に使われる薄焼きパン)作りにも精を出す。その後、地元商店と契約を結び、発売開始の最初の週には“Jobs not jails(監獄ではなく仕事)”のキャッチコピー入りのトルティーヤチップスを8,793袋、サルサを10,287個売り上げ、食料雑貨店ラルフスのスナック菓子売上ナンバーワンに。それを機に事業は軌道に乗っていった。

タトゥー除去サービス、無料!?

s_Media Kit III - Tattoo Removal II

 ホームボーイ・インダストリーズの活動で、仕事トレーニング意外で最も人気なのは無料でのタトゥー除去サービス。ギャングメンバーのタトゥーはファッション的なそれとは違い、顔や首や手にかなり派手に彫られている(目の下の涙のタトゥーの数は殺した数、は有名な話)。

「通常の社会復帰をするのにネックになるのがギャングタトゥー。相手企業にネガティブなイメージをあたえてしまいます」。通常、多額を要するタトゥー除去。なぜ無料で施術できるのか?理由は前述したスナック菓子の売上を充当しているからだ。

「2人の娘が誕生した日も服役中だった」

 2007年には「Father G. and the Homeboys」というドキュメンタリーが撮影されたり、MTVの「True Life」シリーズにホームボーイの若者のストーリーが紹介されたりと、メディアから多くの注目を浴びた。警察に批評されたこともあったが、市長や他の権力者らはこのプログラムを強く応援してきた。
 現在では市から助成金を与えられるまでの更生施設となり、アメリカ国内最大のギャング関与予防プログラムとして、他の都市や団体の手本とされている。

s_Media Kit III - Diner at LA City Hall Interior

 過去10年に渡り、麻薬がらみで刑務所の出入所を繰り返したリカルドはこう話す。

「2人の娘が誕生した日も服役中だった。人生を無駄にしていたと思うよ。子どもをつくっただけで父親になった気でいたけど、そうじゃなかった」。人生の再出発を決意した彼は、ホームボーイ・インダストリーズが提供する太陽光発電技術の講習を受講。優秀な成績で修了し、見事環境業界の職に就いた。
「昔なじみを見渡せば、今もみんな刑務所の中。グレッグ神父と、ホームボーイ・インダストリーズのおかげで、僕はいまこうして働けるんです」

「本人が人生を変えたいと思えば、なんだって可能なんです」とグレッグ。「社会に復帰したい」という強い意思と行動次第で、それは現実のものとなる。ホームボーイ・インダストリーズでは今日も、将来に希望を持つ若者たちが、人生を転換できる実社会でのスキルを身に着けるため一生懸命働いている。

s_Thanksgiving Day 2012 at Homeboy Industries

真ん中がグレッグ・ボイル

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Photos Via Homeboy Industries Pres
Text by Yu Takamichi

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