アル・カポネは作曲家?詩人の女ギャングに牛乳好きの賭博王。ぶ厚いツラの皮の下、オフの顔と意外な趣味嗜好—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、二十一話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、二十一話目。

***

前回は、アル・カポネ特製〈鋼の最強装甲車〉や、強盗カップルのボニー&クライドが飛び乗った〈最速逃走車〉など、ギャングがハンドルを切った歴代の車について話した。今回は、「ギャングの意外な趣味・好きなこと」について。アル・カポネが獄中で勤しんだ“あれ”や、賭博王アーノルド・ロススタインが毎晩欠かさなかった“それ”など、強面Gたちが打ち込んだあれこれについて語ろう。

▶︎1話目から読む

#021「アル・カポネの独房からは美しい音色が漏れ聞こえた〜ギャングたちの“ギャップ激しき趣味”」

 以前、“世界の悪人たちの意外な趣味まとめ”なるものをネットで拾い読みした。アドルフ・ヒトラーはディズニーのファンで自分でディズニーキャラを描いていたというし、ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンは男性のヌードを描いていたらしい。それでは、世の悪人、ギャングスターたちの趣味はなんだろう…と探ってみたら、意外なものがザクザクと出てきた。

「ボニー・パーカーの趣味は、“詩作”でした」。アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長さんが「ギャングの意外な趣味」で真っ先に思い出したのが、世紀の銀行強盗カップルの片割れ、ボニー(女)のことだった。ボニーは、学生時代は成績優秀、スペリングやライティングのコンテストでも受賞するような文学っ子だった。紆余曲折あり、パートナーのクライド・バロウズとタッグを組み、大恐慌時代を騒がせた冷血な銀行強盗となったわけだが、逃走中にも暇を見つけては自作のポエムを綴り、新聞へ送るという行動を繰り返していた。彼女の作品で有名なのが『ボニーとクライドのバラード』。幸薄き恋仲である自分たちを美化するような、自分たちのヒール(悪役)ぶりに酔ったかのような、非常にダークでロマンティックな詩の内容になっている。

孤島の刑務所で作曲活動に励んだあのギャング

 見た目に似合わず、繊細な趣味を持っていたギャングがここにも一人。多出するその名前には少々耳も疲れているかもしれないが申し訳ない、アル・カポネだ。彼が打ち込んでいた趣味について知ったら、愛らしささえも湧くかもしれない。バンジョーでラブソング作曲、ときた。

 カポネは根っからの音楽好きで、アイーダなどのイタリアンオペラのレコードを収集し、蓄音機にかけては体ごとゆだね聴き入っていた、真の音楽マニア。同時に、シカゴマフィアさながら(?)に、ジャズ愛好家でもあったという。その彼が1931年、11年の刑期でぶち込められたアルカトラズ島(脱獄不可能な連邦刑務所があった島で、通称「監獄島」)の刑務所で勤しんでいたのが、ラブソング作りというわけだ。

 バンジョー自体は妻メエから差し入れられたもので、カポネはそのバンジョーでたくさんの感傷的なラブソングを書いた。ラブソングのなかには、愛する妻への想いを歌った曲『マドンナ・ミア』も。10年前、この曲の楽譜が発見され、65,000ドル(約735万円)で競売にかけられたことも話題になった(そして、実際に演奏されCDにもなった)。自分でバンジョーを爪弾くだけでは飽きたらなかったカポネ、刑務所の囚人で結成された唯一のバンド「ザ・ロック・アイランダーズ」に入団し、毎週土曜のコンサートでその腕をひけらかしていたとか。盗みも殺しも起きる殺伐とした孤島の刑務所で、米国史上最大のギャングのボスの独房から切ないマンドリンの音色がこぼれ出ていたとは、はからずもなんともいえない郷愁を感じてしまう。

賭博王ロススタイン、寝る前のたのしみは◯◯

 ギャングの意外な趣味嗜好をもっと知りたいと思い、館長さんの知り合いギャング、故ヘンリー・ヒル(映画『グッド・フェローズ』のモデル)の趣味を聞くと「料理ですね。料理とは、とても真剣に向き合っていました」。クッキングマフィアのトニー然り、特にイタリア系ギャングとなると料理に妥協は許されない。「刑務所にこっそりもちこまれるブツで、もっとも一般的だったのが“イタリア料理の材料”でしたから」。イタリアンマフィアにとって料理は、趣味なんてものではなく、生活する上での“必須事項”だった?

 最後に、飲食つながりでギャングの好きなものをもう一つ。ギャング=スーツで洗練されたビジネスマン然を確立したファッション帝王のユダヤ系ギャング、アーノルド・ロススタインの嗜好だ。賭博ビジネスの頂点に上りつめた賭博王でもある彼が毎晩欠かさず食したものが「牛乳」と「ケーキ」だった。絶対禁酒者としても有名だったロススタイン、酒の代わりに牛乳をがぶ飲みしていたのだ(その割には、よく腹を下していたという。残念)。寝る前に〈ミルクと甘いもの〉とは、賭博界を牛耳っていた大物ギャングも、割とお子ちゃまな舌をしていたんだな、なんて。

 次回は、番外編「極道映画の常連俳優たちが集まる会に行ってみた」。先々月の10月の終わり、クッキングマフィア・トニーに誘われ、彼の友人やら知り合いらが集まるディナーパーティーにお呼ばれしてきた。主宰者は、ニューヨークで有名なギャング俳優。パーティーでは、あのギャング映画の脇役や、マフィア映画・ドラマの常連顔に出会ってきたので、そのレポートをお届けする。

▶︎▶︎#022「名物マフィア俳優主催のパーティーに、あの名脇役現る。今世紀最後の大物ギャングも現る。そして、いつの間にか終わっていた締めのカラオケ」

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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