ハナの金曜も週末も「今夜は出かけない」ニュースレターが着々と育てているガールズナイト“イン”のネットワーク

Share
Tweet

金曜の朝に届くニュースレターの購読者がこの一年で急増している。そのニュースレターはこうすすめる「さて、金曜日ですね。華金と週末はどうやって『家』で過ごしますか?」
金曜や土曜の夜こそ「パーッと遊びに!」ではなく「自宅でゆっくり。自分を労わる時間に使いたい」という20、30代の女性が増えている。

驚異の成長をみせる“ナイトイン”のニュースレター

 
「遊びも仕事も全力で!」。確かに数年前まではそんな生き方こそがクールだと言われていた。キャンプだ、フェスだ、クラブだ、ホームパーティーだと「週末や休暇をいかに充実させるか」が人生の勝負といわんばかりに忙しくしていたではないか。

 そんな戦闘的にアクティブだった人たち、中でも女性たちが、いつのまにかに「ナイトアウトよりナイトイン。週末はお出かけするより、お家でゆっくりしたい」と価値観を翻しはじめているのが興味深い。

 ナイトインの価値観を体現する注目のニュースレター(メールマガジン。以下、メルマガ)がある。ワシントンD.C.在住の28歳の女性が2017年1月に、同世代の女性に向けてはじめたメルマガ『ガールズ・ナイトイン(Girls Night In)Screen Shot 2018-04-25 at 17.27.34
ガールズナイトインのインスタグラム 
@girlsnightinclub

 創始者のアリーシャ・ラモス氏だが、決してインフルエンサーだとかユーチューバーだとかその類ではなかった。開始当初はウェブサイトやアプリのデザイナーとして働いており「メルマガはあくまで趣味としてはじめた」。自身の性格は内向的と公言し、SNSに自身の写真や言葉を投稿する回数も同世代の女性より少なめの印象。
 そんな内向的な性格の彼女の、内向的な週末の過ごし方をテーマにしたメルマガの会員数は、当初は150人程度にすぎなかった。それが9ヶ月後には15,000人になり、一年後には6万人という成長率もすごいが、さらに驚くべきは50パーセント以上の開封率だ。他のメディアのメルマガの平均開封率が22パーセントに止まっていることを考えると驚異的な数字だろう。また、クリック率も他の平均が4.7パーセントであるのに対しガールズ・ナイトインは27パーセントと、一線を画する。
 

現代女性とメルマガの相性がよかった?

 
 ガールズ・ナイトインのメルマガは毎週金曜の朝に届く。メルマガの目的は、セルフケアを大切にする女性たちの「コミュニティをつくるため」らしい。仕事や趣味に忙しい現代女性が自分を労わるセルフケアの時間、ひいては、自分のための時間を持つことをたのしめるようなコンテンツを配信している。
  
 ただこれ、会員数が激増したのは、たんにコンテンツがおもしろいからだけではない、と感じている。というもの、もともと一人で過ごすのが好きな人たちは“コミュニティ”など求めない。自宅で気ままに過ごして眠りにつく、ただそれだけだ。しかし、このメルマガに食いついた女性たちはコミュニティを求めている。それは、たとえば「誰かとナイトアウトしないと充実していない」脅迫概念にかられていた女性たちにとって、一人で過ごす絶好の口実ともなるのではないか。また「本当は一人で過ごしたかったけど、なんとなくかわいそうとか思われそうで」という人たちの欲望を肯定しているのも大きそう。自分だけでなくSNS上でおしゃれな女性たちが“いいね”と肯定してくれるなら一層心強い。これで晴れてナイト<イン>ライフに勤しめる。

Raise your hand if you’re staying in tonight. #GNIvibes

A post shared by Girls’ Night In (@girlsnightinclub) on

 マネタイズは主にブランドとのパートナーシップで実現。誘いがあればどのブランドでも良いかというとそうではなくガールズ・ナイトインのオーディエンスと相互性のあるブランドにこだわっており、依頼がきても約90パーセントはお断りしているらしい。同メルマガのメインプロダクトはエディトリアル記事で、パートナーブランドのための記事もすべてオリジナルで制作しているそうだ。この手法を使った多くのメディアがフェイスブックのアルゴリズムなどで苦戦を強いられていると聞くが「うちはメディアではなくニュースレター(メルマガ)なので、アルゴリズムもフィードも関係ありません」

 不特定多数の人が閲覧できるウェブコンテンツに対し、メルマガとは一定数に向けて発信されるもの。発信する側と受ける側、同じ価値観を持ったもの同士がより親密な関係を築くには適したフォーマットである。また、異なる意見や価値観を持つ人から否定的なコメントやバッシングを受けることもないので、発信する側にとっても、ネット上より安全な場所だともいえる。そんな特徴を持つことから、数年前はフェミニズム関連のメルマガが話題になったりもした。

 メルマガで最も大切なのは、目的を明確にすること。それが他にはない密なコミュニティを築く鍵だと説く。たとえば、同メルマガの目的は広義の意味では「女性をエンパワメントすること」だが、かといって政治的な内容は盛り込まない。というもの、あくまで「オフの日にリラックスして休息すること」で女性をエンパワメントしたいから。また「会員の女性たちは、知的好奇心の高いスマートな人たちが多いので、彼女たちはこのコミュニティ外の他のところで政治的な情報は得ているはず」とも。ブランディングというか、棲み分けというか。手広くはやらず自分たちの専門分野を明確にしておく。

 また、メルマガ以外にも全米8都市でブッククラブや、ブランドパートナーとイベントをおこなうなど、いわゆるオフ会開催にも積極的。ただ、どれも30人程度の小規模にとどめ「親密な空間」を大切にしているという。

セルフケアのシンボルに「バス(入浴)タイム」の妙

 
 昔から「ハレとケ」という言葉があるように日常と非日常は対をなす。日常の「ケ」がなく、毎日がお祭りの「ハレ」というのは、それはそれでつまらないのかもしれない。日常生活を順調に送るというのもなかなか難しいもので、風邪を引いたり、疲労が重なったり、鬱々とした気持ちになったりすると、「ケ」は順調から単調に転じやすい。そんな心身の衰え「気枯れ(ケガレ)」が生じたままに、力技でハレの日を迎えてもなんだかな。ハレを迎える前にケガレを落としたいし、ケガレを落とした後のすがすがしさ、それもまたハレだったりする—わけで。
 意識の高い女性たちの間で「セルフケア=自分のためにゆっくり過ごす時間」という考えが浸透し、その時間を持つことがラグジュアリーでクールだと認識されつつあることも、またその影響でセルフケアのシンボルとして昇華してきたのがバスタイムというもの、なるほどといえばなるほど。ただ、そこからがまたおもしろいことになっている。

Screen Shot 2018-04-25 at 18.43.24

 バスタイムといえば入浴剤で、中でもシュワシュワっと炭酸ガスを発泡する「バスボム」。これが再ブームを迎えているというのだ。バスボムといえばやはりラッシュ(LUSH)で、「#lushbathbomb」「#bathart」などのハッシュタグが盛況。ラッシュはこのブームについてこう話している。「再ブームの兆しが見えはじめたのは2015年頃からで、以来バスボムの売り上げは71パーセントも増加。2017年の一年間だけでも2千万個以上ものバスボムが売れ、主な顧客は35歳以下の女性です」

 さすがはインターネット世代、それまで普通であったものが崇めの対象になるスピードがすこぶる速い。バスタイムは「私はシャワーだけより入浴する派」という個人の好みや「シャワーだけで済ますより入浴した方が自律神経が整うし血行が促進されて健康に良い」といったウェルネス・ウンチクの域を超越し、なんだかよくわからないままに神格化されつつある。
 インスタ世代がラグジュアリーなクール体験を写真におさめずにいられるわけもなく、またおさめたらインスタに投稿しないはずもなく、もはやいうまでもないが、それが結果としてSNS上に「セルフケアをたのしんでいる私」を急増させることに繋がっている。そして「セルフケアをたのしんでいる私」を演出するための小道具である上述のバスボムしかり、バスソルト、フェイスマスクなんかが売れている。

 そもそも日常的にバスタブにお湯を張って入浴をしている米国人なんてそんなにいただろうか。シャワーの浴び方もなんか雑。上から下に流すだけなもんだから、ちゃんと尻の素まで洗えているのだろうかと余計な心配をせずにはいられない。何はともあれ、入浴は適切に行われれば身体に良いので身体に良いことをして、女性がよりエンパワメントされるのであれば、それはすばらしいことだと思う。ただ、上述のニュースレターには、今年の暑い夏にはまた別のセルフケア・シンボルが紹介されている気がしてならないが。

—————
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load