「Lover Girl」「yesteryear」エンタメ大国インド、恋愛ソングとラップに溶けたスパイス。煌めいて★アジアのポップス

シティの真ん中からこんにちは。ニュース、エンタメ、SNS、行き交う人から漏れるイキな英ボキャを知らせるHEAPS(ヒープス)のAZボキャブラリーズ。
Share
Tweet

シリーズ「煌めいて★アジアのポップス」。全4回、毎回アジアの国から1ヶ国をピックアップ、その国の大衆ポップスの歌詞にある「独特の英語表現」を解釈してみようというもの。

アジアには和製英語(日本)やシングリッシュ(シンガポール)など、現地の言葉やニュアンス、文化背景を通して生まれた新しい英語表現がある。「英語は外来のことば」なアジアだからこその、不思議で唯一な言い回し。おじさんの店先のラジオから、おねえさんのiPodから、家族の居間のテレビから、ほら、漏れ聴こえてくる。

***

インドにおいて、ドル箱(インドの通貨でいったら“ルピー箱”か)といったら、巨大エンタメ・ボリウッド映画。インド最大の都市ムンバイで撮影される映画のことで、煌びやかな衣装に民族ダンス、アクションやコメディー、ロマンスなど、さまざまなジャンルの要素がつまった豪華絢爛作品だ。そのジャンルごちゃ混ぜぶりを、複数のスパイスを使ったインド料理にたとえ、人はボリウッド映画をマサラ映画とも呼ぶ。とにかく「上映時間が長い」ことでも知られていて、3時間はザラ。世界の映画の平均時間と比較しても、圧倒的に長いらしい(ギャング映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の延長版4時間11分には負けるが)。

と、ここで、もう一つのインドのエンタメを。インドのポップス、通称「ヒンディ・ポップ(Hindi Pop)」だ。ヒンディポップは、ボリウッド映画の主題歌や挿入歌として使用され人気になる曲が多い。たとえば、ロマンチックなアクション映画『Ashock』の主題歌でひと昔前に大ヒットとなった『Gola Gola(ゴラゴラ)』。日本でも人気の『ムトゥ 踊るマハラジャ』の挿入歌はタモリ倶楽部の「空耳アワー」でも愛された一曲。最近では、典型的なボリウッド映画の曲のようなポップスよりも、ラップやエレクトロの要素もあるポップスも人気を博している。今回のアジアのポップスでは、インド人からしたら、もはや“懐メロ”な元祖ヒンディ・ポップから、ポップシンガーたちがコラボレーションする逸曲の独特な英語を紹介しよう。

※曲タイトル、歌詞の( )内の日本語は意訳です。

1、元スター女優で90年代“インドポップ”の女王が恋愛ソングで歌う「Lover Girl(かわいい人)」

インド国内で知らない人はいない大御所歌姫、アリーシャ・チナーイー。1985年にデビュー、90年代に頂点までのぼりつめ「インドポップの女王」の称号をあたえられた国民的スターだ。御年54歳、近年もインド版アメリカンアイドルの『インディアンアイドル』で審査員を務めるなど、現役。彼女のキャリアのなかでも一番アイコニックなアルバムとして挙げられる1995年発表『Made In India(メイド・イン・インディア)』から、今回の一曲『Lover Girl(ラバー・ガール)』をお届け。

ヒンディー語と英語で展開される愛の唄。MVではアップテンポな軽快なリズムに乗って、アリーシャが登場する。ヒンディー語の部分はなにを言っているのかがわからない(翻訳できる人、助けてください)が、はっきり聞こえてきたぞ、

Boy I just wanna be your lover girl.(あなたのかわいい人でいたい)

(出典:Alisha Chinai『Lover Girl』より引用)

「your lover(あなたの愛する人)」と「your girl(あなたのもの)」を合体させた「lover girl」。愛情度は、高い。

引き続きMVでは、ゲトーなストリートでバンダナ革ジャンのギャングスタ風アリーシャ、ボクシングリングで休憩するアリーシャ、ウェディングドレスのアリーシャなど、ボリウッド並みにアリーシャが“マサラ”。途中から、アメリカ国旗のバンダナをしたラッパーのような風態の男が「Hey Alisha, I love you in the morning, I love you in the night.(ヘイ、アリーシャ。朝のお前も夜のお前も大好きさ)」と、ピリ辛なスパイスを投入してくるのが、マサラ度合いを上昇させている。

2、インド歌手の一流が集結、奇跡の一曲でラップされる「yesteryear(過ぎ去った昔)」

インドポップのシンガー(シュウェタ・シェティ)と、レゲエヒップホップ/ボリウッド・ラッパー(スタイル・バイ)、女優もこなすシンガー(サガリカ)、ボリウッド歌手(シャーン)、ヒンディ映画のプレイバックシンガー(バブル・スピリオ、映画で使用される歌を事前にレコーディングする歌手)が集まったら、なにが起こるのか。

1995年、ソニー・ミュージック・インディアから発売されたシュウェタ・シェティのアルバム1曲目『Q Funk(キュー・ファンク)』は、そんな歌のプロたちが集結したドリームチームが巻き起こしたヒット曲だ。

出だしから、ヒンディー語で内容がわからない(また…)が、中盤で英語のラップが入る。

「Kizmet is what’s alive, Now we’re in the ‘95, kicking back to yesteryear, Qawali Funk」

(出典:Shweta Shetty,Style Bhai, Sagarika, Shaan, Babul Supriyo & Jerry『Q Funk』より引用)

「Kizmet」と「Qawali」は、「kismet(キスメットイスラム教の言葉でトルコ語、運命を意味する)」と「Qawwali(カッワーリー、イスラム神秘主義に関する宗教歌謡)」のことだろうか。インドの曲だが、イスラム教に深く結びついているのだろう。ここで注目したいのが

「Now we’re in the ‘95, kicking back to yesteryear」

「yesteryear(イェスターイヤー)」で「昨年、過ぎ去った昔」を意味する。「kick back」は万能な言葉で、「返却する」「跳ねかえす」という意味もあれば「リラックスする」というときにも使われる。この場合は…いろいろ調べてみたが、わからなかった。「いま俺たちは95年を生きている。過ぎ去った昔を「忘れて(跳ねかえして)いまを生きる」のか「懐かしむ(リラックスする)」のか。Q Funkは、正確な答えを教えてくれなかった。

3、“ヒングリッシュ”を駆使した最初のポップグループの「I am no macho man(俺はマッチョマンじゃないけど)」

最後はちょっとズル。インド発、ではなく、スウェーデン発のグループからの一曲を。1994年ストックホルムにて結成されたポップグループ「ボンベイ・バイキングス」が99年にリリースした『Kya Soorat Hai』だ。

ズルといいつつ、フロントマンは、生粋のインド人でシンガーソングライターのニーラジ・シュリダー。ボンベイ・バイキングスは、古典的なボリウッドスタイルとヨーロッパのサウンドをミックスしたことで、インド、バングラデシュ、パキスタン、ネパールなど南アジアから、そのほかの世界のインド音楽コミュニティまで広範囲にわたって愛された。

フロントマンはインド人だが、他のメンバーはスウェーデン人である模様。その東西が混ざった、サウンド同様、歌詞も英語とヒンディー語を交えたもので、「ヒングリッシュ(インド英語)」を最初に使ったグループだともいわれている。

MVもコミカルだ。女性に恋してしまう男の習性を、ニーラジ本人と思われる主人公や、街の男たちが演じる。

「ベイビー、この宇宙すべてを見渡しても君のようなセクシーな人はいないよ。君をみてると、心臓が高鳴るぜ」

へいへい、プレイボーイの定型文。でもここからが彼らの力の見せ所。

「I am no macho man. I ain’t no hi-fi(俺はマッチョでもないし、ハイファイな男でもない)」

(出典:Bombay Vikings『Kya Soorat Hai』より引用)

俺はマッチョじゃないよ、という弱気な気持ち。そして、音楽用語「ハイフィデリティ(原音に忠実な音)」を駆使した「俺は、ハイファイな男じゃないからさ」。マッチョじゃなくてひょろりとしてても、ハイファイじゃなくて荒削りなローファイくんでも。大丈夫、モテるよ。

次回は、

「煌めいて★アジアのポップス」四ヶ国目は「シンガポール」。
マーライオンやマリーナ・ベイ・サンズの屋上プールだけじゃないよ。
インディポップデュオ「Sobs(ソブス)」の
ドリーミーな『Astronomy(天文学)』など。
Stay tuned!

▶︎これまでのA-Zボキャブ

▽煌めいて★アジアのポップス

「COME BACK HOME」「I’m Your Girl」元祖K-POP、感情℃×若気のむき出しに熱(ほて)る。

プラスティック・ラブ、スパークル。世界で大旋風〈シティポップ〉から漏れる、ろまんちっくな“エー単語”。

▽アイコンたちのパンチライン

「ぼくは、ただの“音楽を演る娼婦”」フレディ・マーキュリー、愛と孤独とスター性が導く3つの言葉。

▽懐かしの映画・ドラマ英語

俺の仲間たちよ—『時計仕掛けのオレンジ』『タクシードライバー』主人公らの名台詞(英語)を解剖。

Eye Catch Illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita, Editorial Assistant: Kana Motojima
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load