本格仕様の高級ペーパーに印刷したって、雑記帳のようなわら半紙をホチキスどめしただけだってジンはジン。
世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。自分の頭の中身を奔放に綴じあげた四角形(とも限らない)の冊子のことだ。今月の3冊がさらけ出すのは、喉に刺さった魚の小骨に、なかなか治らない指のささくれ。
…喉に刺さった魚の小骨をひたすら紹介していくジンがあってもおもしろそうだけどごめん、比喩です。
「チクリとするちいさな悩み(なかなか無くならない)」が今回のテーマ。命に関わるような悩みではない。でも、生活のなかでいつも引っかかる。
ニキビ・肉割れ・リストカット跡。人生の節目で残した悩める肌、20ページ。
Image via Alyssa Giannini
誰にだってあるんじゃないかな、お肌のコンプレックス(筆者、昨年の虫刺され跡まだあるよ)。その悩み、20ページで披露します。近年、活発化する“ありのままの自分を受け入れよう”という「ボディ・ポジティビティ・ムーブメント」。でも「私のまわりでは、肌の悩みはまだまだタブー扱い。だから、こんなジンがあったらいいなと思って」と、自身もニキビに悩まされた思春期を送った作者のアリッサちゃんがジンづくりを決心。ネットでさまざまな肌の悩みを抱える人を募集して、コントリビューターとして迎えた。
肌の悩みを解決するための、ありがたぁ~い助言集かと思いきや。手書きイラストや詩とともに綴られているのは、ニキビやストレッチマーク(肉割れ:妊娠や体重増加など皮膚が急激に伸縮したときに残る跡)、リストカット跡のせいでこんなことがあったという苦い思い出話。「スキンケアのアドバイスはナシ。お肌の悩みが生活にどう影響しているかの実話のみをまとめたの。完璧な肌じゃなくても大丈夫だよっていう、ラブレター的な意味合いを込めて」
青春時代のニキビ跡。あの子がお腹に入っていたときの妊娠線。人生どん底にいたときの傷跡。人生のあの時からの“肌の跡”を思い出すのって、自分の個人史をたどるような時間かもしれない。
地元で暮らし続ける理由、新境地に引っ越す理由。
ずーっと続く、“住むとこ”煩い
Image via Hope Amico
たまに、なぜ自分はニューヨークにいるんだろうとふと物思いに耽ることがある。いや、もちろん夢と希望を胸に渡米したんだが、このまま一生腰を据えたいのか、はたまた地元で家族と過ごすべきか…。それがニューヨークであろうと、東京であろうと、ニューデリーであろうと、ナイロビであろうと、昔の“住”と新しい“住”の悩みは、きっと誰にもある。
『Where You From?(あなたはどこ出身?)』。綴ったのは印刷会社にお勤めのホープさん。制作歴23年のジン玄人だ。11年前、ルイジアナ州ニューオーリンズからバトンルージュという街に引っ越したのを機に今回のシリーズを始動。これまで5冊にわたり、地元で暮らし続ける理由や故郷を離れて新境地に住む理由など、家や故郷についての物語を探ってきた。
「私が故郷を離れたのは19歳。一生地元で暮らす気なんてさらさらありませんでした。 そこで気になりはじめたんです。他の人は故郷についてどう思っているのか。なぜ住み続けるのか、なぜ離れるのか」
第1号と第2号ではルイジアナ州の人々の“住”ストーリーを、第3号では、引っ越しと帰郷についてを。最新号の第5号では、56ページに渡って、地元風景や野生植物、高速道路の運転のコツなどローカルあるあるを特集した(付録は「周辺の高速道路の地図」。コアすぎ)。
ホープさん、昨夏、かつて住んだ街・ニューオーリンズにて5000枚の手作りハガキを道行く人に配布。そこには、故郷にまつわるいくつかの質問と回答スペースが。 「この経験と、道行く人たちの回答を第6号のネタに使う予定さ」。 彼女の“住”に対する悩み(と歓び)への探求は尽きることがない。
無口だね、って言わないで。内向的な人との接し方13
Image via Janine Kwoh
生きてるあいだの悩みといえば、生まれ持った自分の性格。いいんだもん、他人がなんと言おうとこの性格で生まれたんだから!と開き直ってみては時をみてまたウジウジ悩む。
サンフランシスコと上海で育ち、現在はブルックリンの手作り文房具会社にてオーナー兼アーティストとして活動するジャニンも、「内向的な性格」がどこに住んでも常の悩みだった。社交的な人には、理解しがたいであろう内向人間のちいさな悩み、心模様。内向人間は実はこう扱われたいんですよ、と正直な“取説ジン”を制作した。
「無口であることを指摘しない」「独り時間を尊重してあげる」「電話に出ない場合はメールや手紙でコミュニケーション」など、自身の経験とネットで募集した内容をもとに『13の内気な性格の特徴と正しい接し方』をまとめた。
ともするとセンシティブになりがちなトピックだが、ジャニンちゃん特製ゆるキャラのおかげで親近感をもって歩み寄れる一冊に。「内向型人間は社交的じゃない、と誤解されがち。でも小規模グループを好んでるだけで、友だちとのつき合いはたのしんでいるし」。仕事やプライベートでも、大所帯での会話がどうしても好きになれなかった彼女。「何度も性格を変えようと努力した。でも、最終的に『このままでもいいんだ』って思ったの。内向的だからって劣等感を感じる必要はないし」。あれ、小骨とれたかな?
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine