「私の顔はピザ」“そばかす”にはなれないニキビの〈スキン・ポジティビティ〉をZ世代はこう進める

「ニキビができた」と「憂鬱な表情」は、なぜセットなのか。物語の主人公は困り顔で「ニキビができてしまった」と訴える。そして「その悩みはこの商品を使えば解消できます」とたたみかけるのがお決まりのニキビ広告だ。
ニキビに限らず、セルライトやシミ、シワもそう。できたらヤバい治さないとヤバい、と消費者の不安を掻き立てては消費へと煽ってきた。しかし、現代のデジタル世代の若者たちの中にはこういった従来の美の圧力に対し「いたずらに不安を煽り、自信を削ぐだけの広告は不健康なので見たくない」という反発が増えている。

これは、数年にわたって主にソーシャルメディア上で続く多様な身体の美を認める啓蒙活動「ボディ・ポジティビティ」の成果に他ならない。そしていま、続いて「スキン・ポジティビティ」もさらに進む。

自撮りを加工するのをやめたら、フォロワー「100K」超えのインフルエンサーに。

 コロラド在住の大学生、ハイリー・ウェイト(18)は、あることをきっかけに158Kものフォロワーを持つインフルエンサーになった。それは「私の顔にニキビがあるから」。プロフィールには「プロ・ピザ・フェイス(Pro pizza face、ピザのような顔)」と書いてある。
「そんなことないよ」といった甘い言葉を期待しているわけでも、決して自虐でもない。ただ、ありのままの姿がそうだからそう書いたまでで、「猫や犬に似ていると自称するから猫顔、犬顔と書くのと同じようなもの」らしい。

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ハイリーのインスタグラム。@pigss
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肌のこと、日常についてコメントを添えてポスト。

 
 18歳の思春期の女子がここまで達観するのは、もちろん簡単なことではなかった。中学生の頃から何をしても治らないニキビに苦心し「ニキビを隠す化粧なしでは外出できないほど悩んできた」という。そんな自分を変えたい、と意を決するきっかけになったのは、ソーシャルネットワーク上で日常的に目にしていたボディ・ポジティビティだった。
 メディアが作りあげた「非現実的な『美』の基準に合わせる必要なんてない!」という力強い言葉に勇気づけられ、それまで過剰な化粧で隠してきた素肌を日常生活だけでなく、ソーシャルメディア上でも公開。すると、15Kだったフォロワーが、あっという間に100Kを超えた。

#spottyandcute

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old post it’s so cool to see how I’ve changed in only a few months. This photo was taken during the summer, the morning after I spent the entire night crying over some dumb boy and how unhealthy and unhappy I was and I was having a terrible skin day. I remember my body was inflamed, every joint in my body had a deep ache. But I put on the makeup to cover it. I was ashamed. I was burying my problems and I didn’t feel like I could talk to anyone without feeling judgement or hatred. Now, I am healthier. Happier. I have better people in my life now, people that care about me and vice versa. My skin is still bad but I’m happier with myself as a whole, so the acne really doesn’t phase me. It’s sad how sometimes the people who appear to be glowing are going through their worst.

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ニキビを見せていなかったころの写真を振り返って。

“問題を自分で悪化させて、ジャッジなしで人と話すことはできないと感じてた。
いまはずっと健康的。前よりずっとハッピー。
私の肌はまだ良くなっていないけど、自分自身に対して前よりもハッピー。
だから私のあり方は、ニキビ次第ではないの。”

What’s the number one thing on your bucket list?

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 フォロワーの多くは、同じ悩みを抱えてきた同世代の若者だ。彼らも、彼女がソーシャルネットワーク上でのボディ・ポジティビティに勇気づけられたように、彼女の投稿に励まされているようだ。
 ただ、コメント欄には、彼女の行動に共感を示すものだけではなく、“お節介な”アドバイスも多いという。たとえば、「肉を食べない方がいい」「水分をもっと摂るように」「化粧はちゃんと落とすように」といったもの。この「ニキビができるのは、その人に問題があるからだ」という偏見に対し、彼女は「自分のためだけでなく、同じ悩みを抱える人たちのためにも声を上げていく必要性をさらに強く感じた」と話す。

過剰なフォトショップは全然クールじゃない、という価値観の広がり

 上述のハイリーのように「写真を撮ったらソーシャルメディアに投稿する」文化の中で思春期を送ってきたジェネレーションZ世代*。彼らは写真を加工することに慣れているが、同時に「過剰なフォトショップはクールじゃない」という価値観も育んできたようだ。

*1995〜2010年に生まれた世代。物心ついた頃よりデジタルに触れたミレニアルズに対し、生まれたときからデジタルに触れているZ世代。一括りでミレニアルズと呼ばれることもあるが、消費行動、価値観に相違がみられることも多々あり。

 若い消費者ほど、メディアが作りあげた非現実的な「美」の基準を押しつけられることに嫌悪感を抱く傾向が強く、また、それは従来のニキビやセルライトが「できたらヤバい、治さないとヤバい」と消費者の不安を掻き立て、必要もないはずの消費へと人々を駆り立てる広告に対しても然りである。

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 若い世代がそういった価値観を培うことができたのは、5年ほど前から続いているボディ・ポジティビティの成果に他ならないと思う。特に、近年の若手のセレブたちの功績は大きい。たとえば、人気米ドラマ「GIRLS」の主演とクリエイターを務めたレナ・ダナムや米女優のゼンデイヤなどの次世代のセレブたちは、自身の写真を過剰にフォトショップをして掲載した雑誌をソーシャルネットワーク上で “コールアウト”(名指しで呼び出し)し、フォロワーに向けて「それは過剰にフォトショップを施したもので、私の本当の姿ではない」と積極的に伝えてきた。それは、非現実的な美の理想を作り上げることへの異議申し立てであり、こんな嘘のイメージのせいで誰も自分に引け目を感じたりしないでほしいという願いでもある。
 まだ10-20代前半とはいえ、テレビや雑誌に出る立場であるセレブたちが、ソーシャルメディア時代における自分たちの影響力とその責任を理解し、従来のメディアが作った歪んだ価値観を変えていこうとバッシングを恐れずに自分の意見を発信する。憧れや賞賛の的になりたいあまりに、加工した(偽りの)姿ばかりを投稿する有名人がいまだに多い中、フォロワーに対してフェアであり、ロールモデルとしての責任を背負い、その影響により確実に裾野の意識が変わっている現象には、ファンでなくてもうっとりさせられるものがある。

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ニキビCMの広告塔も、SNS上では「ニキビができることもある」

 スキン・ポジティビティも、昨年くらいから、ポップアイコンのセレーナ・ゴメスやモデルのケンダル・ジェンナーといった若手スターたちが積極的に発信している。特に、ニキビに関してのものが多いのは、それが、たかがニキビとはいえ心理的な影響も深刻だからに他ならない。
 というもの、さすがにニキビは、同じ肌の悩みであった「そばかす」のように「キュートなもの」にはならないだろうし、ましてや化粧でわざわざそばかすを作るような流行(はやり)になることも、人が憧れるチャームポイントになる可能性も、50年先はわからないが、いまのところは無い。ニキビは「できれば、ない方がうれしい」という感覚は、そう簡単には変わらないだろう。

 だから、たとえばかつてアメリカのプロアクティブの広告塔だった米シンガーはジャスティン・ビーバーのニキビに関するインスタグラムの投稿は最適だったと思う。「ニキビができた(Pimples are in)」というコメントともに、おでこにあるニキビを指差して微笑みを浮かべる。以前であれば、この状況でみせるのは、困り顔や泣き顔だったのを、万遍の笑みではなく、ちょっぴり口角を上げただけの「微笑み」というのは絶妙だ。  

 ニキビができるのはその人の生活習慣か何かに必ずしも原因があるからではなく「生きていれば自然なこと=隠す必要はない」という認識を広げる必要性は大いにある。その価値観を表明するのに、もし万遍の笑みを選んだとしたらそれはやりすぎであり、プロアクティブ時代の「広告臭さ」と同一線上。時代も彼の立ち位置も変わったいまなら「軽く微笑む」以上に適切な振る舞いはなかったと思う。 

 また、今年1月のゴールデングローブ賞のレッドカーペットに現れたモデルのケンダル・ジェンナーがニキビ肌だったことに対し、ファンやアンチがツイッター上で騒いでいた際に、彼女が返した「ニキビができたからってヘコむ必要なんてあるわけないじゃない!」というコメントもカジュアルでありながら、このニキビに対するスキン・ポジティビティの核心を突いている。
 
 どうせセレブなんか、とうがった目でみてきたが、彼らのソーシャルメディア上で「個」の動きを見ていると、表向きの「セレブ」という仕事をしつつも、「個」のソーシャルメディア上での発信の方は、なかなか意義深かったりする気づかされる。
 スキンケアブランド広告塔だった人が「ニキビができた(だから何?)」と自由に発言する。影響力のある人がその影響力を有意義に使う成果は、混沌を極める現代でも、数年の時間をかけて、確実に現れている。

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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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