ギャングも頭があがらない絶対的存在「マンマ(母ちゃん)」。極悪人の息子と母たちの図太い関係—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、二十三話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、二十三話目。

***

前回は、スピンオフとして「ギャング映画の常連俳優たちが集合したパーティー」に参加。酔いどれカラオケ大会やギャング映画の金字塔『スカーフェイス』出演俳優の登場など、パーティーの一部始終を密告した。今回は、「ギャングスターとマンマ」。母の日を誰よりも大切にし、毎年〇〇を欠かさなかったあのギャングや、息子のために〇〇をしてしまったマフィアママまで、最強のワルでも頭があがらなかった〈母ちゃん〉に想いを馳せる。

▶︎1話目から読む

#023「母の日には何十本ものバラの花を。ギャングとマンマの斬っても斬れない図太い愛」

 実在したギャング、ヘンリー・ヒルの人生を辿った伊達なマフィア映画『グッドフェローズ』には、カミソリでにんにくを刻む獄中料理シーンや、ヘリ追跡されてもトマトソースかき混ぜシーンなど、たくさんの名(珍?)シーンが出現するが、そのなかでも群を抜いたシーンがこれだ。

 主人公ヘンリー(レイ・リオッタ)は、先輩ギャングのジミー(ロバート・デニーロ)、トミー(ジョー・ペシ)とともに、トランクに入った瀕死のボスを埋めることになった。そのためのスコップを取りに寝静まったトミーの家へ行く。「静かにしろよ。ママを起こしたくないからな」というトミーに続き、敷居を跨いだ3人組。だが、出迎えたのは、寝ていると思っていたトミーのマンマ。寝間着姿で「あらあら、誰かと思ったらみんな揃って。いったいどうしたのよ。ねえ、なにがあったの」(ちなみにこのマンマ役は、同作監督マーティン・スコセッシの実の母だ)。ジミーもヘンリーも、とりあえずトミーの母ちゃんにハグとほっぺにキスで挨拶。「まあくつろいでいきなさいよ。なにか食べるもの作るから」という世話好き母ちゃんに、先を急ぐ3人組は「お構いなく。寝床に戻ってくださいな」。しかし、マンマのおしは強かった。

 結局、スパゲッティを無理やり食べるヘンリー、ジミーにトミー(そしてトミーは「ママ、この包丁を借りるよ。あとで戻しておくから」と、のちに瀕死のボスのトドメを刺すために家庭用包丁を借りた。あとで本当に戻したのだろうか)。

その日は殺しも休み?マフィアの暦で一番大切な〈母の日〉

「I love you, Ma」が今回のテーマである。ギャングスターと愛しのマンマについてだ。極悪ギャングも人の子、彼らの母ちゃん愛は、オメルタよりも濃くカタい。「ギャングコミュニティを大きく占めるイタリア系とユダヤ系。どちらも、きわめて強い女家長制社会(母親が主導権を握っている)、つまり母親が家を取り仕切っています」と、ギャングスターミュージアムの館長さんもつけくわえる。

 マンマ大好きギャングたちだから、そりゃ盛大に祝う日といったら「母の日」だ。この日だけは、殺しもゆすりのマフィア業もお休み。いつもの冷血漢は、母ちゃんに尽くす孝行息子へと丸がわり。この様子を、かつてヘンリー・ヒルはこうたとえたらしい。
「母の日の日曜、ギャングは母親たちにキス(kiss)をする。その翌日には、彼女たちの夫をキル(kill、殺す)する」。覆面捜査で数年間、ボナンノ一家と過ごしたことのあるFBI捜査官も「彼ら(ギャング)にとって殺しはなんのこともないが、彼らの母親への敬愛といったら目を見張るものがある」とこぼしたという。

『グッドフェローズ』に登場する実在ギャング、ジミー・バークも、母の日を特に大切にした男だった。ジミーは、世紀の強盗事件(1978年、ニューヨークJFK空港にあった独ルフトハンザ航空の貨物庫から、約5億円相当の現金と、約1億円の宝石類が盗まれた)の黒幕。あまりにも盗みが得意なことからコロンボ一家とルッケーゼ一家の両家に仕えていた強盗犯も、母の日には近所の花屋を訪れ何十本もの赤いバラの花を買い求めた。贈り先は、服役中だったルッケーゼ一家構成員たちの母親。刑務所にぶち込まれ、母の日にも母に再会できない仲間の代わりに、一軒一軒バラの花を渡しに回ったのだ。

 ボクサーあがりのマフィア、ヴィンセント・ジカンテは、名を馳せた全盛期もニューヨークのアパートで90代の母親と同居していたり、あるギャングも出所後はすぐその足でお母ちゃんに会いに行ったり。ユダヤ系のあるヒットマンも毎週金曜はお母ちゃんのチキンスープを飲みに、実家に足を運んだり。「お母ちゃんのチーズたっぷりミートソーススパゲティが一番好きだ」「マンマのブラチョーラ(肉で具材を巻いたイタリアの家庭料理)が世界一うまい」。母ちゃんの味を思い出を涙腺をゆるませながら語るギャングもいたとかいないとか。

生みの母、強し。息子の尻拭いに走るマンマ、犯罪に加担するギャングママ

「ギャングの母親は息子のビジネス(マフィア業)について知っていることが多いですが、詳しい仕事内容は尋ねないです」。一方で、悪事を働きお縄になてしまった息子のため、息子のビジネスに干渉し人肌脱ぐマンマたちもいる。現代最後の“マフィア”らしいマフィア、ジョン・ゴッティの妻ヴィクトリア・ゴッティ。彼女の(そしてゴッティの)息子ジョン・“ジュニア”・ゴッティも父親に倣ってギャングなのだが、彼が捕まった際、保釈金として7,800万円の自宅を担保にした。同様のことを、元ギャングでレストラン経営者であるアンジェロ・ルッツの母もおこなったらしい(ちなみにルッツ、自身のレストランの拡大資金を過去の黒歴史が理由で銀行から借りられなかったため、クラウドファンディングサイト「インディーゴーゴー」で募ったこともある。そして成功している)。

 最後に、息子の尻拭いではなく、ギャングの息子たちを率いたといわれるギャングママを紹介しよう。1930年代のアメリカを震撼させた強盗ファミリー「バーカー一家」の長、ケイト・“マー(母ちゃん)”・バーカーだ。敬虔なクリスチャンだった彼女は、大酒飲みのぐうたら夫の元を去り、女手一つで4人の息子を育て上げた強いマンマ。貧困であったことから、一家は強盗や殺人、誘拐をくりかえし、社会の敵として政府からもマークされていたのだ(“B級映画の帝王”ロジャー・コーマンも映画『血まみれギャングママ』でケイト一家のバイオレンスをぶちかましているので、B級映画好きはぜひ観ておきたい)。マー・ケイト自身が犯罪の首謀者だという証拠はないらしいのだが、彼女が強盗団を率いたという黒い噂はいまもたちこめている。

 次回は「まるごとアル・カポネ」。ギャング内での信頼のみならず、堅気の地元民や政治家の懐にもはいった人物像、大恐慌時代に世の中に提示した“いい人イメージ”など、PR術に長けたカポネの戦略術について掘り下げてみたい。

▶︎▶︎#024「国民雑誌の表紙を飾るマフィア— アル・カポネのイメージ戦略」

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

20171117019_02のコピー

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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