編集部が選ぶ今月のZINE3冊。テーマはあれもこれも一期一会。人生のワンシーンだった〈あの人・あの話・あの車〉

すれ違いざまに聞こえた赤の他人の会話にも、妙に忘れられないヤツありませんか? そのワンフレーズが勇気をくれることすらあるものです。
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自分よがりといわれたって、好き放題に“自分プロジェクト”を遂行して好き放題に残せるのがいいんだよな。世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。自分の頭の中身を奔放に綴じあげた四角形の(とも限らない)冊子のことだ。
今月も自由を満喫する3冊を紹介。「100日で友だち100人できました(ホント!?)」「意味不明すぎる“立ち聞き話”」「あの頃乗りまわしたあの一台」。テーマは、人生をつかさどる〈一期一会〉。

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友だち100人でき…ました!? 
見知らぬ人に話しかけた100日間

100 Days of New Friends

Image via Elena Skoreyko Wagner

偶然(必然?)の出会いもあれば、貪欲にこちら側から求める出会いもある。英国に住むカナダ人イラストレーターで二児の母エレナの話。昨年春、彼女は大胆にも言葉や文化の壁を越え「100日間で新しい友だちをつくろう」というプロジェクトに乗り出した。「友だち100人でっきるっかな~♪」とは昔よく歌わされたもんだが、本当に実行してみちゃう人がいるとは…。

「子育てに家事、合間にフリーランスの仕事をこなす。その生活を続けているうちに、社会から取り残された気持ちになっちゃって」。誰かに出会うため、エレナは100日間、毎日見知らぬ人に話しかける。青空市場にいる花屋のおじさん、行きつけのジムで出会った少年、列車内で出会ったお姉さん。その100日の思い出でをジン『100 Days of New Friends(新しい友だちづくりの100日間)』にした。第1号では、24ページにわたり、最初に出会った25人の似顔絵と出会いにまつわるショートストーリーが散りばめられている。


新しい友だちづくりでは気まずい思いをすることもそりゃあった。一番思い出深かったのは、25人目に出会った中年男性のガス。「町のお祭りで出会って。話しかけるなオーラ全開だったけど、プロジェクトのためにも話しかけなきゃと勇気を出して話しかけた。そしたらすごくいい人で、立ち話に花が咲いてね。おかげで高揚した気持ちのまま、勢いで帰り道に他の人ともおしゃべりをたのしんじゃった」。SNS全盛期、人とのコミュニケーションや出会いが希薄だといわれる時代に、超アナログに友だちづくりもできるんだ。まだまだ世の中捨てたもんじゃないですな。

すれ違いざまに聞こえる赤の他人の会話をひたすらメモ

The Things People Say Zine

Image via Murtle Chickpea

大都会で生活していると、1日に何百人もの“他人”とすれ違う。人の数だけ会話があるわけで、聞きたくなくても耳に入ることはある。赤の他人だし聞かれてもいいや、どうせ聞かれたところでわからないだろうとタカをくくって憚らずに喋るのはこんな人がいるので注意した方がよいです。ニュージーランドに住むマートル姐さん(38)は常に他人の雑談に耳を傾けしっかり聞き取り。道端やバス、電車内でたまたま聞こえてくる雑談を、いちいち“立ち聞き話”を専用ノートにメモメモ。いつからか飽きてしまって立ち聞きメモは忘れていたのだが、数年ぶりに埃のかぶったノートを発見。これはジンのいいネタになると昨年から制作を本格始動し、自作のコラージュで12ページに綴った。現在は第二号まで出版、「今後もまだまだ出版予定よ」と意気込む姐さんだが。これまで彼女の耳が選び拾ってきた〈どうでもいい話トップ3〉はこちら。

「あんたがパイ食べてるとこなんて、いままで見たことないわ」。なぜにパイ? 

「新聞の一面を飾れるように頑張るんだよ」。純粋な応援?それとも皮肉?

「さっき食べたやつに、たぶん藻が入ってたんだよね…」。ワカメじゃなくて?



うーん、本当にどうってことない会話を集めたようですね。余談だがマートル姐さん、実は以前は社会不安障害を患っていたという。他人から変に思われてないかと強い不安を感じてしまうため、社交の場を避けがちだった。「でもこうしてみんなの会話を聞いてみると、意外とどうでもいい内容ばかりで。おかげでだいぶ気持ちが楽になったわ」。他人の何気ない会話が心のモヤモヤを克服させたとは。すれ違いざまの会話との出会い、あなどれない。


これまで出会った歴代愛車に敬意を。
じいちゃんにもらったいすゞ、若い頃に乗り回したBMW

Rides Zine

Image via Frances Marin

なにも人同士だけに訪れるもんじゃあない。モノとの一期一会もかけがえのないものとなることもある。車社会のカリフォルニア州に住むアーティストのフランシスは、これまでの人生でハンドルを切ってきた歴代の愛車たちを称賛すべく、水彩画風のキュートな手描きイラストに思い出ストーリーを添えてジンに詰めこんだ。ハイスクールの駐車場で運転の練習をした叔父さんのシボレー・インパラ、家族旅行や叔母さんの家に行くときによく乗ったフォードLTD(指定席は後部座席の真んなか)、じいちゃん亡き後に譲り受けたいすゞ・インパルス。それに白のトヨタ・カローラに、濃いグレーのボルボ240DLも。「私の歴代の愛車たちはヨーロッパ車に日本車、古くて小さかったり、大きくてユニークだったり、いろいろ。一番思い出深い一台? うーん、内緒で母の車でこっそり妹と丘をドライブした車、それか幼馴染の家族のキャンピングカーのどちらか。選べないなあ」。






現在のフランシスの愛車は、大人になってはじめて手に入れたマツダ626と、ジンにも登場するユニベガ社の“自転車”。「渋滞地獄の都会を離れて、片田舎で音楽を聴きながら乗り流すのがサイコー。ドライブは自由を感じさせてくれる」。人生のひと時を過ごした恋人や、はたまた節々で出会った相棒のように、世話になった一台一台に敬意を。その愛車からはじまる一期一会ってのもまたあるんですから。

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Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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