30年間の商品保証がついてくる「30年Tシャツ」に、着古したら捨てずに永久交換できる「サブスクTシャツ」。10万のセラミック粒子でつくられた「地球で一番タフなTシャツ」に、着古しても庭にポイできる「地球に還るTシャツ」。そして水の消費量を減らす「100日間洗わなくていいTシャツ」。
これまで、環境問題への配慮・テクノロジー・独創的な発想をつめこんだ、さまざまな進化系Tシャツが世に生まれるたびに取りあげてきたが。新たにその一員となるのが、着ているだけで電気をおこす「発電Tシャツ」。日常アイテムの王様、Tシャツは、いま“発電所”になろうとしているって?
必要なのは“体温”と“外気”。温度差で発電してしまうTシャツ
近年、「熱の再利用」に注目が集まっている。コンピューターサーバーから発せられる排熱を再利用してトマトを育てたり、地下鉄システムからの排熱を近隣エリアの住宅のエネルギーにする計画があったり。エコロジーやサステナビリティがどの産業にも必須になるにつれて、さまざまなアイデアプロダクトが生まれている。そして、いま開発途中なのが、人間が発した「使われることのない熱エネルギー」を「電圧」に変換してくれる「Tシャツ」だ。
「ウォーキング、ランニング、ウォームアップ。Tシャツを着てこれらの活動をおこなうだけで、その人の体温と、体温より低い外気温の温度差で、発電することができます」。そう話すのは、“発電Tシャツ”(名前はまだない)を開発しているスペインのマラガ大学理学部とイタリア工科大学の研究チームだ。かなり専門的になるのでざっくりいくが、物体の温度差が電圧に変換される現象「ゼーベック効果」を利用し、体温と外気温の温度差を電気エネルギーとして再利用しようと試みている。
これまでの温度差を使用可能なエネルギーにする過程には、金やプラチナと同じくらい珍しく高価な材料が必要で、環境にもやさしいとはいえないテルルなどの素材が使用されていた。「このプロジェクトは、一歩前進したものです。軽量でコストもかからない、有害性の少ない素材を使って発電することに成功しています」。
代替素材にはカーボンナノ粒子を使い、そこに、水、エタノール、トマトの皮(生物由来の接着機能を持つ)を配合して溶液を生成。それをコットンTシャツに吹きかければ、電気特性を持ったTシャツの完成だ。読んでいるとこねくり回している感があるが、着心地のよさに問題はないという。
素人にはちょっと難しい物理の話は、ここまでで置いておいて。真っ先に気になるのは「体温だけで、どれくらいの電力を作ることができるんだろう?」。研究チームによると、現状では、最大およそミリボルト単位の電圧だという。ちなみに、スマホ等の電子機器の入力電圧は100から240ボルト。ミリボルト(1ボルトの1000分の1)ということは、スマホを充電するにはほど遠い。が、研究所は「カーボン粒子の組成や濃度を最適化し、もっと多くの電力を生成できるように改良していきます」。スマホなどのデバイスとTシャツをどう接続するか、そして生成した電力をどう貯蔵していくか」が次なる課題だという。外出中にスマホの電池が切れても、着ているTシャツで充電(運動をしないといけないが)—便利な未来、もう少しだけ待っていよう。
人工知能のイラストやデジタルお絵かきも?Tシャツは、いつでもテクノロジーの実験台
「スーパーヒーロー・アイアンマンのスーツには、テクノロジーを駆使したいろんなデバイスが搭載されている。飛ぶことだってできますよね。私たちの発電Tシャツのように、服をハイテク機器にしてしまう“E-テキスタイル”の技術を応用すれば、スーパースーツも夢じゃないかもしれません」。
未来のスーパースーツの第一歩として利用されたツール「コットンTシャツ」。これまでも、さまざまなハイテクの“実験台”として一役買っていたように思える。たとえば、ニューヨーク発ファッション関連スタートアップ「Cross & Freckle(クロス・アンド・フレックル)」が展開するのは「人工知能が描いたイラストつきTシャツ」。猫やハト、ピザ、犬などのイラストは、何百万人分の落書きデータをニューラルネットワークが高速処理したもの。つまり人工知能が吐きだしたイラストというわけだ。また英国発ファッションブランド「Illuminated Apparel (イルミネイテッド・アパレル)」は、光でお絵かきできるTシャツを開発。レーザーペンや携帯など光を発するものでTシャツに描いた絵は、5分ほど光ったままでいるのだとか。
デジタルお絵かきや人工知能イラスト、発電など、さまざまな最新テクノロジーを試す実験台となっているTシャツ。普段着の王様であり日常生活の必須アイテムは今後も、人々の生活を数千、数万ボルトでパワーアップしてくれるだろう。
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Eyecatch Image by Midori Hongo
All images via University of Malaga
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine