無地Tシャツ「永久に取り替えます」定期購入×アップサイクルで〈Tシャツのゼロ・ウェィスト〉に着手

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良いものを丁寧に長く着よう。環境に配慮したスローファッション自体は素晴らしい。ただ、それがすべての衣類にとって最適なのか、といわれると悩ましい。たとえば、日常でもっとも頻繁に着るベーシック衣類の代表「無地Tシャツ」。よく着るだけに、汚れたり破れたり、穴が開くことも多い。汚れたら漂白剤につけて丁寧にもみ洗いし、破れたら針と糸でお直しする—「それは現代人の生活に合っているとは思いません」。その代わり、「着倒したら『永久お取り替え』」を提唱したら? 返却された古いものをアップサイクルすることで、ベーシック衣類の「ゼロ・ウェイスト」を目指す。

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Photo via Keagan Henman

「買い換える(所有)」のではなく「お取り替え」。Tシャツ月額会員制

  
 子どもから高齢者まで老若男女、誰もが持っているであろう無地のTシャツ。このTシャツ及びベーシック衣類のあり方を変えようと立ち上がったのは、スタートアップ「フォー・デイズ(For Days)」の創始者クリスティ・ケイラー。過去には、2010年にエシカルブランド「マイエット(MAIYET)」を立ち上げた経験を持ち、業界では比較的早くからファッションのサステイナビリティに取り組んできた人物だ。彼女はこう話す。「ファッション業界の最も大きな課題の一つはゴミ問題」。以前よりは、捨てずに寄付する習慣が根づいたとはいえ、ブランドやトレンドのものを除けば「実際は、寄付された服の85パーセントはゴミ捨て場行きになっています」。 

 そのことを知って以来、寄付するのを躊躇うようになったという。ゴミを増やすことに加担したくないというのもそうだが、洋服としては価値がなくなっていたとしても「素材自体にはまだ価値がある」という事実も大きかった。

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“いつまでたっても古くならないTシャツ”。
(出典:For Days Official Website

「ゴミ問題」と「まだ使える素材を無駄にしたくない」という2つの想い。その答えとしてはじめたのが、今年4月に創業したフォー・デイズだ。エシカルの部分は後半で述べるとして、まずはユニークなのは月額会員制のビジネスモデルについて。「サブスクリプションモデル(定額モデル)」で、Tシャツ1枚いくらの販売方法ではなく、月ごとに料金が発生するスタイル。そもそも「買い換える(所有)」のではなく「お取り替え」というのがポイントらしい。
 3枚12ドル/月、6枚24ドル/月、10枚36ドル/月からサービスを選ぶことができ(送料込み)、一枚返却したら新しいものが一枚届くというシステム。返却されたものは、同社が責任を持って次のTシャツを作るためにアップサイクルする。
 システム自体は、昔のビデオやDVDのレンタル制度に似ている。もはや、過去の話すぎて覚えていない人も多いかもしれないが、月に○本まで借りることができて、一本返却したら、新しいものを一本借りられる、というやつだ。
   

「良いものを丁寧に長く使おう」って、結構、消費者頼りなんじゃ?

 また、エシカルはエシカルでも、彼女が目指すのは再生し続ける経済「サーキュラー・エコノミー」だ。資源を最大限活用し、それらの価値を目減りさせることなく、再生・再利用をし続けること。近年のエシカルファッションやスローファッションの提唱者たちがマントラのごとく唱えてきた「良いものを丁寧に、長く着よう」「Buy less, but better」とは、やや異なる。

 ベーシック衣類に「良いものを長く」を当てはめると、「買ったら最後、ボロボロになるまで着倒しましょう」(禁欲)とも取れるし、「丁寧に」には、コーヒーやソース、インク、または汗などよる「シミ」を幾度となくシミ抜きするプロセス(手間)が含まれるもの。
 スローファッションの思想自体はすばらしい。だが、言うは易く行うは難し。お気に入りの一着なら度々手間暇をかけることはできる。だが、ベーシック衣類の汚れとなればそれは日常のものだ。しかも、いずれモノの寿命がきたあとはどうする?(やっぱ捨てるのか?)という疑問もある。売れば良い、寄付すればというのもあるが、寄付については前述の通りだ。

 彼女はこの消費者に課された「禁欲」と「手間」の色合いを薄め、「汚れたり、被れたり、持っているものとは違う色が欲しくなったら、やっぱり新しいのが欲しいですよね(月額会員制でどうでしょう)」と、消費者の欲求に寄り添う。

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“なにも所有しない。でも、すべてを手に入れる”。
(出典:For Days Official Website

 無地のTシャツは通年使えるだけに「平均的な米国人は、年間あたり10枚のTシャツを購入し、6枚は捨てている」という。この状況を「ゼロ・ウェイスト」に近づけていくのに「捨てるな」「買い換えるな」とアンチ資本主義を掲げて争うより、彼女の「着倒したら『永久お取り替え』」策は懸命なのかもしれない。確か、以前、Heapsで取り上げた「ゴミを出させない店」の創始者も「現代のゴミ問題は非常に深刻。一刻も早い解決が必要なとき、ビジネスほど影響力のあるものはない」と言っていたっけ。

 このスタートアップの重要なポイントは、やはり環境に配慮した方法で良いものを作るだけでなく「生産→購入→捨てる→汚染」の悪循環を「生産→購入→返却→アップサイクル→生産」と好循環に変換することに注力している点だ。

「返却された衣類を、新品同様の衣類にアップサイクルするより、紙や断熱材に変える(=リサイクル、もしくはダウンサイクル)方が簡単です」。しかし、衣類ゴミはそれでは解消しきれない量があるという。だからこそ消費者と一丸になって「衣類のサーキュラー・エコノミーを実現する必要性があるんです」。
 彼女いわく北米でのTシャツ市場は「2.2兆円規模」。前代未聞の「Tシャツ月額会員制」は、この巨大市場を揺るがすビジネスモデルになるのか。

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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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