建物一生分のエネルギーを生みだす“発電所的オフィスビル”が誕生。近隣のビルにも「電力おすそわけします」

「お宅の電力、ちょっと貸して!」「今月は私たちの電力で」。お醤油貸しての勢いで、未来のご近所さんたちはエネルギーの貸し借りをするのだろうか…なんて。
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商業施設や駅などが集まる都市部に突如現れたのは、“ソーラーパネルを搭載しまくったビル”。ビルの上部は、隙間なくびっしりソーラーパネル。ビル1棟の電力をまかなうだけでなく、近隣コミュニティに電力をおすそわけする、“発電所”のようなビルだ。

ソーラーパネル重視でデザイン「建物の一生分のエネルギーをまかなうビル」

 堂々とそびえたつビル「Powerhouse Brattørkaia(パワーハウス・ブラットールカイア)」。ノルウェーの中部に位置する第3の都市トロンハイムにできたこちらのオフィスビル、遠目からだと、フツーにモダンでスタイリッシュなビル。しかし。上からのぞいてみると、あれ、通常のビルではないことに気づく。ビル上部の五角形の表面を「ソーラーパネル」がびっしりと覆っている。このビルディング「この建物内で消費されるであろう一生分のエネルギーをまかなえる」のだという。


Image via IVAR KVAAL

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 デザインを手がけたのは、「ヨーロッパ初の水中レストラン」から、現在施工中の「上海の新ランドマークとなるオペラハウス」まで、世界中に斬新な建築物を設計するノルウェーの建築事務所「Snøhetta (スノヘッタ)」。「建物が一生のあいだに消費するエネルギーよりも、さらに多くのエネルギーを生産する建物を開発・建設する」をコンセプトとしたプロジェクト「Powerhouse(パワーハウス)」を展開していて、今回のソーラーパネルビルはその5作目となる。

 いったい、何枚のソーラーパネルが使用されているのだろう。調べても枚数は出てこなかったが、建物上部全体に設置したソーラーパネルの表面積は、およそ3000平方メートル。50メートルプールを4.5面ぶんの大きさ、といったら想像しやすいだろうか。


Synlig.no

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 また、このビルディングの特徴である「五角形」というユニークなデザインも、発電の効率性を優先させてのこと。ソーラーパネルは、太陽に向かって90度の角度にあるときに一番エネルギーを生産するので、太陽が当たりやすい面積を増やすべく、建物上部は横に広がったデザインに。

 その結果、ソーラーパネルビル全体の発電量は1年で約50万キロワット。日々、ビルが1日に必要な電力の2倍の量を生産していることになる。さらに、ノルウェー特有の日照時間20時間という“長い夏”に電力を貯蓄し、日照時間が5時間に減ってしまう冬でも夏に蓄えた余剰電力を使用できるシステム。また、余剰電力は、周辺の建物や、地域を走る電気バスや自動車、ボートなど公共のコミュニティに対し、おすそわけすることも可能。地域に共有してもなお、ソーラーパネルビルの建設時と解体時にかかるエネルギーすべてを回収できる。つまり、建物の誕生から消滅まで、太陽光発電の電力だけで稼働することができるのだ。


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屋根の中心にぽっかりと開いた穴の下には公共の中庭スペースがあり、じゅうぶんな自然光を取り入れることで、
快適な労働環境づくりと無駄なエネルギー消費削減を目指す。

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建物の内壁に露出するコンクリートは、熱と冷気を吸収して保持し、なるべく電気を使用せずに空調を調節できるように機能している。

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建物はトロンハイムの港に面し、地元の鉄道インフラに直結しているため、オフィスで働く市民たちにも便利な造り。
上層階はオフィススペース、一階にはカフェとビジターセンターを兼ね備え、建物のサステナビリティについて学ぶことができる。

電力の地産地消?世界で張りめぐらされるマイクログリッド

 ソーラーパネルによる“電力おすそわけ”の動きは、着実に進んでいる。既存の大規模発電所の電力供給に頼らず、一定の地域に小規模発電施設を設け、最小単位でエネルギーを分散する「マイクログリッド」という仕組みだ。
 米国各地では、一区画の住民が、定額でその地域内のソーラーファームの電力をシェアする「コミュニティ・ソーラー」という動きが多発。これによって、ソーラーパネルを置く屋根がない人や経済的に設置が難しい人でも、再生可能エネルギーの使用に貢献することができる。
 似たような動きは、最貧国の一つであるバングラデシュでも起こっている。たとえば、バングラデシュのスタートアップ「SOLshare(ソルシェア)」は、特に農村部にて、ソーラーパネルを中心とした再生エネルギーを安いコストで供給できるように活動中。ソーラーパネルで自家発電する人々(主に富裕層)が、余った電力を簡単に売れるプラットフォームを開発。貧困層がより手頃な価格で電力を買えるようになることを目指している。日本でもマイクログリッドに取り組んでいる好例が、沖縄県の「来間島(くりまじま)」だ。島内の学校などの屋根に太陽光発電設備を設置し、太陽光電力でエネルギーの100パーセント地産地消を目指す。

「未来の建物は、エネルギー生産にポジティブな建物であるべきです。環境への配慮を真っ先に考えデザインすることが必要になります」と、スノヘッタ創設者/建築家のトールセン氏。世界各地でのマイクログリッドの整備が進み、ソーラーパネルを設置した屋根が自分の家になくても、太陽光発電のエネルギーを消費できる。そんな未来の建物は、太陽に向かって咲くヒマワリのようにそびえ立つ。


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Eyecath Image via Synlig.no
Text by Haruka Shibata
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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