イタリア系ギャングの十八番は「チーズ・ビジネス」。とろける熱々、食とでかい金稼ぎ—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、三十一話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、三十一話目。

***

前回は、政界からエンタメ界までに張りめぐらされた太いパイプで「暗黒街の首相」と呼ばれたギャング、フランク・コステロの人物像と大物の仕事技について話した。今回の議題は「ギャングとフードビジネス」。米国イタリア系ギャングのチーズビジネスや、本国イタリアの食流通を仕切る「農業マフィア」など、食にまつわるGたちの腹の空かせ具合をのぞいてみよう。

▶︎1話目から読む

#031「食好きイタリアマフィアは食でカネを稼ぐ。チーズマフィアに農業マフィア、ビジネスの耕し方」

 ニューヨークが寒い冬を迎えると、2年前のことを思い出す。マフィア幹部の息子で、料理大好きマフィアとしてその界隈では知られる、トニー・“ナップ”・ナポリの家にお邪魔し、取材。クリスマスイブ前夜の23日だったため、リアルマフィアの食卓にはごちそうが並ぶ。ゴツい指輪をはめたトニーさんの指が、サラミやらオリーブやらチーズやらを絶え間なくつまんでいくのを眺めていた(トニーさんは、今年5月、83歳でこの世を去った)。

 リアルマフィアたちは、食を腹に入れるのが好きだが、食で金を稼ぐのも好きだ。たとえば、1980年代に米国中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで、ピザとチーズの一大ビジネスを展開していたのは、イタリアンマフィアだ。シカゴギャングのボス、ロス・プリオは、現在も国内大手チーズメーカーとして現役の「グランデ・チーズ」の経営を掌握していたこともあった。それに、その後に就任する同社経営者は、いずれも組織犯罪に関与しているか、あるいは犯罪組織に繋がりのある人物であった。ジュークボックスビジネスにも手を伸ばしたギャングボス、フランク・バリストリエリも繋がっていたという。

 もっとも同チーズメーカーの背後にいた最大のギャングといえば、コーサ・ノストラの幹部ジョゼフ・ボナンノ。彼と手下は、1940年代初頭と80年代の米国におけるチーズビジネスに特化。複数のチーズメーカーや、メーカーの問屋、チーズが卸されたピザ屋までをもコントロールしていたのだ。さらに、ニューヨーク・ブルックリンにかつて存在した「キャピトル・チーズ」という名のチーズ小売店は、ニューヨーク5大マフィアの一つ、ガンビーノ一家の幹部によって経営されていたという。


クッキングマフィア、トニー・ナポリの思い出写真。

 禁酒法時代に名を馳せ、アル・カポネとも深い関係にあったイタリア系シカゴマフィア、ジョー・アイエロもチーズビジネスに着手した一人。主にチーズの輸入を手がけたという。ちなみに、ニューヨークのローワーイーストサイドに、つい数年前まで、手作りモッツァレラチーズを売る「ジョーのチーズ屋さん」という店が存在した。創立者はジョー・アイエロ。シカゴマフィア、ニューヨークのローカルチーズ店までオープンしてたとは! と思ったが、1950年代に開店したということなので、1930年に没したジョー・アイエロには関係なし。しかし、同姓同名のチーズビジネスマンがいるとは、ジョー・アイエロにはチーズの弁財天さまがついているのかもしれない。

 ドロドロのギャングによるチーズビジネスだが、チーズといえばイタリア(そしてアメリカ)のソールフード、ピザ。アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長さんに、地元(ニューヨーク)のピザビジネスとギャングの関係性について聞いてみた。「ええと、私が子どものころ、ニューヨークのピザ屋はイタリア人によって経営されておりました。いまとなっては、ユーゴスラビア系の移民たちが主に経営するようになりましたね」。肝心のギャングの関与については…。「もうこれ以上、言えませんよ(苦笑)」。

総収益2兆円。イタリアの食品流通を牛耳る「アグロ(農業)マフィア」

 食業界で荒稼ぎするイタリア系ギャングは、米国内だけではないようだ。本国イタリアでは、組織犯罪が手広く農業ビジネスをおこなっていて、その売り上げはおよそ2兆円(2017年)前年と比べ30パーセント上昇したというから、その勢力は拡大していることがわかる。ワイン、パン、チーズ、オリーブオイル、バター、牛乳など、農作物・乳製品の生産から収穫価格、輸送、スーパーマーケットへの卸しまでを仕切っている彼ら。アグリカルチャー(農業)を文字って、「アグロマフィア」と呼ばれている。

 国内の大手農産業団体は「アグロマフィアが農産業をコントロールすることで、市場の競争が潰され、誠実な起業家が踏みにじられ、作物の質や安全を妥協せざるを得ない状況が生まれてしまう」と危惧。また、40万人以上の農業労働者が組織犯罪によって違法雇用されているという報告もあるという。輸入スーパーで手にとるイタリア産オリーブオイルやチーズも、もしかしたらアグロマフィアが育てたものかもしれない。

 次回は、「ギャングとアイデンティティ」について。シチリアマフィアと“シチリア系”マフィアの違いや、白人マフィアのなかでの階級差、ニューヨークのブラックギャングなど、ギャングコミュニティ間での文化・民族・人種による“自己”について、明かしてみよう。

▶︎▶︎#032「イタリアギャングとイタリア“系”ギャングは大違い。Gたちに流れる血の“色”の話」

***

重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

20171117019_02のコピー
Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

Eye Catch Image by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

 

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