冷血ギャングスターの「パジャマ大作戦」に「育毛魔法」、大物は股間にぶっ放す。“オッド”ファーザーたちの珍伝説—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、二十七話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、二十七話目。

***

前回は「ギャングとゲイシーン」をテーマに、ニューヨークギャングが深くコネクションをもっていたゲイコミュニティや、自身や親族がゲイだったギャングたちについて打ち明けた。今回は、ギャングたちの「謎の行動」について。パジャマとバスローブ姿で街を徘徊、精神病者になりきったギャングや、薄毛に悩み奇行に走った二枚目ギャングなど、普段は“切れ者”な彼らの不可解な行為について紹介していきたい。

▶︎1話目から読む

#027「パジャマ姿でマンハッタン徘徊、股間に発砲。紙一重なGたちの、奇怪な一挙一動」

エンタメ界には、忘れたころに思い出される歴代の“セレブリティの奇行”というのがある。ブリトニー・スピアーズの丸刈り事件に、マイケル・ジャクソンの窓から赤ちゃんぶら下げ事件、草なぎ剛の全裸泥酔事件…。

そしてギャング界にも、奇行のアーカイブはたんまりある。普段は冷血なヤツらの奇怪なエピソードを、ここで紹介してみよう。まずは、非常に怪しい行動を繰り返したあのギャングから。

「(ニューヨークの)リトルイタリー界隈で、よく目撃されていたようです。パジャマとバスローブ姿で徘徊している姿を」。怪しい。しかも「ブツブツ独り言をいいながら」。ますます怪しい。アメリカン・ギャングスターミュージアムの館長さんが話す、このとても怪しい危険人物は、ヴィンセント・“チン”・ジガンテ。ニューヨーク五大ファミリー・ジェノヴェーゼ一家のボスを務めたこともある、イタリア系大物ギャングだ。

 ボクサーあがりのジガンテは、暗黒街でめきめきと頭角を現し、一家の幹部まで登りつめた実力派ギャング。一家のボス、ヴィト・ジェノヴェーゼと権力争いをしていたフランク・コステロを狙撃したことでキャリアに箔がつき、その後、一家のボスの座までのし上がった。性格的には、目立つことを嫌い、計算高く狡猾だったといわれ、ジガンテがボスだった時代、誰がボスなのかわからないといったほど、人を惑わせるような振る舞いでも有名だったという。

 とすると、パジャマ徘徊行動も…やはり「演技だった」。ジガンテは、奇怪な格好でぶつくさ言いながら歩き回る、つまり精神異常を演じることで、数々の有罪判決を避けてきたというのだ。精神異常者を演じること、圧巻の25年。なんども被告として裁判にかけられるものの、「精神異常のため責任能力がない」として、一度も有罪判決を受けることはなかった。晩年になってやっと精神錯乱が演技であったと認めたそうだ。

「彼は、すばらしい“俳優”だったと。犯罪組織界でも類稀なる才能をもちあわせていました。彼が生きていたら、ぜひ仲良くなりたかったですね」。法の裁きを避けるため、ジガンテが遂行した“パジャマ作戦”。地元のタブロイド紙は彼に“パジャマ・キング”という称号を与え、人々は彼を、“ダッフィー・ドン(狂気じみたドン)”、そしてゴッドファーザーを文字って、“オッド(奇妙な)・ファーザー”と呼んだそうな。

世紀のナルシストギャング、薄くなる頭に〇〇をひと振り

「ハリウッド映画の登場人物のようなギャングでしたね」。館長さんもその華やかさを認める男といったら、ベンジャミン・シーゲル(通称バグジー)。ラスベガスを牛耳ったギャングで、つねに魅惑的な女性を連れ立っている二枚目だった。それゆえ、とにかく自分の容姿には人一倍気をかけるバグジーだったが、彼にはある大きな悩みがあったという。それは「日に日に後退する自らの生え際」。

 さあ、寂しくなった髪をどうにぎやかにしよう。◯デランスも、育毛剤もなかった時代、バグジーが考えついたのが「魔法」だった。他の男性からもらってきたひと房の髪を家に持ち帰り、燃える炎に放りこむ、と魔術をかけ、自分の頭にもっと太い髪の毛が生えてくるように祈った。薄くなる頭に、まじないをひと振り。その結果は…。想像に容易いが、太い毛が生えてくることはなく、バグジーのおでこの後退は続いた。

 最後に。ギャングスターの王道を闊歩したアル・カポネの奇行…というか、“失態”について暴露して終わりたい。ゴルフ好きのカポネは、護衛のために拳銃を携帯していた。その拳銃をなぜか、ゴルフバッグに忍ばせていたのだが、あるとき暴発し、弾が、カポネの脚、そしてあろうことか「股間」めがけて直撃したのだ。病院送りとなったカポネは、ギアリーという偽名を使って入院。自分が滞在していた部屋のまわりの5室を貸切り、回復するあいだも敵に狙われないよう、ボディガードに見張らせていたそうだ。股間を負傷しながらも、常に敵の動きを先回りして阻止しようとする姿勢は、真のギャングスター(?)だといえよう。

 次回は、ギャングたちが牛耳っていた「ジュークボックス・ビジネス」について。酒場やダンスクラブなど若者たちのナイトライフの場で活躍した、レコードを自動再生する装置「ジュークボックス」とギャングの意外な繋がりや、ギャングが絡んでいた(?)といわれるジュークボックスのオペレーター謎の死事件、ニューヨークのジュークボックスの流通を操っていたあのユダヤ系ギャングなど、ギャングに人気のジュークボックス商売について音量をあげてみたい。

▶︎▶︎#028「大物ユダヤ系ギャングも牛耳る。Gたちが群がる“金のなる装置、ジュークボックス”」

***

重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

20171117019_02のコピー
Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。


Eye Catch Image by Kana Motojima
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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