夜遅くまで、あるいは24時間開いているから、招かれざる客が抵抗のない自動ドアをスイスイ〜っと通過してやってきてしまう確率は、高い。謎のクレームが生まれる場所として、ファストフード店やコンビニがあげられるのは日本だけではない。
筆者の住む米国もそうだし(米国に関してはまあ、お互い様な部分も多分にあるだろう。スマイルは、いくら払ったらくれるのかわからない)。イギリス在住のアーティスト、サム(Samn)も10年ファストフード店で働く経験を持つ。彼が昨年、自身のジンシリーズから新たに出した一冊の舞台もファストフード店だ。タイトルは『Not Paid Enough(十分な支払いを受けてない)』だ。
ツライ労働に対して「もっと支払ってくれてもいいよね」、だが、なぜツライ? クレームのせいである。出ていくハンバーガーの数と客が店に置いていく謎のクレーム、どちらが多いのかわからない。「僕自身や同僚、それから別のファストフード店で働く人たちの苦労をおもしろおかしくジンにしたんだよ」という一冊。日々生まれゆくクレームから“ベスト”を選出し、イラストと一緒に紹介されている。
一番最悪であり一番お気に入り(ジンづくりのため)のクレームは、「そうだね、ジンジャーブレッドの話かな。あれは傑作だった」。ジンジャーブレッドとはクリスマスシーズンになると、街のそこかしこにワラワラとあらわれる生姜を使った人型のクッキーのこと。ジンジャー、入れすぎて辛かったのか? これではクレーム初心者の発想だった。サムに聞けば、“ジンジャーブレッド”がお気に入りになり得た顚末はこうだ。
とある年のクリスマスシーズン。他の店がやるようにサムの働くファストフード店も、店まわりをあかるくした。ツリーやヒイラギの緑の葉に赤い実、そしてジンジャーブレッドの絵を描いて….。店に入ってきた一人の男、列に脇目も降らずズンズン進み、まっすぐにサムを捉えてツバキを飛ばしてクレームした。「おい、おまえんとこは誰一人として、ジンジャーブレッドが男だって知らないのか!? あれは男じゃなきゃならないんだよ。おまえの店のは、“ただの人型”じゃねえか!」。この後、男はジンジャーブレッドがなぜ男であるべきか、について、10分ほど力説をまくしたてたらしい。
店員の態度でもなくフードに対してでも、たとえば店が汚れている、でもなく「店に描かれたジンジャーブレッドが男に見えない!」とクレームって…勘弁してちょ。そりゃあ「Not Paid Enough!(もっと払ってくれてもいいのに!)」って言いたくなる。
———–
Photos via Samn
Text by Tetora Poe
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine