業界革命児が大自然に仕掛ける「突然現れ、消えるホテル」。ミレニアルズがハマるポップアップ・ホテルって?

Share
Tweet

この20年ほど、ホテル業界を牽引した「ブティックホテル(エースホテルとか)」にそろそろ引導が渡される、と囁かれている。そこまでのホテルが一体どんなものかといえば—「普段は存在していないホテル」。更地に突如現れる「ポップアップホテル」の存在に注目が集まっている

IMG_2613055

突然現れ消えるホテル?

 近年、目にする機会が一段と増えた「ポップアップ・〇〇」。日本でも海外でも、アパレル業界が空き店舗や店内の一角で「ポップアップショップ」となるものを作ったりしていて一種のムーブメントになっているのだが、実のところそのインストア感になんだがしっくりこない。ポップアップの定義は本来、「何もないところに突然現れ、突然消える」からだ。

 そんな本来のポップアップ、極例ではあるものの、エベレストでポップアップレストラン(詳しくは記事▶︎エベレストでレストランはじめます)など、“本当の意味でのポップアップ”はちゃんと世界各地に現れている。
 とまあこちらの形態にせよ一種のトレンドであるわけなんだが、今回のポップアップホテルがどちらかと聞かれれば、後者。「何もないところに突然現れ、消える」ホテルだ。

CR-MR-4292

ミレニアルズのニーズにはまった、次世代ホテルの形

「この約20年間、エースホテルがもたらしたブティックホテルという“イノベーション”がホテル業界を復活させ、進化させてきた。そして、これからの15〜20年は“体験型のホテル”、つまり『ポップアップホテル』がホテル業界の牽引役になると確信がある」
 
 そう話すのは、体験型ホテルを仕掛ける当事者で、ポップアップホテル・ブームをリードする米スタートアップ「Collective Retreats(コレクティブ・リトリーツ)」の創設者、ピーター・マック(Peter Mack)はこう語る。

DSC_2694

 体験型、そう聞いてピンときた人もいるだろう。ポップアップホテルの可能性を信じる背後には“彼ら”の存在がある。ポップアップという話題性はもとより、「特別な体験」が大好物のミレニアルズ世代だ。「モノより思い出」な彼らの琴線に触れられるのが、期間限定のポップアップホテルという新しいステイ方法なんだという。

ジャングルに氷河地帯で寝泊まり?ときどき過激な「体験型アウトドアステイ」

 その“特別さ”の下地は、ポップアップホテルの「ロケーション」だ。そのラインナップには、これまで通常のホテルでは泊まれなかった場所がズラリ。たとえば景観保護地区(半永久的な建造物の建設がNG)、こういった場所でも取り壊しが可能な一時的なポップアップホテルであれば“出現可能”だ。くわえて、インフラ整備が進んでない場所、あるいはギリギリの最果てまでもある。

 たとえば既出のコレクティブ・リトリーツの宿は、世界初の国立公園であるイエローストーン、米最大のスキー場ベイルマウンテン(コロラド州)、ワイナリーが有名なソノマ(カリフォルニア州)と、かなりスケールが大きい。ビクともしないコンクリート製の従来のホテルが建設不可能な土地にもテンポラリーの宿を作ってしまうことで、その時限りの「体験型アウトドアステイ」を可能にしている

Yellowstone

 ポップアップホテルによってはその「普段絶対に行かない」ロケーションにさらなるこだわりを見せるものも。昨年12月にサービスをはじめた「Blink(ブリンク)」はポップアップホテルでもかなり過激派。なんと氷河地帯や砂漠地帯、ジャングルにサバンナなど、日常生活や普通の旅行では決して足を踏み入れることのできないロケーションでの宿泊体験を提供する。ただ過激体験であるがゆえ、値段はお手頃ではないのだが…。 
 世界最大級の音楽フェス・グラストンベリーなどを中心に、野外フェス専門で仕掛けるポップアップホテル「The Pop Up Hotel(ザ・ポップ・アップ・ホテル)」は、「近隣の宿」もしくは「キャンプ」という二択しかなかった土壌に入り込み、人気を博している。

IMG_3703253
CR-MR-4357

突飛な環境に「最上級のホスピタリティ」

 

 このロケーション推しだけ聞いていると「キャンプでもできるんじゃ…?」の声もあるかもしれない。だが、あくまでも今回は”ホテル”のお話。キャンピングとの決定的な違いは「最高のホスピタリティ」の提供。環境の“非日常感”を売りにした「ロケーション勝ち」ではなく、そこに「ホテルのサービス」が加わるからおもしろい、というわけだ。

 突如現れ消えるホテル、と聞いて簡易な小屋みたいなものを想像しがちだが、内装デザインは各立地エリアの雰囲気に合わせた内装デザインで、ヴィンテージショップや市場から集めたアンティーク家具を並べる。「インスタ映え」必須のミレニアルズ相手なのでインテリアまでこだわる(もちろんWiF完備、24時間リアルタイムでポスト可能だ)。「専属シェフのご当地食材特別コース料理」を堪能して、無数に輝く星空のもと高級リネンに包まれながら眠りにつく。自然の中でまたとない極上体験が待っている。

IMG_2478015
kateosbornephotography-32780

 宿泊料金だが、一泊500ドルから700ドル(約4万5000円〜約6万4000円、コレクティブ・リトリーツの場合)と決して安くはない。だが、自分でキャンプするには雄大すぎる大自然で至れり尽くせりのサービスを享受でき、誕生日や結婚パーティーなど「特別な日を特別な場所で」過ごしたい人々にとっては高くはないだろう。自分がいいと思うもの、納得すればお金をかけるミレニアルズ、「ポップアップホテルは、従来のホテルにある必要経費(税金や建物のメンテナンス費)を割愛でき、その分をゲストの“体験”に費やすことができる」とあれば、納得の値段だ。

大手ホテルグループも参入でブーム裏づけ

 2020年には米国内消費の40パーセントを担うといわれる最大の消費者層のミレニアル世代。さらにその72パーセントが「物質的な豊かさよりも“体験”にお金をかけたい」と回答している(ボストン・コンサルティング・グループの調べ)。
 そんな体験重視のミレニアルズ冥利に尽きるビジネス形態が功を奏し、ポップアップホテル側も好調。大手ホテルグループ「Marriott(マリオット)」が、今月開催されたばかりの音楽フェス、コーチェラでポップアップホテルビジネスに参入した。コレクティブ・リトリーツも、創業時に250万ドル(約2億2700万円)の資金を調達するなど、ホテル業界に突然ポップアップした次世代ホテルビジネスの伸びしろは大きくなるばかりだ。

CR-MR-4292

 人が羨む“特別体験”をSNSでシェアするのが専売特許な世代にとって、大自然の中に突如としてポップアップするホテルは文句なしのシェア素材。まさに現代の気風にジャストフィットな「ポップアップホテル」、ホテル業界の次なるイノベーションとなる期待は大だ。

*1ドル 109円 換算

—————
All images via Collective Retreats
Text by Shimpei Nakagawa, Edited by HEAPS
Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load