都会で「フレキシブルに寝泊まりできるリーズナブルな宿」と聞いて、何が思い浮かぶだろうか。
ユースホステル? カプセルホテル? それともAirbnb?
それらの要素をいい具合に足した新形態の「滞在スタイル」が盛り上がりをみせている。
「手作り感溢れるカプセルホテル」が若者にウケている?
夢のために上京しても、家賃や生活費でお金が…なんて、若者(のみならず)感じたことのある人は多いはず。
「ロサンゼルスには、自分の夢を叶えるため、新しいことに挑戦するためにたくさんの人々がやってきます。それなのに、家賃も数日滞在するための宿もAirbnbも高くなっていく一方。これはなんとかしないと! と思い、自分の価値観にあう宿をはじめたんです」
そう話すのは、ロサンゼルス在住の「Podshare(ポッドシェア)」の創始者エルビーナ・ベック(Elvina Beck)だ。2012年、27歳のときに最初の宿を「お父さんとD.I.Y.した」という彼女、現在は同市内に3店舗を展開中で、さらに4店舗目の契約交渉の真っただ中だという。
創始者、エルビーナ・ベック
ポッドシェアは、ポッドこと鞘(さや)、転じて、さや状の「小部屋」をシェアする、というアイデアから生まれた。ミレニアルズによるミレニアルズのための、手頃なアーバン・コ・リビングスペースだ。
各小部屋には、ツインもしくはクイーンサイズのベッドと、壁には22インチのフラットスクリーンTVが設置されており、ネットフリックスとフールーが無制限に視聴できる。タオル、フリーWi-Fi、もちろんコンセントもあるので携帯の充電に困ることもない。シャワーやトイレ、ランドリー、キッチン、冷蔵庫、リビングルームは共有。とまぁ、カプセルホテルとユースホステルを足して二で割った感じか。
宿泊費は一泊40ドル〜(約4,400円〜店舗によって変動あり)、一週間230ドル(約25,300円)。ロサンゼルス市内のダウンタウン、ハリウッド、ロスフェリス界隈のホテルやAirbnbの相場に比べると、かなりリーズナブルだ。それでいて、同じ価格帯の近隣のモーテルのような「隣の部屋で何が行われているのか謎」な物騒さはないという。
ただしプライバシーはない
ただ、小部屋といっても、ドアは愚かカーテンもない。寝台列車、もしくはカプセルホテルを思わせる作り。禁止事項には「違法ドラッグ、盗み、セックス」と記されているが、カーテンすらないこれだけオープンな空間ではやりようがない。よく言えば「オープンでクリーン」だが、プライバシーはないに等しいのではないか?
「ひと部屋に二段ベッドが置かれているようなホステルとAirbnbの中間って感じです。よく、大学のドーム(寮)とかサマーキャンプの大人バージョンみたいだと言われています」とエルビーナ。
なるほど。作りこそカプセルホテルだが、各々のプライバシーは「重視していません」。ここは軽い挨拶はもちろん自己紹介ぐらいしないと、むしろ気まずいのではないかというくらいオープンな環境に仕上がっている。
愚問かと思いながらも「女性は着替えるときに困ったりしないのでしょうか?」と尋ねてみたところ、「見られるのが嫌であれば『着替えるから、こっちみないでね』と向かいの滞在者に一声かければ大丈夫ですよ!」となんともポジティブな反応。
この環境を「おもしろそう!」と感じるか「ちょっとないわ…」ととるか。そこで向き不向きがわかれそうだが、「プライバシーがないなんて絶対無理!」と最初から自らの可能性を狭めないことを推奨している。ポッドシェアの利用者は「ひとり旅をしている人や出張、インターン、面接など、各自パーソナルな理由で滞在している人たちばかりなので、みんな来たばかりのときは一人ぼっちなんです。ですが、ここでは、滞在初日から飲み友だちに困ることはないし、一日誰とも会話をしないなんてありえません」。馴染みのない土地でも、孤独とは無縁だそうで、ここに魅力を感じている「ひとり客」が多いとか。
@podshare
寝床すら “所有しない” 縛りのない会員制
利用者は主に三種類で、「旅行者(主にひとり旅)」「短期滞在の人(出張やインターンシップ、面接など)」「ロサンゼルス市内で住居を探している人」だという。また、共通するのは「社交好きのミニマリスト」。そして、宿泊費は安く抑え、浮いたお金を他に使いたいという価値観の人たちだ。
以前、HEAPSで取り上げた「共同生活スタイル『co-living(リビング)』に属しながらも、同記事で取り上げた英国の「ザ・コレクティブ(The Collictive)」、米国のニューヨークを拠点とする「ウィーリブ(WeLive)」や「コモン(Common)」とはコンセプトがやや異なる。
まず、ポッドシェアにはカーテンもなければリースも契約期間の縛りもない。ポット(ベッド)さえ空いていれば飛び込みも突然の延長もできる。そして、その日の宿泊費さえ払えば誰でも会員になることができ、他店舗の共有スペース、及びそこにあるモノも自由に利用できる、ジムの会員制のようなシステムを、ホステルビジネスに採用している点も新しい。
「ポットシェア内の各ポット(部屋)以外のスペースとモノは、会員みんなでシェアする」のがルール。滞在店舗以外のロケーション(ハリウッドやダウンタウン)にも出入りすることができ(午前10時〜午後10時)、バスルームはもちろん、自転車やTVゲーム、コピー機、サウンドスペース、パーキング、バスケットコートなどの利用も可能だ。
テレビゲームやバスケットコートなんて、普通に考えたらひとり旅客狙いの宿泊施設には「あっても…」なものだ。値段感の近いユースホテルやカプセルホテルとの最大の違いは、やはり「交流」というコンセプトが組み込まれていることだろう。ポッドシェアという「ひとり客」による縛りのない共同体は、今後どこまで拡大していくのか。注目が集まる。
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Photos via Podshare
Text by Chiyo Yamauchi
Edit : HEAPS Magazine