経験ゼロから「ホテルビジネス、時の人」へ。いま一番ホットなホテル経営者の、人を呼ぶホテルの作りかた
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20年前、荒れた土地の壊れかけたモーテル(安宿)を購入した物好きの女性、リズ・ランバート(Liz Lambert)のことは知っているだろうか。
そのモーテル、「薬物売買温床の地」をブティックホテルとして成功させたことを皮切りにホテルビジネスを突き進む。人は彼女をホテル産業の「時の人」と称するが、この時の人、モーテル購入時にはホテルビジネスの経験ゼロ。彼女のホテル産業における天賦の才とは何なのか?

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Photo by Nick Simonite

グラマラス、ですか?

「あのホテルがあるから行ってみたい」という声を集めているのは、アメリカ南西部にあるテキサス州。日本が2つ入りそうな広大なこの土地のイメージといえば、カウボーイやバーベキュー、ロデオ…と、どことなく素朴なイメージがあった。

「でも、オースティン(テキサス南部の都市)ではSXSWも開催されているし、近年はヒップな若者が集まる街になっているよ」。そんな話も聞いていた。
そして、感度の高い人を惹きつけるお洒落なブディックホテルが続々増えている、という噂も。

 たとえば、オースティンにある「Hotel Saint Cecilia(ホテル・セイント・セシリア)」や サン・アントニオの「HOTEL HAVANA(ホテル・ハバナ)」に、アーティストを惹きつける砂漠の町、マーファにある「El Cosmico(エル・コスミコ)」。
 それらすべてを手がけるのがリズ・ランバートであり、彼女のデザイン会社「Bunkhouse Group(バンク・ハウス・グループ)」だ。

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El cosmico, Photo by Nick Simonite

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HOTEL HAVABA, Photo by Nick Simonite

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Austin Motel, Photo by Nick Simonit

 特に、「エル・コスミコ」はアーティストやグランピング好きの人たちの「ディスティネーション」として、近年より一層注目を集めている。21エイカー(東京ドーム約1.8個分)の敷地に点在するのはインディアン風のティーピーやモンゴル風のゲル、ヒッピー風のレトロなトレーラーハウス…。

「空の色と土の色、目の前に広がる自然の中に溶け込むものを考えたとき、ノマディックな生活をしていた遊牧民たちの姿とその人たちが住むテントを思いつきました」

El+Cosmico+-+Teepees+Sunset+-+Nick+Simonite
El Cosmico, Photo by NIck Simonite

 アーティストたちの「理想郷」を理想郷たらしめるビジュアルは、写真を見ているだけで心が踊る。しかし、その宿泊環境は、なかなか厳しい。日中の日差しは強く、夜は冷え込む。乾燥対策も必須。この状況が「グラマラスですか?」とグランピングと表現されることに首を傾げるのは、それが彼女が目指す方向性ではないからだ。

「宿泊の醍醐味とは、その土地の空気感を体験すること」だと彼女は考える。つまり、彼女にとってのホスピタリティとは、日差しの強さや乾燥した空気を「快適レベル」に変えることではなく、ありのままの環境の中に「どんなものがあったらみんながもっと楽しく過ごせるか」を考えて動くこと。

 彼女のことをよく知る人たちは、「彼女はとてもTexan(テキサスの人)でありながら、とてもグローバルな感覚の持ち主だ」と口を揃える。

直感で「薬物売買温床の地」を購入

 生まれもビジネスの拠点もテキサス。地元を愛し、おおらかで独立心に富み、自由と友愛を尊ぶ根っからのテクサン(texan、テキサスの人)。大学卒業後は、弁護士として働いていた彼女。ある安宿との出会いで、彼女の人生は大きく変わったという。

 それは、オースティンのサウスコングレス地区にある歴史的クラブ(Continental Club)へと出かけた夜。彼女は向かい通りの、1939年に建てられた壊れかけたモーテル(安宿)「San José Motel(サン・ホゼ・モーテル)」の存在がふと気になったという。錆びたドアの前に立ち直感でこう思った。「ここを使ってなにかおもしろいことができるのではないか」。彼女はこのモーテルを購入することを決めた。

 いまでこそ、ヒップな若者が集まり、夜遅くまで人々で賑わうサウスコングレス地区だが、20年前はいまと比べものにならないほど荒れていた。彼女が購入したモーテルも「薬物売買の温床、犯罪の巣」だった。

 だからこそ「こんなところでブディックホテルをやるの?」と、周りも投資家の反応も鈍かった。
 そこで手はじめに、もともとモーテルに住み着いていた人々相手に商売をはじめた。一泊30ドル(約3000円)でそこのジャンキーや娼婦、それからその日暮らしのホームレスなどに貸した。「やってみて、ホテルビジネスはやることがたくさんあるとわかった。それで日中の仕事をやめて、ホスピタリティ産業一本に集中することにしました」


Hotel+San+Jose+-+guestroom+exterior+-Photographer+Allison+V.+Smith
Hotel San José, Photo by Nick Simonite

Hotel+San+Jose+-+Grand+Standard+-+Photographer+Nick+Simonite
Hotel San José, Photo by Nick Simonite

ホテルづくりは「地元コミュニティ」形成も

 クラウドファンディングという言葉すらなかった時代だ。300万ドル(約3億円)規模の、モーテル改装プロジェクトの資金集めには3年かかった。
 ここで興味深いのは、彼女がモーテルにいた人々と心を通わせていたというエピソード。長年居座っていたにも関わらず、みな「彼女のためなら協力する。出て行くよ」と、ゴネることなく荷物をまとめたそうだ。
 購入から3年後の98年にホテル改装に取りかかり、その翌年ついにリニューアルオープン(奇しくも、ブティックホテルの新しいスタイルを確立したカリスマ「エースホテル」の創始者アレックス・コールダーウッドの第一号館オープンと同時期だった)。

 隣の駐車場の空きスペースで「Jo’s Coffee shops(ジョーズ・コーヒーショップ」をはじめ、また、SXSW期間中は駐車場スペースをライブステージにするなど、地元オースティンで強力なコミュニティの形成にも力を入れた。

 以後、2006年に自社バンクハウス・グループを創設し、テキサス州内に次々にホテルをオープンさせていった、と上述の通り。今春にはメキシコの「Hotel San Cristóbal(ホテル・サン・クリストバル)」がオープン予定だ。

「彼女がデザインしたお洒落なホテルがあるから、感度の高い人たちがテキサスにくるようになった」。そんなふうにいわれているが、関係者はこう話す。
「お洒落なホテルがあるから、というより、リズがいるから、人はテキサスに来てうちのホテルに滞在している気がしますよ。よく宿泊者から、今日はリズはどこにいるの? って聞かれるもの」

-Hotel+San+Cristóbal+Punta+Lobos+-+Hotel+Exterior+x+Ocean+-+by+Pia+Riverola
Hotel San Cristóbal, Photo by Pia Riverola

 

「古い建物をリノベート」「地域色を打ち出しながら、地元のデザイナーとコラボレーション」それから、「廃材やビンテージ家具、アートを利用」など、メインストリームにうまくのっているといえる。だが、それらのお洒落なビジュアルは、あくまでも掴み。ロイヤリティの高いリピーターが多いのは、彼女の人柄と、彼女がそこに築いたコミュニティがあるからに他ならない、という。その土地で生まれ育った彼女だからこそすくい取れるテキサスらしさ、つまり地元らしさというのがきっとあるのだろう。
  
「カッコいいものをデザインしよう、と意気込むと、確かに難しい。それよりその土地の空気や住む人々の声に耳を傾けて、その地域の一部になれるものは何かを考えると、アイデアが浮かびやすくなりますね」

もっと写真が見たかったら▶︎@bunkhousehotels

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Text by Chiyo Yamauchi
Edit:HEAPS Magazine

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