ここ数年、建築シーンで地道に活躍している素材がある。コンクリートに取ってかわるといわれている木材もそうだが、今回の主人公は「キノコ」だ。キノコの菌糸体を利用した壁やレンガのようなブロックなど、資材としてそのポテンシャルを見い出されながら、イスやランプシェードなどのインテリア家具にもなっている。子どものころに絵本のなかで見た「キノコのおうち」の実現も、もうすぐそこ?
抜群の耐久性&CO2削減。ブロック、壁etc 建材として優秀だった「キノコ」
キノコの味噌汁、キノコの炊きこみご飯にキノコの天ぷら。さまざまな料理に使われる万能な山の幸「キノコ」だが、キノコは食材だけで終わらせてしまうにはもったいないほどの、たくさんの可能性を秘めている。たとえば、埋葬した遺体を土に還してくれる「キノコスーツ」や、たくさんの効能があるキノコを毎日手軽に摂取できるようにした「薬用キノコパウダー」、ゴミ箱行きだった抽出後のコーヒー豆を利用した「キノコ栽培キット」。キノコの特性を生かしたキノコプロダクトは食品やウェルネス、エコ、葬儀業界までをも網羅しているが、次なる活躍の場は「建築業界」だ。
キノコをどうやって、建造物に? 食感が何よりのキノコを建材にするために、まずカチカチの「ブロック」に変身させるのが最初のステップとなる。ここで欠かせないのがキノコの根の部分「菌糸体」。ゴミ箱行きの木くずなどをブロックの型に入れて、そこに菌糸体を植えつけると、菌が繁殖して膨らみ成長し、ブロックを形成する。すでに、ニューヨークのキノコ素材メーカー「エコベティブ・デザイン」や、菌糸体を使ったプロダクトを製作するサンフランシスコの「マイ・コー・ワークス」などが、キノコブロックを開発している。
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こんな簡単にできた素材で建物を支えられるの? と不安に思うかもしれない。が、キノコブロックは、コンクリートよりも硬く軽量だという。菌糸体は、グラスファイバー断熱材よりも保温性にすぐれているほか、耐火性や耐水性も持ちあわせている。菌が生きているあいだにブロックを積みかさねておくと、ブロック同士は一つに結合し、耐久性はさらに増強。また、100パーセント生分解性であることから自然環境で分解が可能、建造物の解体が引きおこす廃棄物問題もキノコブロックが解決してくれるかもしれない。
「キノコで家を建てることは、いますぐ実現しますよ」と、マイ・コー・ワークスの共同設立者ロス氏が話すように、ここ数年、世界中のいたるところでキノコを建築に取りいれる動きが進んでいる。ニューヨークの建築チーム「ザ・リビング」は、2014年に世界初となる「キノコブロックタワー」を建設。1万個のキノコブロックを積みあげたタワーの高さは、およそ12メートルだ。
また今年、オランダで開催されたデザインウィークに、「キノコの壁」がはりめぐらされたパビリオンがお目見え。キノコの建築や家具を製作するオランダ発建築会社「クロウン・デザイン」とオランダのクリエイターネットワーク「カンパニー・ニュー・ヒーローズ」がタッグを組んで開発した。建物の壁を形成するのは、キノコブロックの素材と同じ「菌糸体」。繁殖しながら、壁を拡大していく。しかも、キノコの壁は拡大しながら、二酸化炭素排出量も相殺してくれるという。
Photo by Oscar Vinck
見た目はちょっと…?「キノコ茶室」「キノコ椅子」家具も続々
だいぶ現実味を帯びてきた「キノコの家」。さらには、家のインテリアまで「キノコ揃え」が実現しそうだ。たとえば、ロス氏がつくった「キノコ茶室」。キノコブロックで建てた、三人くらいが入れるテントのような形状。鉢植えにもなってしまうキノコの器もつくったそうだ。
ロンドンのインテリアデザイン会社「ナインライバノバ」は、キノコのランプシェードにキノコのイスなどの家具をプロデュース。ランプシェードやイスのビジュアルは、どことなくキノコ感が残っているよう…。今後、キノコの棚や机、額縁、ブラインドカーテン、食器、子どものおもちゃなど、キノコ由来の家具やアイテムが続々と登場したりして。
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動物や森がテーマのおとぎ話の絵本には、必ずといっていいほど出てきた「キノコのおうち」。赤いキノコ傘の屋根がお約束で、フォルムのかわいらしい家…からは、ちょっとほど遠かったが。キノコのパワーがひしひしとみなぎっている“リアルなキノコの家”に、“リアルなキノコ家具”をそろえてみたら、それはそれでちょっとカオスでおもしろい家になるかもしれない。
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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine