体を使った過激なパフォーマンスを“再演”。現代パフォーマンスアートの母、マリーナ・アブラモヴィッチの50年大回顧展

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今回紹介する展覧会は、東欧セルビアの首都ベオグラードにある現代美術館で開催中の『The Cleaner』。世界的に有名なパフォーマー、マリーナ・アブラモヴィッチのヨーロッパにおける初の大規模な回顧展だ。1960年代初頭の作品から現在に至るまで、約50年にわたる彼女のアーティスト人生を、絵画、ドローイング、オブジェクト、写真から映像作品まで、約120個の作品の展示で振り返る。2017年にストックホルムで開かれたこの展覧会はデンマーク、ノルウェー、ドイツ、イタリア、ポーランドを巡回し、最終地点でありマリーナの出生地でもあるセルビアにやってきた。

1946年、旧ユーゴスラビアの首都ベオグラードに生を受けた彼女。共産主義政府に強く影響を受けた家族の元で育ち、本人も「荒涼とした」幼少期だったと語っている。それでも芸術のなかに反抗の手段を見出し、75年にアムステルダムに移り住むまでベオグラードの挑発的なアーティストグループとともに、現地でアーティスト活動を。その後はオーストラリア、ブラジル、中国、日本そしてニューヨークなど世界的に活躍を続け、約44年の時を経て彼女の作品がやっとベオグラードに帰郷した。パフォーマンスアートを主軸に作品を制作しているマリーナの回顧展ということで、今回美術館側は新たにパフォーマーを雇い、いくつかのパフォーマンスを「再演」する。たとえば、『Art Must Be Beautiful, Artist Must Be Beautiful(1975)』。「アートは美しくなければいけない、アーティストは美しくなければいけない」。そう唱えながら髪や顔を痛めるまで櫛で梳かしつづけるパフォーマンス。『Breathing in/Breathing Out(1977)』は西ドイツのパフォーマー、ウーライとともにマリーナが制作したもので、鼻をふさいだ状態で口づけをかわし、そのまま19分間お互いの二酸化炭素を吐きだし、吸いこむというパフォーマンス。

あまりにも過激すぎるこれらのパフォーマンスアートだが、彼女にとってそれはパフォーマーだけで成り立つものではなく、観客との対話でエネルギーを交わらせ発展していく変容の美術だと語る。自分自身、他者、そして集団との関わりの仕方、人生そのものとの関係の仕方、それら全部をひっくるめて根本的に変える可能性を持つ『クリーニング』の芸術。「過去や記憶を“クリーニング”するのが私は大好き。これは身体的・精神的な比喩であることにくわえ、霊的なものでもある」。確かに彼女のパフォーマンスは見ているこちらまで、すべての価値観が根底から揺さぶられるような、そんな強いパワーがある。頭や心をスッキリさせたい、そんなときは世界一の“クリーナー”、マリーナ・アブラモヴィッチのパフォーマンスなんて、いいものである。

Bojana Janjic / MoCAB

Bojana Janjic / MoCAB

Bojana Janjic / MoCAB

Bojana Janjic / MoCAB

Bojana Janjic / MoCAB

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Text by Haruka Shibata
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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