キノコのある“安心な生活”「薬用キノコ」に夢中になる若き男女が増殖中、世界に拡散されるキノコたち

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コーヒーに入れたり、スムージーに入れたり。健康グッズ好きがいま夢中になっていろんなものに入れている。なにを?「薬用キノコ」だ。
漢方に慣れ親しんでいる日本人からすると「いまさら?」という気もするが、さすがマーケティング大国。後から乗っかってこようが何だろうが、御構いなし。米国企業の手にかかると、どんな商品も着火してからブームまでのペースがすこぶる速い。起業家も投資家も「キノコ、キノコ」とやかましい。

2018年のトレンド・フードは「薬用キノコ」

 先進国を中心に、いまや世界はウェルネス革命のまっただ中。「より健康になりたい」というウェルネス(健康増進)への欲求は私たちの生活における選択を大きく左右するようになった。朝起きてどんな歯磨き粉を使うかにはじまり、どんな石鹸やシャンプーを使うか、一日を通じて何を食べるか、夜どんな寝具で眠りにつくにかに至るまで、製品にさらなる安全性と効果を求めている。
 とりわけ破竹の勢いをみせているのが、チアシードにアサイー、カカオ、スピルリナ、ターメリック…などなど、スーパーフードと呼ばれる栄養価の高い食品や栄養補給サプリメント。そして、2018年以降に驚異的な伸びを期待されているのが「薬用キノコ」なのだ。

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 もともと、中国などでは何千年も前からキノコを民間療法や代替医療として積極的に用いてきた歴史があり、その知識は日本にも多数伝えられ、霊芝(レイシ)や山伏茸(ヤマブシダケ)、チャーガなど、漢方薬やサプリメントとして使用されているものも少なくない。また、ヨーロッパでも古代ローマ時代にキノコの薬用効果や医療効果が語られており、今日まで科学的にその効果を解明するべく世界中で研究が進められている。

 なぜ、いま薬用キノコなのか。「欧米人が東洋医学に目覚めたから」はたまた「ニューエイジ系の再流行か?」など様々な意見があるが、やはり「本当に効きそうだから」ではないだろうか。現代人は野菜たっぷりのグリーンジュースは飲んでも、クリスタルは買わない。つまり、確実に効果がのぞめるものにしかお金を使いたくない傾向が強い。
 薬用キノコは、まだまだ研究が必要だとはいわれているものの、杭ガン作用、免疫増強、抗炎症、コレステロール低下、 強心作用、抗アレルギーなど、あげたらきりがないほど多数の効果があるという研究結果が出ており、ガンや生活習慣病、感染症など、現代人が抱える多くの疾患に有効性がみられることからもニーズが高まっている。

さすがマーケティング大国。“ライフスタイル”に落とし込むのが、まぁお上手で。

 
 そんなわけで、アジア諸国に1,000年以上遅れて「薬用キノコ」の魅力に数年前にやっと気づいた米国なのだが、なんだかな。さすがはマーケティング大国。着火してからブーム(爆発)までのペースがすこぶる速い。薬用キノコは2017年から2023年まで6.3パーセントの年平均成長率に達しつ続けると予測されている。どおりで起業家も投資家たちも「キノコ、キノコ」とやかましいわけだ。

 日本では、健康食品は、見た目うんぬんのブランディングよりも機能や効果が重視される商材という認識が強く、この薬用キノコも長年そういう扱いをされてきたと思う。そうでなければ「なぜこのパッケージデザインなのか?」という話である。最初から若者をターゲットにしていないだけなのかもしれないが、米国で売り出し中の「reishi」が「霊芝」と綴られるだけで、こんなに雰囲気が変わるのかと改めて驚いた。 

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これが売り出し中のreishi。薬用っぽく見えない。
   

 
 遅咲きの(くせに)米国ではこの通り。現代のライフスタイルに落とし込むのが、まぁお上手で。インスタグラムなどのSNS広告にも積極的で、ブランディングや認知向上へ注力している様子が伺える。

 薬用キノコの魅力を、まったく馴染みのない人にも親しみやすいカタチで米国に紹介した先駆者といえば、マッシュルームコーヒーで知られるフォー・シグマティック(Four Sigmatic)(上の写真もこのフォー・シグマティック)。サードウェーブコーヒーが注目を集めていた2012年にフィンランドのミレニアルズによって創設され、14年に拠点を米国へ移しデザインに改良を加えて以来、Amazonのインスタントコーヒー部門でベストセラー商品に選ばれるなど、好評を博している。

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 マッシュルームコーヒーとはいっても味はいたって普通のコーヒー。毎日のコーヒーを同商品に変えるだけで、より一層の健康増進が期待できる、という手軽さがウケている。また、スムージーやスープに手軽に混ぜられ、効率よく摂取できる薬用キノコの粉末商品(携帯もしやすい)も人気。昨年はLAに シュルーム・ルーム・カフェ(Shroom Room Cafe)という名のカフェをオープン。販売ルートも世界25ヶ国以上にまで拡大していることからも注目の高さが伺える。
 同じくLAの「キノコ・ビバレッジ」を全面に押し出したカフェ ライフハウス・トニックス(Lifehouse Tonics + Elixirs)は、2016年にオープンして以来「四半期収入の成長率は平均すると80パーセント」にもなるそうで、共同創始者たちは人々のキノコへの関心の高さを実感していると話す。

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Shroom Room Cafe

20代も薬用キノコに興味津々

 2018年1月末に公開された調査によると、薬用キノコの中でも粉末にした「マッシュルーム・パウダー」のインターネット検索率は過去3年で454パーセント増で、同期間の「マッシュルーム・コーヒー」の検索率(225%増)の2倍以上にもなる。特に20代の若者による検索率が高く、男女比は男性52.4パーセント、女性47.6パーセントとにやや男性の方が多い。
 
 これらの薬用キノコブランドに限ったことではないが、ウェルネス製品やサービスの販売者は製品だけでなくメッセージも携えていることが多い。たとえば「健康的な食生活があなたの人生をポジティブに変える」といった類のやつだ。ただ、「食が人生を変える」というのはその通りだったりするだけに、どのブランドのメッセージも似たり寄ったり。それでいいのか? という気もするが、現段階ではそれはそれで良いのだという。というのも、ウェルネスという意識自体がまだ新しいものであり、上段で述べた通り、まだ薬用キノコはおろか、アサイーやターメリック入りドリンク、はたまたチアシードやキヌアも「どれも試したことがない」という潜在顧客も少なくないからだ。

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Lifehouse Tonics + Elixirsの、薬用キノコ入りシェイク。おいしいらしい。

 なので、現段階では同業者は仲間であり、まずは一致団結して一人でも多くも潜在顧客に「食が人生を変える」といったメッセージとポジティブなイメージを伝え、人生を変えるかもしれない決断に向けて一歩近づかせることが大切なのだそう。なぜなら、一度試してプラスの効果を実感した人はほとんどの場合、同種の他のものを買って試してみたいと思うようになるからだ。薬用キノコを試して効果を実感した人は、ターメリックも試すだろうし、数年前に注目を浴びたスーパーフードや新たなサプリメントにも手を出していくだろう、と。キノコ市場が予測通りの成長を続ければ、つまりはウェルネス業界全体がまだまだ成長の余地にある。キノコさまさまだ。

 数年前までは、富裕層をターゲットにした製品やサービスが多く「一部の人が熱狂しているもの」という印象が強かったウェルネス製品。それが身近で手頃になりつつあるいま、起業家たちは待ちわびていた大衆に、一斉にウェルネス製品を適用しはじめている。折しもトランプ大統領の誕生により、オバマケア撤廃に向けての動きや、その他諸々の不安定な状況に米国人ならずとも多くの人々にとって心と身体の「セルフ・ケア」がかつてないほど重要なものとなっている。キノコが切り開く未来が、我々にとって明るいものあることを切に祈る。

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span style=”font-size: x-small”>Products photos via Four Sigmatic
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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