ヒッピーカルチャー「瞑想」が金の卵に?ユーウツな社会で「瞑想ビジネス」は最高潮

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ビートニク*作家のジャック・ケルアックにアレン・ギンズバーグ、ゲーリー・スナイダー。りんごマークでお馴染みのスティーブ・ジョブズ。カンフー映画の大スター、ブルース・リー然り。歴史に名を残す一昔前の西洋の文化人たちが揃って傾倒していたのが、東洋思想「ZEN(禅)」だ。禅・瞑想がほんの一部の脱俗的な人々のものだった時代、宴座し瞑想に勤しむ彼らの姿は、一般大衆には異様な光景だったに違いない。

瞑想で突き詰めた境地でこそ己や時代が変わると直感し、彼らがマジで瞑想に耽けた当時から半世紀が経った現在。グーグル社員がオフィスで瞑想、を皮切りに瞑想アプリに瞑想ブティック、なにやら“瞑想の大衆化・瞑想ビジネス”の波が押し寄せている

*1950年代のアメリカの文学界で異彩を放ったグループ、並びに、カウンターカルチャーの潮流。文明社会や制度を否定、コミューンや放浪生活を見直し、個人の自由を求めた。のちのヒッピーカルチャーにも大いに影響を与えた。

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Image via Matheus Ferrero

テック大企業も社員に実践? 大衆化・一大産業化する「瞑想」

 数年前には、グーグル、フェイスブック、アップルなどのシリコンバレーの世界的テック企業が研修にマインドフルネス瞑想を導入したことが話題になった。昨年のメディテーション・マインドフルネス産業の市場総額は推定11億ドル(約1200億円、IBISWorld調べ)と、社会現象にもなっている。

 大衆民の生活レベルまで瞑想がジリジリと身近になっている大きな要因の一つには「瞑想アプリ」。米国アップルストアで販売されている瞑想やマインドフルネス関連アプリは、その数なんと3,900以上(!)昨年は米国内だけで総ダウンロード数約1,400万、売り上げ総額1,500万ドル(約16億円)を記録、と瞑想ブームは最高潮といって間違いない。

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Image via Konstantin Dyadyun

「元仏僧の瞑想アプリ」が激ウケ

 星の数ほど存在する瞑想アプリの中でも不動の人気を誇るのが、俗称“精神のためのジム”「Headspace(ヘッドスペース)」、世界最大級の瞑想アプリだ。イギリス人元仏僧アンディ・プディコムが2010年に立ちあげてから現在1,500万人を越えるダウンロードを記録**。筆者も実際にダウンロードしてみたのが、元仏僧のブリティッシュアクセントが効いた平静なプチ説法がこんな感じで流れてきた。

「私たちの心は、たとえるなら空のようなものです。晴れている日もあれば、雲がかかったり、雨が降る日もあります。しかし、雲の上にはいつでも、青い空が変わらずそこにあるでしょう。私たちの心もそれと同じ。日によって気分は変わっても、変わらない本質はいつでもあなたの中にあります」

**ちなみにトランプ政権発足前は500万人だったが発足後3倍に伸びたという話もあるとか。

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Image via elizabeth lies

 1日10分のセッションで10日間の無料体験が可能。有料版は月額9ドル99セント(1,125円)で、日常のさまざまなシーンに合わせた瞑想や、子ども向けの瞑想なども体験できる。
 本来、瞑想は確かなやる気さえあればアプリがなくてもできるはずだ(修行を積めば立ったままでもできると聞く)。アプリが提供するのはその逆、気軽さや小難しそうな思想をすっ飛ばしたカジュアルさだ。「瞑想タイムです」の通知で習慣化も助けてくれる。

都会のど真ん中でも、宴座

 大衆化された瞑想の体験方法は、なにもスマホアプリだけに留まらない。たとえば、ニューヨークの喧騒のど真ん中には“瞑想ブティック”「MNDFL(マインドフル)」ができた。2015年末にオープンした瞑想するためのスタジオで、白を基調としたインテリアに観葉植物、ノイズ完全シャットアウトの三拍子らしい。隣の人が唾液を飲み込む音でさえも聞こえてくるような静寂に包まれているのだとか。

 30分、45分、60分のクラスがあり、よい睡眠に導く「スリープ」活力を上げる「エナジー」癒しや浄化をもたらす「マントラ」など、個々の目的別に瞑想を選べるのが特徴。本来であれば掴みどころの瞑想だが、これをしたら「こう効く」という明快さも現代人に合っているのか、起業から2年足らずで市内の一等地に三店舗オープンし、急成長を遂げている。

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Image via Annie Theby

リッツ・カールトンも山で1日瞑想プラン

 60・70年代の瞑想ブームは、社会に対する不満や疑問をきっかけとして起こった、いってしまえばカウンターカルチャーのようなものだった。一方で、現代はブームによって大衆化が進み、ストレス社会に生きる現代人にとってのリラックス法やストレス解消の「健康法」になった。実際ヘッドスペースの開発者も「瞑想をアプリ化・大衆化することでカジュアルになり、自己解脱という瞑想本来の姿からかけ離れてしまう」とジレンマを抱えていたという。

 結局、“健康法”としての瞑想は、いまや立派な「商材」になった。アプリやブティックのほかにも、豪華旅行会社ベルモントはミャンマーで朝から晩までヨガや瞑想をするマインドフルネス・リバークルーズを、大手ホテル会社リッツ・カールトンも山で1日瞑想プランを用意するなど、旅行業界もマインドフルネスをビジネスにしている。先出のブティックでは一回ポッキリのコースでも、18ドルから30ドル(約2,000円から3,300円)、ホテルの瞑想プランは宿泊費込みでも一泊429ドル(約4万8,000円)とお金に余裕がないと手が届かない価格設定。本来はタダでできる瞑想が、一部では高級化とは…。

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Image via Alexa Mazzarello

 かつて、瞑想を愛するビートニクたちは中産階級的でメインストリームな層を「スクウェア」と揶揄した。いまとなっては、大衆社会のいわば“現代版スクウェア”たちが瞑想をこぞってやっているとはおもしろい話だ。

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Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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