NYのリーダーは14歳「ひとりでも続ける」10代の“毎週金曜日”は現在進行形〈#fridays4future〉

【特集:It’s hot now!】“未来のための金曜日”を続ける中学生にインタビュー。
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3月15日の金曜日。世界中の学生が学校をボイコットして、地球温暖化を食い止めるために路上で抗議の声をあげたあの日、やはり歴史は動いたのだと思う。

「あの日のニューヨークでのデモには5000人以上の人が集まりました。2週間後の金曜日、5月24日には、もう一度大きなデモをおこないます。さらに多くの人が参加すると思います」。5月上旬の金曜日。マンハッタンにある国連本部の前に行ってみると、“いつものベンチ”に彼女の姿はあった。アレクサンドリア・ヴィラセノール。先日14歳になったばかりの彼女こそ、気候変動問題をニューヨークでリードする中心人物だ。

雨の日も、マイナス10度の冬も乗り切った。気候変動問題をリードする14歳

 マンハッタンの私立の中学校に通うアレクサンドリアは、昨年12月14日に、ひとりでストライキをはじめて以来、毎週金曜日は国連の前で抗議運動を続けている。訪問者用入り口から30メートルほど離れたところにあるベンチにプラカードを持って。「最初の2ヶ月間は、ずっとひとりでした」。冬の冷たい雨が降る日も、刺すような北風が吹く日も、大寒波の影響で気温がマイナス10度(摂氏)まで下がった日も、彼女はここに来るのをやめなかった。

 気候変動を食い止めるために、学校をストライキする「Fridays for Future(#fridaysfuture)」。この運動は、スウェーデンの高校生アクティビスト、グレタ・トゥーンベリの発信をきっかけに、いまなお、10代の若者を中心に現在進行形で世界中に広がっている。アレクサンドリアもグレタに影響を受けたティーンのひとりだ。


アレクサンドリア。5月上旬に訪れたとき。この日は土砂降りの通り雨があった。

ゼロアワーのジェイミーと。

 グレタ・トゥーンベリは、その活動が評価され、2019年のノーベル平和賞にもノミネートされた。16歳の彼女は、いまやユース・環境アクティビズム界のアイコンで、彼女の発言に、日々、ソーシャルメディアを通して影響を受けている同世代の数は計り知れない。いうまでもないが、彼女が影響をあたえているのは、子どもたちだけでなく、大人もである。
 
 アレクサンドリアが国連の前でストライキをはじめたきっかけは、「グレタのツイートやスピーチ」だという。グレタは、気候変動への対策を怠っている政府に対して抗議をするために、2018年の夏からスウェーデンの国会の前で毎週金曜日にストライキをおこなっている。アレクサンドリアがそのことを知ったのは18年の秋だった。

「その夏、私は親戚が住むカリフォルニア州に滞在していました。州史上最悪の山火事の影響でカリフォルニアの空気の状態は悪く、持病の喘息が悪化しました。家族のサポートのおかげで大事には至りませんでしたが、数日に渡って身体的な不調を感じました」

 山火事による有害な煙によって体調を崩し「そももそも山火事が起きる原因は何か」を考えるようになった。そこから、気候変動の深刻さを理解するようになったという。そんなとき、国会の前でストライキを続けているグレタの存在を知り、「私にもできることがあると思った」と話す。

「それが現状」。普通の金曜日、国連の前に集まる学生は「3、4人」

 雨の日も、寒波の日も、国連の前でストライキを続ける少女の存在は、地元紙からテレビや大手メディアまで、さまざまなところで取り上げられるようになった。

 ただ、5000人以上もの人が集まっていた3月15日の金曜日の学生デモとは対照的に、この日、アレクサンドリアのほか国連の前に集まっていた学生の数は、片手で数えられる程度。「普段、ここに集まるのはだいたい3、4人かな」。実際、ニューヨーク市内ではこの抗議活動を単位として認めている学校は極めて少ない。では、祝日で学校が休みの金曜日であれば「あの日」のように、ここに学生が集まるのかというと、そうでもない。

3月15日、金曜の様子。
▶︎青春を〈気候変動〉に捧げる21世紀の若者たち


 
 3月15日の気候変動マーチしかり、10代の学生アクティビストが増えているのは事実だが、アレクサンドリアほど毎週金曜日を(いや、毎日を)気候変動アクティビズムにコミットし、青春を捧げている学生は、現状のニューヨークではまだまだ極少数派だ。

 それでも「欧州に比べると、アメリカでの盛り上がりはまだいまいちですが、これからです!」と本人は前向きだ。ツイッターには日々、世界各国の人々からメッセージが届いており「手応えを感じている」と話す。 

 彼女はモチベーションをどのように保っているのだろうか。単刀直入に聞いてみると、祝日で、国連が休みでも、学校が休みでも「地球温暖化に休みはありません。刻一刻と悪化しています。でも、いま行動を起こせば、まだ間に合います」と、答える。その正論ぶりに圧倒されてしまい、その場でそれ以上の突っ込んだ質問ができなかったのだが、いま思えば、こんなに危機迫った状況の中で、どうしたらモチベーションを下げることができるのでしょうか、というのが彼女の心中だったのかもしれない。
   
「私の年齢では投票はできません。しかし、こうして行動を起こせば、自分の声を届けることはできます」     

 彼女の活動は学校ストライキだけに止まらない。市内や他州で開かれる環境に関する会議やイベントにスピーカーとして毎週のように招待を受けており、大きな舞台に立つ機会が増えている。

 一介の中学生だった彼女は、地道なストライキを通して、自分の声を届けるチャンスを、個人のSNSアカウント外に、自ら開拓したのだ。

 たったひとりでもストライキをおこない、ソーシャルメディアで発信をし続けたことで、ひとり、またひとりと賛同者を増やし、いつしか大手メディアに取り上げられるようになった。それにより、環境問題に関心を寄せていた人、そうでなかった人の両方に認知される存在になっていったとともに、環境に関する会議やイベントに「参加する人」から「招待を受けて、公的なスピーチの場をあたえられる人」になった。これこそ、まさに地道なストライキの賜物だ。
 
 その姿は、「国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)」や「世界経済フォーラム」など、国際会議の場でスピーチをするようになったグレタともよく似ている。
 
 これは、世界各地の10代の気候変動アクティビズムのリーダーに共通する功績の一つでもある。同世代の若者たちに「たったひとりでも声をあげ、行動を続ければ、人は耳を傾けるようになる」「(まだ選挙権がないからといって)私たちは無力ではない」といった希望と、その道の開き方を示したこと。その功績は大きい。


プラカードで雨よけ。


    

13歳の少女をネット上で執拗に攻撃。気候変動を否定する人々も

     
 14歳になったばかりのアクティビストを影で支えているのは、母クリスティン氏だ。国連前でのストライキには必ず同行し、娘の安全を見守っている。

 アレクサンドリアが環境問題に関心を寄せていることは知っていた。「ある日、娘のツイッター投稿をみたら、米右派ニュースサイト『ブライトバート(Breitbart)』の中心人物たちからの、脅迫コメントがありまして」。危険を感じ、娘の活動を止めようとしたこともあったという。

 地球温暖化を否定する人は決して少なくなく、右派の政治家やその支持者からも「子どもは学校に戻れ」「国連まで行って、お前に気候変動について本当の授業をしてやる」といったバックラッシュが起きているそうだ。執拗に攻撃的な人はブロックしたり、過激な誹謗中傷コメントは削除するなどして「なるべくあの子の目に触れないようにしています。それが親としてできる、せめてものことです」。


この日も、アレクサンドリアの母が来ていた。

集まっていたのは3、4人程。

 アレクサンドリアは、母親が自分のためにネット上での安全を確保してくれていることも、10代のアクティビストたちがバックラッシュを受けていることも理解している。ひどいバックラッシュを受けた仲間がいれば、彼らを労わるように、時折「あなたたちの味方です」「心を強くして、一緒にがんばろう」といったツイートを投稿している。

「すぐに変化が起きればいいですが、そんな簡単にいかないことはわかっています。でも、だからといって声をあげるのをやめてしまったら、あとで絶対に後悔すると思うんです。地球をまだ救えたときに、なぜ何もしなかったんだろうって」。最前線に立つ彼女は、この闘いが長期戦になることを覚悟している。少しずつではあるが、確かな変化が起きていることを実感しているという。

 グレタ・トゥーンベリをはじめ、各地域の最前線に立つ10代のことを「大人に操られたパペットだ」と言う人たちもいる。だが、ストライキに参加していたアレクサンドリアたちは、こう言いながら肩をすくめた。

「『環境問題について声をあげなさい』『ストライキのために金曜日に学校を休みなさい』と、大人に扇動されてそうするようになったユース・アクティビストというのは、少なくても私たちの中にはいないです」


5月24日、金曜日の学生ストライキ、#fridays4future。
アレクサンドリアの姿も。タイムグスクエアに多くの学生が集まった。




 私たちがアレクサンドリアに会いに国連前を訪れた日、この日の最年少だった11歳のアクティビストは「ユース・アクティビストたちとベッドタイムを過ぎた夜中までチャットしていることは、ママには内緒です」と言っていた。

 気候変動への対策を怠ってきた政府や議会、大人に対して苛立ちを抱えてはいるというが、だからといって、大人との対立を深めようとはしない。また、大人の力なんて借りなくても自分たち若者だけで未来を変えられるといった、青臭い考えもチラつかせない。「ひとりでも多くの人を巻き込み、みなで協働することが大切です」。

 まだ選挙権のない10代の若者は、「いまならまだ、間に合います」と、いち市民として、いち市民である大人たちに冷静に語りかける。

Interview with Alexandria Villaseñor

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Photos by Sako Hirano
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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