風呂好き!水と熱と裸で手繰り寄せる遠い世界、風呂文化を、自分を、そしていろんな誰かを知ろう『HAMAM Magazine』

毎日、世界のどこにいても、いつまでも、お風呂が大好き。そんな一冊。
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白い煙がゆっくりと立つ煙突。湯気のなかにこだまするおしゃべり声。小銭と引き換えに手渡ししてもらう石鹸。自分を縛るものをじんわりとほどいていくこの場所は、どの国、どの街でも愛されているようで。そう、お風呂。
 
人とお風呂、お風呂にまつわる文化、そこに繋がるものものを探究している雑誌が、『HAMAM Magazine』。雑誌名の「Hamam(ハンマーム、ハマーム、ハマム)」とは、トルコをはじめ中東地域に普及しているスチームバスやマッサージなどを含む伝統的なお風呂のこと。雑誌はハマムの本場トルコのイスタンブール発。創刊は2020年、お風呂を愛する夫婦によって(二人の自宅の裏庭にはサウナがあるらしい。さすが)。
 
トルコのハマム文化に特化した雑誌かと思いきや、ロシアのサウナ文化から日本の銭湯文化まで、世界のお風呂文化を網羅。というのも、編集長のEkinがお風呂に夢中になったのは、母国のハマム…よりも前に、学生時代を過ごした米国・ニューヨークで「寒すぎて骨の髄まで凍っちゃって」駆けこんだお風呂屋だそう(もしや、以前ヒープスの風呂シリーズで取材したロシア式バスハウス…?)。そのお風呂屋がなかなかおもしろく、その後に移り住んだサンフランシスコではロシア式サウナ施設でアルバイトをした。

いろんな風呂文化の手引きとなるようなものから、どのお風呂場にでも存在する『Dedication(献身)』『Water(水)』『Heat(熱)』『Naked(裸)』などの普遍的なテーマで、深く、飛躍し、繋がりを手繰り寄せ、つぶさに風呂と人を探っている。創刊から一年でもう4号も出してきた。
3号の『Water』では、お風呂場から飛び出して海やプールの話になったり、4号の『Naked』では全身刺青だらけのイカついヤクザが脱衣所ではかわいらしいミッキーマウスのパンツを履いていた、なんて小話も。お風呂のまわりにあるものたちに思いをはせて、編集長と一緒にページをめくってみよう。毎号アツアツ。

*ニューヨークの市井の人のライフストーリーをポートレート写真を添えて紹介する写真プロジェクト。

HEAPS(以下、H):お風呂についてのマガジン♨️。実は、お風呂文化に興味を持つようになったのは、ハマムのある母国トルコではなくて、学生時代にいた米国にいたときだったと。

Ekin(以下、E):そうなんです。ニューヨークにいた頃の冬、もう寒くて寒くて骨の髄まで凍えちゃって。あったかさを求めてロシアとトルコ式のお風呂屋に行ってみたことがはじまりです。

H:ニューヨークのお風呂屋、どうでしたか?

E:まず、湯気がこの世のものとは思えないほどすごかった。でも一番惹かれたのはそこにいた人たちです。それはもう、なんともいえないようなクセのある人たちが集まってて。ニューヨークだからこその客層ですよ。こういう人たちがバスシーンを彩っていた、とさえ言いたくなります。

H:クセあり人間のハブになっていたと(笑)。米国でお風呂カルチャーに触れたことが雑誌を作るインスピレーションになったようですが、雑誌の名前を中東の伝統的な公衆浴場「HAMAM」にした理由は?

E:母国では、家庭内にお風呂が導入されるにしたがってハマム文化の地位が少しずつ失われていきました。それが、残念で。うつくしく建造されたハマムもたくさんありますから。ハマム文化を蘇らせて新しいイメージで再提示できたら、と思ってこの名前にしました。

H:初刊の『Dedication(献身)』では、19世紀のイギリス諸島で起こったトルコ式バスムーブメントの歴史など、ストレートにお風呂文化を扱っている。韓国のお風呂文化である「モギョクタン(沐浴湯)*」を紹介するページ、筆で描かれたようなタッチのイラストがかわいい。

*韓国における銭湯のようなもので、垢すりやマッサージなどが提供されることが特徴。施設には垢すり専門の人がいることも。煙の立つ煙突が目印。

E:このイラスト、カリフォルニアでアートを学んでいた頃に出会った韓国出身の友だちが描いてくれたものなんです!

H:すてき!

E:「なんでも良いから好きなものを描いてみて」と言ったらこの絵を描いてくれて。モギョクタンをたのしむために必要なものから体の洗い方、お風呂から出たあとのことまでを解説する文章をつけました。

H:体をこすりやすいように手袋型に作られたタオルの話や、円を描くように体をこするっていうアドバイスもありましたね。「お風呂を出たら、バナナミルクのごほうびも忘れずに」と添えてあるのも大好きです。その国や地域のお風呂文化を紹介しているなかにパーソナルな部分が見えるのが良い。

E:このコンテンツがきっかけになって、各号に設けている「Recipes and Remedies(お風呂の手順や療法)」というセクションができあがったんです。アーティストや作家、そしてお風呂愛好家がそれぞれ自分だけのお風呂ルーティンを紹介しています。

H:いい!(いろんなルーティーンはぜひ雑誌を購入して読んでみよう)。2号以降は『Heat(熱)』『Water(水)』『Naked(裸)』と、お風呂に“まつわる”普遍的なテーマを敷いていますね。

E:乾燥した冬が過ぎさったあとエーゲ海で泳ぎたかったので、3号のテーマを『Water』にしました。4号目の『Naked』は、実は「シュール」というテーマではじまったのですが、コンテンツを作っていくうちに「裸」というテーマが浮かびあがった。ここでいう「裸」とは自然のままの状態のこと。たんに体を露出することではありません。目に見えるかたちで、無防備で、自分を解放する準備が整っているということです。


H:2号『Heat』では

・お風呂の空間を「母なる地球の子宮」にたとえたエッセイ
・禅の精神にもとづく茶道文化の紹介
・スウェーデン最北端の都市キルナにあるサウナ兼アート作品
・ロシア式サウナ「バーニャ」で働く人の話

などの企画があります。Heat(熱)というテーマはどこから着想を?

E:ちょうどタオス(米国ニューメキシコ州、砂漠の町)で初めて過ごす冬がはじまった頃で、私も読者のみなさんも暖まるような号にしたいと思って。

H:全面金色のミラーの「Solar Egg Sauna(ソーラー・エッグ・サウナ)」はひときわ目を引きましたよ。

E:ただ純粋に、この金ピカの卵のなかでぜひ汗をかいてみたいなと思いましたよ。

H:茶道についてのページも気になります。お風呂とはあまり関係がなさそうですが、なぜ取りあげたのでしょう?

E:茶道の儀式って、「自分を解放する」の実践の、完璧な例だと思うんですよ。茶道文化を学んだとき雑誌で取りあげるべきだとひらめいて。


E:それから、ロシア式サウナで働く人の話は、サンフランシスコのバーニャで働いていた時代の同僚から寄稿してもらいました。

H:友人とコラボできるのも、インディペンデントな雑誌の醍醐味。バーニャでは、ほうき状に束ねられたオークの葉を使うマッサージ「プラツァ」が有名ですね。ここでは、働いていたからこその常連さん話も。「200度以上の部屋に15分以上も居続けられる常連さんの話」や「おさえられない笑いと涙のすえ、トラウマが排出されたお客さん」のプラツァ体験談。

E:同僚の彼はいままで出会ったなかで一番のプラツァ・マッサージ師なんです。彼からプラツァをしてもらうと、その気持ちよさに全身が溶けそうになるんです。

H:体験してみたい。本人でなく、マッサージをしている側からみている体験を読めるのは、なかなかないですね。

E:バーニャで働きはじめたのも、いまこうしてお風呂文化に夢中になっているのも、彼のおかげなんですよ。

H:風呂文化を深め続け、雑誌もどんどん進化していきますね。『Water』では、日本の海女さんを捉えた白黒写真、ポルトガルの海岸の潮溜まりにつくられたプールも登場する。これらは「海」に関連するものですね。

E:3号では、あらゆるかたちで存在する「水」と私たちとの関係性を探究しました。海でも湖でも、なんでも。「お風呂に入ること」と「水中に体を沈めること」はとても親密に関連していると思うんです。


H:なるほど。日本の文化がいくつも見つけられてうれしい。チベットのAmchiと呼ばれる人々(人体と心のバランスの知見に長け、病気などの診断ができる)を取り上げた『Naked』でも、日本の銭湯が登場します。銭湯を愛する日本の若者二人との、何気ない会話を連ねていますね。

E:日本に滞在して、銭湯文化にすっかり心奪われてしまったフランス人アーティストの企画。友人やお風呂好きにインタビューしています。

H:“ジュエリーを学ぶ学生であり、コーラ中毒であり、ヘビースモーカーである”若者との会話は、本当に友人と喋っているよう。せっかくなので、そのゆるーい会話、聞いてみましょう。

—銭湯にベストな音楽は?

「無音が一番。それか、サウナで流れるテレビのノイズ」

—銭湯に行く前と後にはいつもなにをしているの?

「学校かデザインスタジオでやることを終わらせてから、銭湯に行きます。それからカフェでコーヒーを飲みます」

—もし、有名な人やアーティスト、デザイナーと一緒に銭湯に入れるとしたら、誰を選びますか?

「うーん、誰だろう…。もう死んでいる人でも良いですか? ダリかな。サルバドール・ダリ」

E:有名人ではない、市井の人の話を聞くのはすごくたのしいですよね。

H:はい、とても。もう一つ気になったのは、サウナ・リーディング・グループ。「北欧と比べて、英国は〈裸〉に対するタブー意識が強い」と感じた人が立ちあげた“サウナ読書グループ”のこと。サウナのなかで本についてディスカッションして、ホワイトボードにそのメモを殴り書き。体も頭もヒートアップしちゃいそう(笑)

E:雑誌を作るうえでうれしいことの一つは、「どうやったらもっとお風呂をたのしむことができるか」の知恵をどんどん広げられることなんです。インスパイアされるし、自分でもよく実践してみている。この読書グループにも、参加しなくちゃね。

H:以前、Ekinは、理想のお風呂ビジョンをこう話していました。「自然と人間が傷つけあうことなく共存できる公衆浴場をもう一度作りだすこと」。このようなお風呂には、出会えましたか。

E:理想に最も近かったのは、カリフォルニア北部にあった温泉でした。信じられないほど壮大な自然に、人工処理がほとんどなされていない水、裸の人たち、性別を問わない浴場。そこでは誰もが歓迎され、自由でワイルドでいられた。平和にも満ちていました。

H:まるで温泉のユートピア。いろいろな湯気を立てる世界のお風呂を探求するなかで、これからもお風呂のこんなところは変わらないだろうなぁ〜、というのはありますか。

E:自由で、開放的で、リラックスした気持ち、お風呂からあがったあとの至福感だと思います。お風呂に入ることで、いつだって自分自身を開放できる。古代ローマのような巨大な公衆浴場が再びつくられて、賑わいをみせるようになればいいなと思いますね。

H:最後に、Ekin自身のお風呂ルーティンを教えてもらいたいです。

E:お気に入りは、お風呂に入る前にアーユルヴェーダの温かいオイルマッサージをすること。時間があるときは、毛穴を開いてオイルをたっぷり取りこむために、裏庭のサウナに15分か20分ほど入ることもあります。

H:(いつも10分のシャワーで済ませる私とは大違いの丁寧さ…!)

E:そして、いろんなエッセンシャルオイルとエプソムソルトを入れたお風呂を用意します。お湯につかるときは、お気に入りのプレイリストをかける。最後に冷たいシャワーを浴びてちょっと休憩して、おしまいです。

Interview with Ekin Balcıoğlu of HAMAM Magazine

All Images via HAMAM Magazine
Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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