愛、宇宙人、核戦争、2131年。いろんな世界を“食”から考える。食べものは未体験の思考へのとびら『Food& Magazine』

ピザと女の子の燃える恋、「食べる」という概念を理解しようとする宇宙人、核戦争中の仮世界でのレシピ。
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バスルーム、宇宙人、スポーツ、核戦争、愛、敗者、重力。

このランダムなワード群は、ある雑誌の特集テーマだ。2016年にベルリンで創刊した食のインディペンデント雑誌『Food& Magazine』はそれらトピックで毎号つくられている。美味しい(あるいは不味い)食事や、食まわりの人やカルチャーを扱う雑誌とも一味違う。コンセプトは「食との普通でない遭遇(unusual encounters with food)」だ。

ページをめくってみると、ピザと女の子の燃えあがる夏の恋がちょっぴりトキシックなタッチで描かれていたり、核戦争中という仮定において「放射能中毒に効くオススメのレシピ(海藻食など)」が紹介されていたり。世界でハンガーストライキが起こったときになにをすべきかを皮肉にアドバイスするコンテンツや、「食べる」という概念を理解しようとする宇宙人も出てくる。

最新号『Food& Gravity(食と重力)』では、新型コロナウイルスや人種差別問題、気候危機など近年における世界の張りつめた動向を踏まえ、世界の終末論的な思想が鋭く表現されている。『Food& Sports(食とスポーツ)』や『Food& Love(食と愛)』といった一見ありきたりとも思えるテーマも、Food& Magazineの手にかかれば期待を裏切るフレーバーで様変わり。未体験の思考に引きずり込まれていく。

「私たちが生きていくためには食べものが必要だよね。だからこそ、食を、科学技術やもっと大きな問題・もっと複雑な問題などを探求するときの思考の土台にすることができると思う」

人間と食の間にある切り離せない本質から、食を起点とする仮定、仮説、想定外の着想が溢れていく。食からユーモラスにもダークにも、世界についてを考えるおもしろさを『Food& Magazine』に聞いてみよう。今回は、創設者であり編集長のアシスとクリエイティブ・ディレクターのエリー、そしてビジュアルを監督するファビアンの3人が仲良くビデオコールに登場。奇想天外な食雑誌をつくる当人たちの頭のなか、のぞかせてもらいました。


HEAPS(以下、H):そちらはいま、朝ですよね。早い時間からどうもありがとう。

Ellie(以下、E):朝起きてまだ誰ともしゃべってないから、声が全然出ないかも(笑)

H:わかります(笑)。早速ですが、まずは独特のテーマ設定について聞きたくて。宇宙人や核戦争、重力などとにかくネタが突飛。これをテーマにしよう! とピンとくる瞬間があるんですか。

Fabian(以下、F):やりたいテーマを並べた長いリストがあるんだ。みんなでそれを見ながらブレインストーミングして、じっくり時間をかけて決める。アイデアをポンポン出していくんだけど、すごく良いアイデアもあれば冴えないものもある。あれでもないこれでもないって行ったりきたり。

H:じっくりコトコト煮詰めるんですね。

F:誌面に掲載する作品は公募しているんだけど、クリエイターがそのテーマで作品をつくりやすいかどうかも考えている。だから、扱うテーマから何か明確なものが連想できるかどうかも、鍵だね。

H:思いついたは良いものの、よくよく考えてみるとテーマにするのが難しかったものは?

Asís (以下、A):『Food& Patent(特許)』とか。いま考えているテーマなんだけど、なかなか難しい。頭が混乱しちゃう(笑)。まあでも、かなり良いアイデアをたーくさんストックしてるよ。

H:たとえば?

A:髪の毛、殺人鬼、とか。

H:わお、ダーク。以前テーマにしていた「核戦争」などもそうですが、このようなダークなアイデアはどこからわいてくるのでしょう。

A:食に対する一般的なアプローチといえば、お祝いに関する食べものだったり、飲食業界や食品業界に関するものだったり。でも、食べものってそれだけじゃない。私たちの文化の一部であり、文化として変換されてきたものなんだ。極端なアイデアから食との関係性を見出すことで、いろんなトピックについて自分の口で主張できるようにもなるかもしれない。それくらい挑戦的な姿勢を忘れずに雑誌を作らないとね。

F:驚きをあたえるということをつねに意識している。ほかの食雑誌といえばレシピや素敵な料理の写真が載っていて視覚的に美しいものが多いよね。食雑誌の世界って、そういうもので飽和してると思う。


H:Food& Magazineには、驚かされっぱなしです。突飛なトピックから食を捉える体験を味わうことができる。

F:編集するこっち側も、なにかお決まりのメソッドに沿ってやってるわけじゃないんだ。シンプルにいってしまえば、「二つの異なるものの組み合わせ」なんだ。直感がGOといえば、「Let’s do it.(やってみよう)」。

H:核戦争が起きて食糧難におちいる未来を想定したり、放射線をあびた食べ物が値下げされているチラシを模したアートワークがあったりと、もはやダークファンタジーやSFの映画やドラマを観ているみたいです。

A:皮肉や不条理は大好きなんです(笑)。最新号の『Food& Gravity』でもダークユーモアをたくさん詰め込みました。

F:それから、ダークかそうでないかという以前に、食と、食に関することには正直な気持ちでアプローチしようとしている。あまり話題にはあがりにくいお葬式とかね。

H:確かに「お葬式」から食について考えてみよう、とは普通思いませんね。

F:どんな国や社会集団においても独自の儀式や葬式が存在する。興味深いことだよね。そしてそのほとんどの場合、そこに食べ物がある。たとえばメキシコでは、お墓の前に座って食事をしたり、大きなテーブルを囲んで死者の周りで宴会を催したり。
お葬式はまだ取りあげていないけど、バイアスのかかっていない素直なアプローチを試みたい。テーマによっては暗い印象をあたえるかもしれないけど、そもそも私たちはハッピーなものをつくろうとしてるわけでもない。

H:前号の『Food& Gravity』では、舞台となる世界を2131年に設定してました。「食べる」という概念を理解しようとする宇宙人のイラストも印象的だった。こういうコンテンツを見ると、自然と思考が、仮想の世界や現実になり得る未来に向く。

A:仮想の世界でいうと『Food& Nuclear War(食と核戦争)』では、「もし世界でハンガーストライキが起きたら」という仮説でのエッセイもあるね。



H:「重力とはなにか?」と考えているプロのシェフのエッセイもおもしろい。「それ(重力)は、じゃがいもを地中に埋め、フライパンにパンケーキを焼かせ、ボウルに生地をおさめて…」と、シェフの目線から、新しい食の見方が提示されている気がします。たとえば「重力」という科学の話をするとき、食の雑誌だからこそできることなんでしょう。

E:まず、食は誰にとっても普遍的なものであること。これは、言うまでもない。私たちが生きていくためには食べものが必要だよね。だからこそ、食を、科学技術やもっと大きな問題・もっと複雑な問題などを探求するときの思考の土台にすることができると思う。

H:というと?

E:食という概念のなかでは、必ずしも事実に忠実である必要はなくて、自由な思考でいられると思ってるんだ。たとえば『Food& Gravity』では、ありえないようなこともたくさん詰まってる。でも自由で奇想天外な内容を見せることで、人々に食の未来や食と科学の関連性について考えてもらうことができるでしょう。

H:そういえば、「2073年からほかの惑星で食用物質の栽培の研究をおこなっていた架空の博士の日記を復刻しました」なんていうコンテンツもありましたね(笑)。食は身近な存在であるがゆえに、食から派生した話は。事実でなくても現実味を帯びていて、ドキッとする。

F:私たちが興味を持っているのは、おいしいとか、きれいとか、そういった食のイメージの背後にあるもっとほかのもの。自分たちでストーリーを構築してみるんだ。その時に科学やテクノロジーに関するネタを入れることで、読者自らが食の捉え方を考えなおしたりするきっかけになればと思ってる。今度パンとバターを見たとき、食べる前にちょっとなにかを考えてみる、立ちどまってみる。まあ、なにも浮かんでこないかもしれないけど。

H:普遍的なテーマへのアプローチも気になります。たとえば『Food& Sports』。食とスポーツは、とくに突飛な組み合わせではない。新聞や雑誌でも、アスリートの食生活などを特集することはよくありますよね。でも、Food& Magazineの手にかかると…。ホットドッグがレスラーと試合をする漫画が出てくる。毎日自分のオシッコを飲むブラジルの武道家の話にはビビりました(笑)

E:これも、スポーツっていう単語が指す明確な意味にとらわれずに、そのトピックのなかにどんなアイデアの可能性があるのかを読者に考えてみてほしくて。『Food& Love』の号では、レモンと手袋にシャッターを切った写真作品もある。レモンと手袋の恋を映しだした作品なんだ。

H:斬新な組み合わせ。

E:レモンと手袋が恋に落ちるなんて誰が予想できたと思う? こういう二つのトピックのあいだでちょっとばかり迷子になったり、トピックの関係性のなかに奇妙なものを見出してたのしむことが大切だと思う。

H:これらの作品は公募で集めたコラボレーターが制作していますよね。制作のディレクションはどれくらいあるんですか? 一緒に話しながら進めたり、あるいは結構、作り手の自由?

F:コラボレーターとの会話も大切。公募で寄せられてきた作品にはいつも対話を重ねている。最初に私たちが「次号のテーマは食と重力にしよう」って公表したとしても、その段階ではまだイマイチ自分たちでもテーマを落としこめていないこともあるから。

E:彼らは純粋に自由でオープンで実験的なこの雑誌が好きで、作品を提供することで自分も雑誌の一部になれると感じてくれているからだと思ってる。

A:公募の際の条件がすごくユルいんだ。「なんらかのかたちで食べものとテーマに関連するものであること」。これだけ。その関連性がすごく複雑だったとしても、気に入ったものは掲載するようにしている。

F:アーティストのほうから私たちに声をかけてくれることもあるよ。「僕はいつも食べ物と重力について考えている。僕の文章やアイデアを送ってもいいかな」と言ってくれる人もいた。こういうのは、大歓迎。雑誌を作るうえでの決まった枠組みがないから、アーティストと対話を重ねて、遊びながら進めていくことができるんだ。

A:まあ、自分のものは自分で作りたいっていう人もいるんだけどね(笑)


H:寄せられた作品が予想を超えていた、なんてことはある?

A:もちろん。以前、あるアーティストから「共食い」を描いたイラストが寄せられたことがある。なんていうか、エグさのあるイラストで、ちょっとショッキングなものだった。そのアーティストと出会えたこと自体は素晴らしいことなんだけど、雑誌とはマッチしないかなとも思った。

F:基本的には、自分たちが気に入るか気に入らないかはさておき、宇宙人のイラストのように「なにか可能性を秘めているもの」を持っている気がしたら、公開してみようというスタイルだよ。

H:レモンと手袋の恋物語や、核戦争時の食事についてなど、まったく考えていない方向から食を表現している作品をレビューするのって、頭のなかも現実と空想を行ったり来たり、忙しそう。

F:しばらくレビューしていると脳が疲れちゃうこともあるよね。ちょっといったん休憩が必要、って(笑)

H:これまで、奇想天外ないろんな角度から食を突っついてきたFood& Magazineですが、いま頭のなかにある「食」や「食文化」についての考えや思いはありますか。

F:最近だと、インスタグラムなどのソーシャルメディアで食コンテンツをスクロールすることで、人々が「視覚的に」食べ物を消費しているでしょう。これはすごく興味深い。

A:食べ物を味覚で消費するんじゃなくて、視覚で消費している。そういう意味では、毎日3回の食事以上の回数の“食事”しているともいえる。こういう新しい“食事のとり方”がどんな風に変化していくのかも、今後注目しなきゃね。

Interview with Ellie, Fabian and Asis of Food& Magazine

All Images via Food& Magazine
Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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