近代社会と隔絶、コロニー暮らし。厳格キリスト教徒「フッター派」。閉ざされたその実生活がいま、明らかに

Share
Tweet

男たちはシャツにサスペンダー姿、女たちは手縫いのドレスをまとい、農作業に勤しむ。

IMG_8389

その様子はまるで何世紀以上も前に描かれた絵画のよう。だが正真正銘、これは現代世界に存在する1コマを捉えたもの。彼、彼女たちは一体何者なのか。

いまだコロニーを作って暮らすキリスト教徒たち

 アメリカ北西部やカナダを中心に約4万5000人が住むといわれる「フッター派(Hutterite)」。16世紀に生まれたキリスト教のひとつ、アナバプテスト派の人々で、彼らは、近代文明から隔絶し自給自足の生活を送る。敬虔なキリスト教徒たちだ。

3826701506

 元をたどれば、現チェコ共和国に居住していたドイツ語を話す200人のアナバプテスト派で、のちに宗教迫害から逃れるようにスロバキア、ハンガリー、ロシアに拡散、19世紀後半からアメリカやカナダに移住を開始したそうだ。
 現在では450ほどのコロニー(コミュニティ)をつくり、カナダのアルバータ州やマニトバ州、サスカチュワン州、アメリカのサウスダコタ州やモンタナ州にわたって居住している。

 フッター派と言われると聞き慣れないが、近代文明を捨て電気も車もない生活をするあのアーミッシュやメノナイトと同じ宗派だ。

IMG_7847

選挙投票せず、離婚もNG。

 それぞれのコロニーのリーダーは、牧師。主に男性は農業を中心とした労働、女性は掃除・洗濯・食事の支度など家事全般。彼らの1日は、早い時は明け方3時半からはじまり、遅くとも夜10時までには終了。キリスト教への信仰も深く、日曜には朝と午後のミサに参加するため教会へと出掛ける。

IMG_4846

 なにやら彼ら、話す「言葉」もユニーク。第一言語は、フッター派ドイツ語という、オーストリアのアクセントがあるもの。英語はあくまでも第二言語であるため、ドイツ語なまりがあるらしい。
 コロニーにある学校では外から雇われた教師が英語教育をするほか、ドイツ語教師が標準ドイツ語や聖書、伝統歌を教えている。つまるところ、フッター派の人々は、幼い頃からフッター派のドイツ語、正式なドイツ語、英語を話すことができるトリリンガルというわけだ。

IMG_4934-Edit

 また、彼らは選挙投票などの政治活動には参加しない。基本的には離婚や避妊も認められていない。一家庭の子どもの数は平均で3人から4人と、2人を下回る国内平均に比べると実に子沢山だ。
 森や川に囲まれたコロニーでフッター派の子どもたちは、現代っ子が忘れてしまった自然と存分に戯れている。

deutsche-397

 

写真を撮ることは“罪”? でもiPhone持ち

 “アーミッシュのような生活”と聞くと、「自動車は認められず馬車での移動」や「ネットとは断絶した生活」を連想するが、フッター派の人々はテクノロジーに対して比較的寛容だ。
 風紀を乱すものとしてかつてテレビやラジオが禁止されていたコミュニティで、いまやインターネット環境が整っているのである。

 とはいえ年配世代は未だテクノロジーを「有害」だと毛嫌いする傾向にあり、保守的な親たちはネットの内容が子どもを刺激しないようにと監視。子どもたちがコロニーの外にいる学校の先生と連絡する目的だけに制限している家庭も。
 それから、カメラの使用も基本的には「仕事や工事現場の記録目的」のみOK。なぜなら、許可なく人を被写体にすることは“罪深い行為”とされているから。聖書の教えやら聖書のある一節の解釈やら理由は定かではないが、セルフィーやウィーフィーがあふれ(過ぎ)る現代社会では考えられない現実だ。

IMG_5078

 しかしながら、近年ではテクノロジー化の波に逆らえず、コロニーの学校も授業にパソコンやiPadを導入。生徒たちは、オンラインで課題やテストをこなすなど、一般社会同様に教育にテクノロジーが一役買っているそうだ。

 さらにスマートフォンを手にする者まで登場。iPhone片手に若者たちが見ているのはフェイスブックやインスタグラム、そしてテキストメッセージ。ほかのコロニーにいる仲間だけでなく、世界の若者とも繋がりはじめている。

IMG_6540

コロニーを後に、外界へと踏み出す若者たち

 数十年前に比べたらだいぶ自由になってきた様子。しかし、外界を知ることのできる現代だからか、閉鎖的な社会に見切りをつけ、新世界を求めて都市へ移住する若者が後を絶えないという。

 現在23歳のKelly Hofer(ケリー・ホーファー)もその一人だ。冒頭の写真を社会にリークしたのも彼。
 カナダ・マニトバ州のフッター派コロニーで生まれ育ったケリー。人口たった110人のコミュニティから、人口110万人の大都市カルガリーへと旅立ったのは19歳のとき。隔絶された社会で物心つき青春を過ごした青年が、20歳を目前に“現代社会”に飛び出した。そこには知られざるフッター派の実情があった。

IMG_6494

 先月には、ティーン時代に地元コロニーで撮りためた写真を1冊の写真集にして出版。アーミッシュの影に隠れ、その生活が語られることが少なかったフッター派。今回、出版にあわせて取材を申し込むと快諾してくれ、ケリーに明日、取材する。
 フッター派の内情、現代社会へ戻ったいま感じる、地元コミュニティに対する思いや過去、現在の自分自身の変化などを中心に聞く予定だ。続編記事は近日公開。乞うご期待。

—————
Photos by Kelly Hofer
Text by Risa Akita

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load