「デンタルフロス」をファッションブティックで売り出したら。美容アイテムの仲間入り・一人勝ちのブランド『ココフロス』

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親知らずをふくめて上下16本ずつ、合計32本の歯と歯の間のお掃除は「なかなか面倒」。とはいえ清潔な口内環境を維持するのには欠かせないものでもある。
だからこそ「面倒なものという概念を『たのしそう』に変え、フロスそのものも『おしゃれ美容アイテム』に昇華させる必要があると思いました」。ミレニアルズ起業家がはじめたオーラルケアブランド「ココフロス(Cocofloss)」、価格は他のブランドの約2倍。だが、よく売れている。

ドラッグストアやスーパーの陳列棚ではなくファッションブティックで売る

「デンタルフロス(以下、フロス)を角質洗顔やフェイスマスクのようにおしゃれでちょっとラグジュアリーな体験にしたい」。そう話すのはクリスタルとキャサリン。二人はカリフォルニア州在住の姉妹であり、オーラルケアブランド(ココフロス(Cocofloss)の共同創始者だ。
 2015年に同ブランドをはじめた二人は、創設の目的について「それまでのフロスの概念を変えたかったから」と話す。フロスは歯磨きと同じように毎日の習慣にすべきものであり、多くの人がそれを頭ではわかっていながら、なかなか実行できていないというのが現状だ。そこで二人が目をつけたのが成長産業かつおしゃれなイメージもあるウェルネス産業。デンタルフロスを歯のお掃除用具から「ウェルネス・グッズ」としてブランドの再構築を図った。

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 ビジュアルをかわいいパッケージで思い切り“雑貨”に寄せて一新したのはもちろんのこと、販売先をファーマシー(薬局、ドラッグストア)ではなくファッションブティックに切り変えた。セレクトショップ「アーバン・アウトフィッターズ」や「アンソロポロジー」でライフスタイル雑貨として、またコスメショップ「セフォラ」では美容アイテムとして扱われることで、フロスはフロスでも従来のものとは切り離された「新しいモノ」として消費者に受け入れられた。

 見た目をガラッと変えつつ他のデンタルフロスとは売る土俵も変えて戦った結果、長さ32ヤード(約2ヶ月分)の糸フロスが8ドルと、他のブランドに比べると1.5〜2倍ほど高いながらも「売れ行きは好調」だという。やや高めの値段設定が問題にならなかったのも「他のフロス商品と比較されないカテゴリで販売していたから」。他のブランドより高いことで、消費者にいままでのフロスとはいい意味で「何か違う」という印象を与えることにも繋がったという。また、そもそもデンタルフロスを買いに、とドラッグストアに行かないおしゃれ層にも「なんかかわいいし、そういえば美容にも大事だし」と届いたわけだ。

近年の新興ブランドのイメージ再構築の手法はよく似ている

 
 実際、「素材に弾力性があるので歯茎が傷つかない」「歯垢がよくとれる」「糸が切れにくい」と上々の反響。従来のものはポリエステルやフッ素樹脂(テフロン)が使われているものが多かったが、ココフロスは「ポリエステルの極細糸をフィラメント状に束ねた糸」になっており、表面には歯周病予防にも効果的な「ココナッツオイル」がコーティングされているという。そのため「糸はやや太めだが、歯と歯の間にスムースに入ります」。共同創始者のクリスタルは歯科医で、練習生だった頃からこのココフロスの構想を練っていたそうだ。

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ミントにストロベリー、フレッシュココナッツ、カラカラオレンジ味などがある。

 ココナッツオイルには美容や健康ネタに敏感な人を惹きつけるキャッチーさもある。キャッチーといえば、糸そのものの色もだ。ターコイズブルーには黄味がかった歯垢が見えやすい。すぐに結果や反応を欲しがる、現代人の欲求にも合っているし、何よりビビッドはフォトジェニックだ。お花やフルーツ、キャンドルと並べても違和感がないフロスなどいままでにあっただろうか。ちょっとしたギフトにもなり得る。 
  
 あらためて感じるのが、近年のスタートアップブランドのモノのイメージ再構築の手法がどれも似ていてどれも巧みだということ。以前、HEAPSで取り上げた「薄毛もインポも恥ずかしいことじゃない!」のヒムズ(Hims) や、カップル向けのセックス・トイ、デイム・プロダクツ(Dame Products)も、それまで身近に感じられなかったものや、どちらかというと人に見せたくはないようなものを、ポップなビジュアルを用いることで消費者がより親近感を持てるものに変えてきた。また「ウェルネス」というカテゴリーにシレっと移行することで、他のブランドと差別化を図っている点もよく似ている。それらの例に漏れず、ココフロスのインスタグラムアカウントもうまくいっている。デンタルフロスのインスタグラムアカウントに1万4,000人のフォロワー、デンタルフロスのポストに数百のいいねがつく。

歯が白い芸能人やモデルを起用する戦略はもう微妙

 かくいう私もフロスをするようになったのは米国に来てから。ある日ベーグルを食べていたら歯の詰め物が取れてしまい、仕方なく歯科医院を訪ねた。「保険がないんです」と泣きつく私に、その歯科医は多少の割引と多大なアドバイスをくれた。「詰め物を入れていた歯が虫歯になっていたのも詰め物が取れてしまった原因の一つ。虫歯を予防したければ毎日フロスをするようにしなさい。歯磨きだけじゃダメよ」と。以来、フロスを習慣にしようと試みている。そう、試みてはいるのだが習慣づけるのはが難しいのだ。

 なぜフロスを習慣にするのは難しいのか。それは「子どもの頃に習慣づけられておらず、何事も大人になってから習慣にするのは難しいから」。というもの、子どもの歯と歯の間は大人の歯ほど詰まっていないため、しっかり歯磨きができていれば、ある程度歯垢の除去はできるのだそう。その他にも「子どもが自分の手でフロスをするのは難しいから」や「矯正器具をつけているから」など、様々な理由から「フロスは大人になってからするもの」という認識は万国共通のようだ。言い方を変えれば、ココフロスは万国共通の大人の悩みを解決する可能性を秘めているともいえる。

 世界のオーラルケア市場の平均成長率は4.8パーセントで、2025年までに世界で約500億ドル市場になると予測される注目市場(グランドビューリサーチ調べ)。今後、ココフロスのように「土俵を変えて戦う」デンタルフロスのブランドが続々と出てくるに違いない。

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Photos via Cocofloss
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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