次世代に必須の「アーバン・マスク」?欧米先進国で“マスクのスタートアップブランド”が続々登場

日本では風邪をひいたときのエチケットとして。それからすっぴんや肌荒れを隠すためなど、あらゆる用途で重宝されるマスクだが。なんでも次世代に向けた「アーバン・マスク」なるものの需要が高まっているらしく、市場規模は年間20億円以上。欧米先進国発のマスクのスタートアップブランドが次々と参入していると聞く。

マスクのスタートアップがクラウドファンディングで資金集めに成功

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Photo by Steven Wang

 これだけ価値観やライフスタイル、いろんなことが欧米化している中で、いまだ残る日本独自の文化として「マスク」もあげられる。風邪ひいたらマスク、今日すっぴんだからマスク、肌荒れてるからマスク、人に気づかれたくないからマスク—このマスク文化は粘り強い。一方で、それとは異なる理由でマスクへのニーズが急速に高まっているのが中国。深刻な大気汚染から身を守るためだ。中国では年間100万人以上が大気汚染を理由に死亡していると推算されている。また、インドでも高濃度のスモッグが首都ニューデリーを覆い、PM2.5(微小粒子状物質)による「危険」レベルの汚染が続いたことから、すべての学校が休校になったというニュースはまだ記憶に新しい。PM2.5は粒子の大きさが2.5ミクロン(髪の毛の太さの約30-40分の1)と小さいので、肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系疾患への影響や肺がんのリスク上昇などが懸念されている。

「インドに留学中、子どもの頃に完治したはずの喘息が再発。大気汚染の深刻さを体感しました」。そう話すのはスウェーデンのスタートアップ「エアイナム(Airinum)」の共同創始者、アレクサンダー氏だ。
 2015年、「アーバン・ブリージング・マスク」という名の機能性とファッション性を兼ね備えたマスクを作り、キックスターターで資金集めに成功。その要因については「ぼくらが掲げたビジョンに共鳴してくれる若者が多かったから」と話す。彼らが掲げたビジョンとは「深刻な大気汚染への人々の意識を喚起させること。誰もが綺麗な空気にアクセスできるようにするための市民運動を起こしたい」というものだった。

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Airinumのマスク。

 エアイナムの一個8,000円するマスクは、つけ心地が良いのはもちろん、ウイルス、細菌、アレルゲンおよびスモッグに対して最高99パーセントまでの保護効力を発揮するという本格的なもの。市場に流通する一般使用向けの他の製品に比べると、その保護力は約6倍も優れていることが判明しているそうだ。空気の汚染レベルにもよるが、内側のフィルターの効果は約1ヶ月持続し、またフィルター部分を変えればマスクは繰り返し使用できる。

 創業から約1年がたったいま、コアターゲットはやはり中国を中心とするアジア圏(約50パーセント)。だが、米国(約30パーセント)やロンドンを中心としたヨーロッパ圏内(約20パーセント)でも徐々に拡大していると強調する。「ストックホルムでもニーズが伸びていることは意外でした。自転車通勤者から人気があるようです」。

ナイキにアディダス。スニーカーで作ったマスクが話題を呼ぶ

 大気汚染への意識喚起を目指すという意味では、スモッグで街が霞む北京を拠点とするデザイナー、ツィジュン・ウォンの「スニーカーで作ったマスク」のインパクトがすごい。マスクを作るようになった動機は「いまや北京ではマスクは生活必需品なのに、おしゃれでつけ心地の良いマスクがなかったから」。もともとスニーカーヘッズであった彼はある時、スニーカーの、軽くて丈夫で、通気性の良い素材が「マスクにピッタリだ」と閃いた。ナイキのエア・マックスや、アディダスのイージー・ブーストといった人気スニーカーを解体し、それらの素材を使って再設計したマスクはSNS上で瞬く間に広まる。ブランドなどから依頼があれば作るが「あくまでも人々の意識を喚起するためにやっているので」と、作品の多くは非売品で入手困難。そのため、中国のeBayでは一個50万円以上の値がついているそうだ。

Photo via Zhijun Wang, @zhijunwang

 大気汚染への意識喚起には成功したとはいえ、実際に汚染問題が収束に向かうには少なくても20年はかかるといわれている。そんな中で、大気汚染からいかに身を守るか。中国では多くの市民が、人体への悪影響を少しでも減らすものへ高い関心を示している—と、同時にこの状況はビジネスチャンスも生み出しており、短期的に成長が見込める高性能マスクは海外のスタートアップを引きつけているようだ。なんでもインドを含むアジア圏全体のマスク市場は毎年2桁の成長をみせ、年間20億円以上の規模だといわれている。

 上述のスウェーデンのスタートアップも「大気汚染への意識喚起」としてマスクを販売しているとはいえ、もともとアジア圏ほど外出時にマスクをする文化がなかった北欧やヨーロッパで、急にマスクがバカ売れするなんてことは最初から期待していなかっただろう。狙いはもっぱらアジアだ。というもの「#airinum」のハッシュタグで検索すると、マスクをした中国、台湾、ベトナム、韓国、日本などアジア圏のファッショニスタが出てくる出てくる…。アジアでのインフルエンサーマーケティングをしっかりおこなっているようだ。
 
 資本主義社会だもの。お金を儲けることは悪いことではないと思う。しかし、なんだかな。「アジア圏内に住む人々の健康を考えて、お洒落で高性能なマスクを作りました。一個◯千円です」と、西洋の先進国企業に善人顔でいわれてもだな…、なんてことを思わず考えてしまう。

著名デザイナーもマスクづくりに参画。ウールの柔らかな肌触りで

 高性能とはいえ一個8,000円以上というのは、マスクにしては値が張りすぎではないかと感じるし、いち日本人の感覚からするとデザインも主張が強すぎて仮装感が否めないように思える。だが、イギリス発の「ケンブリッジ・マスク(Cambridge Mask)」やアメリカ発の「オーツートゥデイ(02Today)」、ニュージーランド発の「メオ(Meo) 」など、市場に流通する一般使用向けの製品とは一線を画す、似たような「高性能でファッション性も兼ねたマスク」で巨大マーケットを狙うスタートアップが増加しているのを見ると、一個数千円という価格設定も、そしてデザインもあながちハズレではないようだ。

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O2Todayのマスク。

 アメリカ発の「オーツートゥデイ」とニュージーランド発の「メオ」の二つに共通するのが、ニュージーランド産の高級ウールを使用していることと、著名デザイナーを起用していること。ウールの柔らかい肌さわりや、ウィルスや細菌をブロックしながらも通気性が良いといった特性は「マスクに向いている」という。また、「オーツートゥデイ」とコラボした人気デザイナー、マルセス・ワンダース氏は「アメリカでも、特に我々が拠点とするソルトレイクシティの冬季の汚染濃度は北京と同等、もしくはそれ以上に酷くなることがある。
健康意識の高い人々はマスクの必要性を感じています。高級ウールでできたコートやスカーフを身につけるように、肌触りの良いマスクを身につける。そんなふうにマスクが“ライフスタイル”になる日はそう遠くない」と予測する。

 また「オーツートゥデイ」のCEOのブルース氏も、狙いはアジアに限ったことではなく、アメリカでも広めていきたいと語る。「アメリカでは、日本のように風邪やアレルギー予防のためにマスクをつける習慣がなく、つけることに抵抗を感じている人が多いです。けれど、冬のソルトレイクシティや山火事が起きたカリフォルニア州の空気の汚染濃度が深刻なのは科学的にも証明されており、安全のためには外出時にマスクをつけるべきなんです。なので、マスクの着用を習慣化させていくことも我々のミッションの一つ。その取り組みとして、今後は学校などとも提携していきたいと考えています」。

 あくまでも人々の健康を考えてのビジネスだと強調するブルース氏。「世界中の誰もが綺麗な空気にアクセスできる状態が一番。高機能マスクなんて必要ない。そんな日が一刻も早く来ることを願っています」と。

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Eye catch image via Zhijun Wang
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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