カップル、結婚、いろんな家族。ジェンダーが開放に向かういまの「LGBTQコミュニティと、お金と人生設計」って?

ゲイのファイナンシャル・プランナーを肩書きにし、“LGBTQコミュニティ特有の価値観”に応えるというエキスパートに、いろいろ聞いてみた。
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LGBTQ人権運動の発端「ストーンウォールの反乱」から50年を迎えた今年。ジェンダーやセクシュアリティの多様性に応じた動きは、いままでになく全世界で急速に発達してきている。LGBTQ専門のセラピストが常駐するメンタルクリニックや、トランスジェンダーによる“トイレ革命”、さらには同性愛者のための出会い系アプリも登場。

それでもまだ多くの業界では、LGBTQコミュニティに対する隔たりが多かれ少なかれ存在しているのも事実だ。たとえば、人生設計とお金についてエキスパートがアドバイスをする「ファイナンシャル・プランニング」という業界でも。人生設計を相談する顧客たちが「自分はLGBTQだといえない」状況がまだまだある。同性婚の合法化で若くして結婚を選択するカップルも増え、それぞれの形で家族を育むいま。「正々堂々と自分のセクシュアリティやジェンダーに誇りをもてるいまだからこそ、一緒に人生設計してくれるプランナーが必要ですね」。

人生設計を“心から信頼できない人”に託していいの?LGBTQとお金のプランナーの、複雑な関係

 フリーランスなど働き方の多様化や晩婚化で、「個人個人のお金と人生プラン」の選択肢が一気に増えた。また、いまの20-30代は、ひと世代前に比べて、投資や貯金、資産設計に興味を持っていることもわかっている。日本におけるファイナンシャル・プランナーの利用率は約7.5パーセント、米国でも17パーセントとまだまだ低いが、今後も需要は、じゅうぶんありそうだ。

「ファイナンシャル・プランニング」というサービスは、平たくいうと、「個人の人生の夢や目標を達成するために、総合的な資金計画を立て、どうやってお金を投資し貯蓄していくか資産設計をする」こと。
 生活費、食費など家計に関わる金融から、税金、株式、保険、不動産、住宅ローン、年金まで、さまざまな経済的データを分析。「個人個人のお金と人生プラン」、つまり「ライフプラン」の実現をサポートするアドバイザーが、ファイナンシャル・プランナーだ(ファイナンシャル・アドバイザーとも)。顧客の相談には、株式・投資信託の運用 、保険の見直し、住宅の購入・買い替え、子どもの養育費や教育費、老後の生活設計などが含まれている。

 となると、より重要となってくるのは、ファイナンシャル・プランナーと顧客の関係性。顧客は、近しい友人にも滅多に教えないような“自分の資産”という個人情報をプランナーに開示し、自分の夢を叶えるために資産計画を託す。かなり厚い信頼関係が必要だ。しかし、担当のプランナーに“本当のこと”を明かせないとしたら。

「自分のプランナーに自身のジェンダーやセクシュアリティをカミングアウトできない人を何人も見てきました」。そう話すは、ゲイのファイナンシャル・プランナーを肩書きにするデヴィッド・レイ。ファイナンシャル・プランニング業界が「ジェンダーに対してまだまだ閉鎖的」だと話す。「これまでの業界とLGBTQコミュニティとの関係性って?」「同性婚やさまざまなジェンダーの社会進出が進む時代、これから両者がどう変わっていくべき?」。LGBTQを含めたすべての人が気持ちよく利用できるよう励むデヴィッドに、コンサルしてもらおう。


話を聞いたゲイのファイナンシャルプランナー、デヴィッド・レイ氏。

HEAPS (以下、H):さっそく、本題から入りたいと思います。デヴィッドさんは、以前フォーブス(米経済誌)に寄稿していた記事で「ファイナンシャル・プランナーは、年齢層も高く、有色人種も少なく、保守的な人たちが多い傾向にある」と述べていた。ゲイのファイナンシャル・プランナーとして働いているなかで、プランナーの多様性が乏しいと感じることはありますか。

D:ありますね。たとえば、米国の認定ファイナンシャル・プランナーのうち、女性の割合は約4分の1以下です。LGBTQのプランナーの割合についてはデータがないのでわかりませんが、圧倒的に少ないと感じています。多くのプランナーは50歳以上で、これから10年のあいだに、約3分の1が引退するのではないかと見込まれています。

H:なるほど。この10年での入れ替わりがどうなるかですね。現状、相談先がその状態だと、やはりLGBTQの顧客は、プランナーとのあいだに壁を感じることは多いのですか。

D:私のLGBTQの顧客からよく聞くのは、プランナーに対してカミングアウトできず、自分のライフスタイルにあったプランが立てられなかったという案件です。プランナーとお金のことについて話すだけでも、ストレスがたまること。そのうえ、プランナーを目の前に自分自身に正直になれないというのは、さらに心身的につらいと思います。ある同性カップルはプランナーと資金計画を立てる際にカミングアウトを避けるため、配偶者の性別をわざと変えていたりしていました。

H:性別を変えるほどとは。自分の金銭事情やライフプランを包み隠さず共有するプランナーに、自身のジェンダーも打ち明けられない。

D:ファイナンシャル・プランニングとは、ただ顧客のために資金計画を立ててあげることではありません。どのようにしたら顧客が一番幸せで、健康的で、裕福な人生を歩めるか一緒に考えていく仕事です。LGBTQコミュニティ特有のさまざまな価値観が、資金計画に影響してくることもあると思いますね。

H:「LGBTQコミュニティ特有のさまざまな価値観」とは、なんでしょう?

D:たとえば、独身のゲイ男性。結婚や育児などにかかる費用を無理に考慮しなくてもいい。子どもを育てないからこそ、キャリアにもっと時間とお金をかけることができるし、未来に向けて蓄えることもできます。また、子どもがいないクィアの人々は、自分がリタイアした後の高齢者介護サービスにお金を費やす傾向にある。LGBTQに特化した医療サービスを提供するゲイフレンドリーなコミュニティで生活するために、老後に投資する顧客が多い気がします。

H:LGBTQの顧客だからこそ、ファイナンシャル・プランニングをする上で重要となってくる要素ですね。今年おこなわれた調査でも、シスジェンダー(生来の身体的な性別と自分の性認識が一致している人)に比べ、LGBTQの方が経済的な不安を抱えているとわかりました。

D:LGBTQの多くは性の多様性が認められるような大きな都市(ロサンゼルスやニューヨークなど)に住む傾向が多いので、生活費や居住費もそれなりにかかり、彼らの金銭的な負担になっています。さらに子どもを持ちたいゲイやレズビアンのカップルには、体外受精、養子縁組、代理母出産などに膨大なコストがどうしてもかかってしまうので、リタイア後の資産状況をさらに不安定にしてしまうという問題もあります。

H:なるほど…。LGBTQコミュニティならではの悩みですね。

D:また、同性婚が認められたことで、人生の後半にさしかかってから結婚について悩むLGBTQのカップルが多いです。私の顧客にも、何十年も一緒に連れ添って、50代、60代になってから、ようやく結婚した同性カップルが多くいました。双方に貯蓄がある状態で結婚したカップルのファイナンシャル・プランは、それはそれですごく複雑で…。

H:同性婚が法律化され結婚したから、じゃあ財源を一緒にしよう、というのはある意味難しいのかもしれませんね。

D:お互い個々の財源を保ちながらも、パートナーとして経済的な目標に向かって人生を一緒に歩むことができる。ベストな道を探るのに、いつも苦労しています。

H:いろいろと複雑な事情も多いLGBTQのファイナンシャル・プランですが、デヴィッドさんは顧客たちにどのようなアドバイスをしているのですか?

D:そうですね…。顧客によって本当にさまざまなので何百万通りのアドバイスがあるのですが、いつも念を押しているのは、ファイナンシャル・プランを「後回しにしないこと」です。自分の財源に対してしっかり主導権を持ち、プランを早くはじめればはじめるほど、経済的な人生のゴールにたどり着くのは、とても簡単になるんです。

H:同性婚が進み、ジェンダーにおいてますます開放に動いている現代、LGBTQ特有のお金の悩みや人生の価値観を理解し、それを資金計画に反映できるファイナンシャル・プランナーがもっと必要になってくると思います。近年、LGBTQコミュニティのためのファイナンシャル・プランニングは少しずつ拡大していると聞きました。実際のところどう感じていますか?

D:そうですね、LGBTQの人々が社会に受け入れられるようになってきたのと同時に、LGBTQコミュニティに敬意をもって貢献しようとするファイナンシャル・プランナーが増えている気がします。さらに、多くのLGBTQが結婚しはじめたり、それぞれの形で家族を作りはじめたりすることが可能になってきているので、彼らの方からプランナーへ財政のアドバイスを求めるような動きもありますね。

H:業界全体も、ジェンダーに対してフレキシブルに対応できるようになってきていると。

D:正々堂々と自分のセクシュアリティやジェンダーに誇りをもてるいまだからこそ、一緒に人生設計してくれるプランナーをみんな探しているのだと思います。

H:それにくわえて、LGBTQを取り巻く社会の制度も変わってきています。先ほどもありましたが、米国では2015年に全州で同性婚が合法化された。ということは、若い世代のLGBTQは、結婚を踏まえた人生設計が早いうちからできるようになりました。

D:ミレニアル世代やその下のZ世代は、彼らの上の世代よりも確実に早くファイナンシャル・プランニングをはじめていると思います。同性婚のこともありますし、お金にそこまで余裕がなくても受けられるファイナンシャル・サービスが増えたこともあります。ひと昔前は、最低でも25万ドルほどの資産がなければ、ファイナンシャル・プランニングのサービスを受けることは難しかったんですよ。

H:25万ドルということは、おおよそ2,600万円! こんな高額、若いうちから持てるはずがないですね…。

D:その通り。いまでは、若い世代を中心に顧客をもつXYプランニングなどをはじめとするさまざまな団体が、すべての資産・収入レベルの人々に対して、手頃な価格でのサービスを提供しています。

H:ファイナンシャル・プランニングの民主化が進んでいるのですね。同性婚やLGBTQの雇用拡大など社会の制度の変革とともに、LGBTQコミュニティとお金のつきあい方、ライフプランのたて方はどのように変わっていくと思いますか。

D:PrEP*をはじめとするさまざまなエイズの治療法が発展してきているため、ゲイ男性の人生設計や未来に関する考え方も変わっていくと思います。ゲイであることに恥や恐怖を抱えることなく、ヘテロセクシャルと同じように希望を持って自分のアイデンティティとともに生きていける。そんな未来が近いと、楽観的に捉えています。

*性交渉する前からHIVの薬を内服し、HIV感染のリスクを減らすという新たな予防法。

Interview with David Rae

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Eyecatch Image by Haruka Shibata
Text by Haruka Shibata
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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