「俺たちが死んでも現場の記録は残るから」ドローンとゴープロ武装で違法木こりに挑む〈森林レンジャーたち、残り10%の闘い〉

最近は、人工知能で犯人の顔を識別できる防犯カメラや、人工知能によって運営される無人の「AI警察署」など、“テクノロジー”が悪と闘う相棒となっている。
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人間が足を踏み入れにくい場所で。あるいは、人間が見ることのできない目線から。空撮もできる無人航空機ドローンや、動きのあるアクションシーンを臨場感とともに撮影できるGoPro(ゴープロ)などのデジタルデバイスは、いままで人間が見えなかった世界を捉える“新しい目”となっている。

一方、ある東欧の国には、“悪と闘うため”に、これらテクノロジーをフル活用する正義の味方がいる。違法伐採者、通称〈ウッドマフィア〉に立ち向かう、ドローン・ゴープロ完全装備の森林レンジャーだ。

違法伐採で森が消失。立ち向かうのは最新テック駆使のレンジャー

 世界最古の文化をもつ国として、ヨーロッパでも独特の存在感を放つ東欧アルメニアは、風光明媚な景色の宝庫だ。岩を彫って築かれたゲハルト修道院やハフパット修道院、そのまわりを囲む深い渓谷。“アルメニアのスイス”と呼ばれる、自然豊かな丘陵地帯が広がる北部の都市ディリジャン。特に、数千種の植物や数百の鳥類が生息するディリジャン国立公園は、ソ連時代には芸術家たちの避暑地としても愛された。

 緑豊かな印象のアルメニアだが、近年抱えている大きな問題が「森林破壊」だ。世界の「低森林被覆国(国土面積に占める森林面積の比率が10パーセント未満の国)」70ヶ国に名を連ね、1990 年代初期以降、森林は20パーセント以上減少しているという報告も。事態は深刻化している。



 そのおもな原因が「違法森林伐採」。違法の伐採者とは個人の違法の木こりたちで、彼らは“ウッドマフィア”と呼ばれる。森林に出入りし、健康な木々を切り倒し、高値で売り飛ばす。国土の10パーセント以下しかない森林が、その手によって次々と破壊。先述のディリジャン国立公園も、ウッドマフィアの犯行現場として泥沼化しているという。

 そこに颯爽とバイクで駆けつけるのが、若い環境アクティビストとボランティアで編成された「森林レンジャー」だ。2017年に結成して以来、国立公園のなかをパトロールし、違法木こりたちを取り締まっている。彼らを追い詰めれば、暴行を受けることもしばしばあるという。危険と隣り合わせだ。その彼ら森林レンジャーを守る秘密兵器こそ、ドローンとゴープロ。最新テクノロジーを駆使しウッドマフィアに立ち向かう森林レンジャーの闘いについて探るべく、レンジャー創立者/リーダーのゴルに接触。ビデオ画面越しに現れた彼の額には、先日バイクの衝突事故によってつけられたという生傷が痛々しく残っていた。


一番左が、リーダーのゴル。

***

H:そちら(アルメニア)は夕方6時。レンジャーのお勤め、本日は終了ですか。

G:いや、現在は地元の学校でアウトドア・インストラクターをしている。レンジャーの仕事もしているが。

H:(リーダーの右腕には、木のタトゥーが)リーダー、右腕のタトゥーは…。

G:森林と山だ。

H:己の体に刻むほど山と木々を愛する男。リーダーがレンジャーを結成したのも、アルメニアの森林破壊を食い止めたかったから。アルメニアは過去20年で森林が著しく減少します。国土における森林面積は10パーセント以下だとか。

G:公式データでは11パーセントとなっているが、現実には7パーセントしかない。10年前は21パーセントあったというから、状況は壊滅的だ。

H:その大きな原因の一つに「違法伐採」が挙げられます。通称“ウッドマフィア”が違法伐採に手を染めているとのことですが、彼らはいつごろ出現したのでしょうか。

G:すべては、ソ連崩壊直後からはじまった。当時、ガスや暖房の供給が行き届いていなかったから、火をおこすための薪(まき)の需要が増えたんだ。その後、家具を作るために木材が伐採されるようになった。

H:暖をとる、料理をするなど、生活する上での必要性から木の伐採がはじまり、やがてそれが違法伐採・木の取引をおこなう組織犯罪へと繋がった。アルメニアにおいて、木材の市場価値はどのくらいあるのでしょう。

G:家具に使用できる木材なら、10本で3,000ドル(32万円)から5,000ドル(53万円)ほどで取引される。10本なんて1日で切り倒せる本数だ。

H:低所得者家族のなかには、いまだに日々の生活の大事な資材として木に頼っている人々もいると聞きましたが。

G:たくさんいる。風や雪などが原因で倒れた“倒木”を使用することや、1世帯につき毎冬8立米(約520束)なら薪木として伐採することが政府から認められているのだが、「せっかくだからちょっとした副収入を得るか」と、許可された量以上を伐採する連中もいる。



H:それをウッドマフィアに売ると。

G: ああ。彼らには日当10ドル(1,070円)ほどが支払われる(リーダーによると、アルメニアの平均月収は約6万4,000円から7万4,000円)。 それにウッドマフィアに加担しているのは個人の木こりだけではない。国立公園の公認レンジャーのなかにも、マフィアから賄賂を渡されて、違法伐採を見て見ぬ振りをする者もいる。そうして伐採された木は細かく刻まれ車の荷台に積まれ、街に売りとばされにいくんだ。

H:違法伐採された木は闇のマーケットで違法に売買されるんですか? それとも合法に伐採された木に混ざって売られる?

G:買い手はその木材が合法に伐採されたのか、違法に伐採されたのかなんて気にしない。その木がどこから来たかのか、どのように伐採されたのかなんてどうでもいいんだ。アルメニア国民の頭のなかは「明日や明後日のご飯をどうするか」。孫世代の環境がどうなるかについてまで考えている余裕はない。

H:国土の10パーセントを切ってしまった森林を救おうと、政府機関や環境団体などがなにか対策に乗り出しているのですか。

G:欧州やアルメニア政府から支援を受け、森林伐採を食い止めようという目的のもとに集まる非営利団体は、国内にたくさんある。でも彼らがやっていることというのは、ミーティングを開催しディスカッションをしたのち、コーヒーブレイク。ただの集まりをしただけで、満足しているんだ。おそらく、参加者の99パーセントは、実際に森に行ったことすらないだろう。

H:集まって話し合いをするだけで、問題解決のためなかなか行動に移さない。その姿に業を煮やして、リーダーは2年前に、ディリジャン国立公園を巡回し違法伐採者を取り締まるレンジャーを結成した。いま、何人のチームメンバーがいますか?

G:リーダーの俺と、相棒、それに18歳と26歳の女性2人と26歳と27歳の男性2人のコアメンバーが4人。あとは緊急時に集まってくれる15人から20人のボランティアだ。ちなみに俺は34歳、相棒は30歳。

H:メンバー、みんな20、30代と若い。どうやってメンバーを集めたんですか。

G:結成当時、フェイスブックでレンジャーのアカウントを作ったんだ。そしたら、そのアカウントが人気になって、たくさんの人たちから連絡があった。

H:たくさんの応募から、どのようにメンバーを選んでいった? レンジャー経験者のみ?

G:入隊条件は、環境アクティビストであること。過去に、環境関連のボランティアをなにかしら経験した者に絞っていった。山ガイドの資格をもっている者もいれば、現メンバーの18歳の子のように、なにも資格をもっていない者もいる。レンジャー経験者は、俺だけ。あとは未経験者だ。


H:入隊の資格は、環境保護への熱意。メンバーのトレーニングは、リーダーが担当。

G:トレーニングは初日からはじまる。応急処置や緊急時の避難テクニックなどを叩き込んだあと、はじめはハイキングでパトロール開始だ。バイクに乗れないメンバーもいるからな。

H:レンジャーが使用するバイクは、ぬかるみや泥、森などを行けるオフロード用バイク。

G:ディリジャン国立公園は、とにかくでかい(240万平方キロメートル、東京ドーム51個分)。人間の足や馬で巡回するのには限界があるから、バイクで動き回るしかない。エコフレンドリーではないが。バイクも1年もたないし、メンテナンス費や燃料費もかさむ。

H:1年でバイクを使い倒すほど過酷なパトロールを…。毎日の勤務時間を教えてください。

G:勤務時間なんてのはない。1日かけて山を巡回することもザラだ。ちょっと仮眠を取りに基地に戻ってきたとしても、山火事や不自然な伐採など、なにか通報があれば駆けつける。だからメンバーのシフトはないね。状況は不安定だから、いつなんどきも対応できるようにしないと。

H:じゃあ、メンバーはみなフルタイムレンジャー?

G:映像作家や翻訳家などの仕事をしているメンバーもいるが、レンジャーの仕事が多忙を極めるため、正直、他の仕事と掛け持ちするのは難しい。

H:自らを森林に捧げた人たちだ。リーダーとして、メンバーのトレーニング以外は、どのような役割を担っているのですか。

G:パトロールの同行や、資金繰り、地元民と揉めたら話しあいにいく。ウッドマフィアが絡んでいることだから、市長や市役所の役人など政治家や警察と話さなければいけない状況もある。そこで俺の出番だ。

H:実際、パトロール中にウッドマフィアを見つけたらどう対処するのですか。その場で取り押さえる?

G:逃げようとしたヤツらをバイクで先回りして通せんぼしたことはあったが。正式には、俺たちに逮捕する権限はない。警察に突き出せば、俺たちが逮捕されることになる。だから、俺たちには違法伐採者の“証拠”を集めて、警察に届けることしかできないんだ。

H:その証拠集めのために…。

G:ドローンとゴープロを駆使するんだ。DJI(ディー・ジェイ・アイ)社のMavic PRO(マビック・プロ)というドローンを2機飛ばし、上空から森を偵察させている。伐採者を見つけると、伐採した木をどこに隠したのか、また伐採した木々を積んだ車を追ったりすることもある。


H:リアルタイムで映像をチェックできますからね。これまでドローンが捉えてきた映像のなかで、決定的なものはありましたか。

G:あぁ。こんな映像があったな。伐採者を発見しドローンを下降したら、伐採者がドローンの存在に気づき、ドローンに向かってなにかを突きつけた。それは「伐採を許可する証明書」。すかさず、画面越しにスクリーンショットした(笑)。

H:合法な伐採者の無罪もドローンは暴くというわけか。見つけられた伐採者は、どんな反応をするのですか。

G:逃げる者もいるし、「自分たちの意思で伐採しているわけではない」と弁解する者、攻撃してくる者、涙ながらに言い訳する者など、人によってさまざまな反応だ。

H:ゴープロは、ウッドマフィアの顔をおさえるために使用する?

G:その通り。レンジャーのヘルメットに装着して、パトロールのすべてを記録する。これまで、違法伐採からウッドマフィアとの格闘まで、パトロールの一部始終を捉えた数テラバイト分のビデオ映像がある。

H:実際に、これまでもパトロール中にウッドマフィアから銃弾を受けたレンジャーや暴行を受けたレンジャーもいたとのこと。こんなことは日常茶飯?

G:レンジャーたちはほぼ全員、攻撃を受けたことがある。夜のパトロール中にレンジャーたちをめがけて銃がぶっ放されたこともあるし、パトロール中のレンジャー3人がウッドマフィアに暴行されたこともある。

H:命懸けの闘い。

G:そう。だから、ドローンやゴープロなどスマホに接続できるデバイスを使い、オンラインストリーミングすることで、カメラが壊れたり、俺たちが万が一殺されたりしても、ウッドマフィアの顔や情報が映像としてクラウド上に残るシステムにしているんだ。リアルタイムで映像を確認するのにスマホを使うから、レンジャーみんなに高機能のスマホを買いあたえる必要があったがな(笑)。



H:リーダーが経験したなかで一番怖かった瞬間は?

G:俺たちの活動を快く思わない村民たちが詰め寄ってきたときだ。レンジャー5人 v.s. 村民50人。なかには違法伐採者もいて、凶器片手に俺たちを傷つけようと脅してきた。警察もその場にいたが、なすすべなくてね。

H:リーダーの仕事も骨が折れる。

G:正直、後任を見つけて早くリタイアしたいのが本音だ。レンジャーの仕事はとにかく大変なんだ。雨のなかを歩いたり、ウッドマフィアとの日々の衝突、きわどい闘い。バイクで森林をパトロールするなんて、聞こえはかっこいいし、ロマンがある仕事だと思うだろ。でも、バイクで斜面を転げ落ちたり、ウッドマフィアから攻撃を受けたりした暁(あかつき)には、もうロマンチックな仕事だとは思わなくなるだろうね。一年、いや半年ごとにメンバーチェンジがある。みんな辛くなって辞めていくんだ。長続きする仕事ではない。

H:でもハイテク・デバイスのおかげで、レンジャーの仕事は少しは楽になりましたか。

G:ハイテク・デバイスにはかなり助けられている。レンジャーの仕事を大いに安全にしてくれた。それまで、深い渓谷のあたりで(木を伐採する)チェーンソーの音が聞こえたら、バイクで大きな回り道をして川を渡りながら辿り着いていた。ドローンを使えば時間だって節約できるし、安全だ。

H:今後、テクノロジーの導入によってアルメニア国内の違法伐採は減ると思いますか?

G:テクノロジーを導入したレンジャーは俺たちが初なんだが、効果はすでにみえている。テクノロジーを導入していなかった結成当時は、毎回、森に入るごとに10件ほどの違法伐採を発見していた。でもいまでは、週に1件か、少ないときには月に1件。もちろん、俺たちがパトロールしているエリアだけの話だが。逆に、エリア外の状況は酷くなっているらしい。俺たちのエリアで伐採できなくなったヤツらが移動したためだ。

H:警察もレンジャーの証拠を元に積極的に動いている?

G:いや、警察は俺たちの証拠にはうんざりしているよ。ビデオなどの証拠を渡しても「わかった、受け取っておく」と言ったきり脇にポイッ。だから俺は定期的に地元警察署を訪れて「あの件の調査はどうなっていますか」と尻を叩きにいかないといけない。闘う相手は、ウッドマフィアだけじゃないってことよ。

ただ、俺たちのゴールは「違法伐採の逮捕者を出すこと」ではない。森にレンジャーの存在感を知らしめることによって「伐採を困難にすること」なんだ。俺たちレンジャーが存在する前は無法地帯だったけど、いまは俺たちが巡回している。だから伐採はもう許されない。そんな意識を植えつけさせる。



  
H:ウッドマフィアの証拠をおさえたからって、明日に彼らが消えてくれるわけではない。腰の重い警察を促し、レンジャーたちの存在を植えつけ違法伐採を未然に防ぐ。なかなかの長期戦ですね。

G:あとはパトロール以外にもおこなっているのは、地元民向けのビジネス講座。森林伐採でお金を稼ぐのではなく、他の方法で稼ぐ方法を教示するんだ。観光産業でのビジネスの立ち上げ方など、俺たちがもっているスキルや経験を共有する。木を“お金”として見るのではなく。新しい世代に、自然を敬愛する精神を教えているんだ。

H:近年、エコフレンドリーやサステナビリティなど、環境問題について熱心に考え積極的に行動する若い世代が、世界のどの地域にも増えています。アルメニアの若い世代も、森林破壊についての関心はありますか。

G:残念ながら、熱心に考えているのは2割ほどしかいない。もっと次世代へ、自然について考え、自然を敬うよう啓蒙するために、講演会なども開くのだが、いつも参加しているのはその“2割”なんだ。でも、効果は少しずつ感じている。最近レンジャーのもとに、ある若い女性から通報があってね。「父が森に伐採に行ってしまった。止めてあげて」という依頼だったんだ。

Interview with Gor Ayzak Hovhannisyan

All images via Eco House and Camp
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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