「自由に安全に仕事を」テック系セックスワーカーらにより〈セックスワーク専用SNS『Switter』〉が誕生

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最近、まるでツイッターのような名前のSNSが登場したと話題だ。その名も「Switter(スイッター)」。現在7万人いるというユーザー、そのすべてセックスワーカーとそのクライアントたちである。

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テック畑出身のセックスワーカー、規制に立ち上がる

 今年4月、トランプ米大統領によって正式に署名された「オンライン性的人身売買撲滅法(FOSTA、フォスタ)」が波紋をよんでいる。オンライン上での性的人身売買(セックスワーク)に関する動きを取り締まる法で、これを受け米大手クラシファイドサイト「クレイグズリスト」が個人的な出会いを求める“パーソナルセクション”を削除、売春の温床とされていた広告サイト「バックページドットコム」には営業停止命令がくだった。さらに、ソーシャルメディア規制によってアカウントを凍結されたり、シャドーバン(ユーザーの投稿をタイムライン等に非表示にさせ公の目に触れさせないようにすること)をされるなどにあったセックスワーカーたちは後を絶たない。これらの措置は、一見するとセックスワーカーたちの安全を守り悪を阻止しているようだが、当のセックスワーカーたちからの意見は現実的なものだ。

「このようなサイトやソーシャルメディアのプラットフォームは、セックスワーカーたちにとっての生命線なの」。こう話すのはオーストラリアのセックスワーカー、ローラ・ハント嬢だ。「このようなプラットフォームが急速に消されていくのなら、代わりとなるオンラインコミュニティが必要だと思った。こうして『Switter(スイッター)』ができた」。性産業に4年身をおき、エスコート嬢としてシュガーダディ(パトロン)の相手などをしている彼女は、スイッターを創設した団体「Assembly Four(アセンブリー・フォー)」のメンバー。以前はテックスタートアップで勤務していたテックパーソンでもある。

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ローラの公式Switterアカウントから。

 2017年、オーストラリアで創設されたアセンブリー・フォーは「セックスワーカーとテクノロジストから成るコレクティブ」。1人のテクノロジストと1人のセキュリティエンジニア、1人のセックスワーカーが、「テクノロジーによるセックスワーカーのエンパワメント」を目指しており、彼らのプロジェクト第一弾としてサービスを開始したのが、セックスワーカーの“ツイッター”、スイッターというわけだ。

簡単サインアップ、営業活動&クライアントとの連絡もOK

「セックスワーク・フレンドリーなソーシャルスペース」と謳うスイッター、実際どんなポストがあるのだろう。「そうね、ユーザーによって本当にさまざまよ。営業をかける子、助言を求めたり、愚痴をいう子、クライアントと会話をする子とか…。セックスワーカーならではのミーム(ネット上のギャグ)をつくる子もいるわね」

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「私の名前は〇〇。単調な毎日からの逃避行、私とどう? 今週末、メルボルンで待っているわ。電話番号:XXXX XXX XXX(テキストのみでお願い)Eメール:xxxxxxxxx@xxxxxxxx.com」

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「今週の土曜日、私のところに来ない? #incall(私の部屋)#outcall(あなたの部屋)、 どっちでもオーケー。ロケーション:メイン州 Eメールはxxxxxxxxx@xxxxxxxx.com、電話番号はXXX XXX XXXX」

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ヘイ! 700フォロワーを更新したわ! 記念の写真よ。

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「#incelConvention(非モテ過激派集会)」
(セックスドールと参加する男性たちの写真)

 スイッターのプラットフォームは、“分散型ソーシャルネットワークサービス”といわれているフリーソフトウェア、日本でも一時期話題となったマストドンだ。セックスワーカーでなくても、登録希望者はユーザーネームとEメールアドレス、パスワードを用意すれば、スイッターというインスタンス(サーバー)にサインアップ可能だ。
 ツイッターに似たメッセージボードでユーザー同士、投稿(トゥート)や閲覧ができ、投稿は一般公開、あるいはプライベート公開にもできる。「セックスワーカーやクライアントが交流できるオンラインフォーラムはまだかろうじで存在していると思う。でも、登録するのには厳密な審査プロセスを踏まなければならないことが多いの。その反面、スイッターはサインアップも簡単、オープンなプラットフォームでセックスワークについて誰でも自由に話すことができるわ」

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 スイッターの最大の抜け穴は、サーバーがオーストラリアにあること。オーストラリアではセックスワークが合法であるため、ネットワークを妨害される可能性が俄然低いという。「私たちのユーザーの大半はアメリカとオーストラリア。でも最近は中国やオランダからのユーザーも増えてきた。こうやってプラットフォームが拡大していくのはいいことだわ。(最近の規制によって)沈黙を課せられたセックスワーカーは数千人ではなく、世界中に何十万人もいるわけだから」。開設からわずか2週間でユーザー数は3万人超え。「ツイッターで『スイッターやっているよ』とプロモーションする子もいれば、『スイッター見てね』と口コミで拡散する子もいるわね」。まだまだ世界規模になるまでには程遠いものの、現在ユーザー数は7万人と、オンラインで行き場を失ったセックスワーカーのためのプラットフォームを着実に築いている。

セックスワーク×テック。テクノロジーが救う性産業?

インターネットによって、セックスワーカーたちは自らが主導権を握ることができた。自分たちで広告を出して、クライアントをリサーチして、エージェンシーや斡旋業者を介さずに自発的に働くことができた。でも、ネットでの営業活動ができなくなることによって、セックスワーカーたちは大きな危険にさらされるわ

 ローラ嬢がここでいう危険とは、セックスワーカーたちが“ストリートワーク”、つまり街の通りに立っての営業をせざるを得なくなることだ。ネットでの営業では、あらかじめクライアント候補者とサービス内容を交渉したり、クライアントのEメールや評判、追加情報を要求することでバックグラウンドチェックをすることができた。しかし、セックスワーカーとクライアントが接触する前に存在したいわば緩衝材のようなインターネットというツールを取り上げることは、セックスワーカーたちをストリートに追いやることとなり、リスクの高い営業活動を強いるのと同じことだという。「すごく大げさに聞こえるかもしれないけど、本当なのよ」

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 スイッターへのユーザー評価は高いとローラ嬢。「セックスワーカーたちが安全に情報を交換できる必要不可欠な新しいプラットフォームになっていると感じるわ」。これから、もっと安全のための機能を強化し最適化していきたいという。セックスワーカーたちには彼らなりの、現場を知っているだけの現実的な言い分がある。その彼らがテクノロジーを駆使して、自ら仕事の自由と便宜性を牽引する時代になろうとしている。

アダルト/性産業におけるテクノロジーの導入は、自然と進められていると思うわ。たとえば、性産業関連のウェブサイトって『90年代から変わってないんじゃない?』みたいな、とても古びたものが多いから、これにはアップデートが必要ね。セックステックは、安全性の強化はもちろんのこと、セックスワーカー同士の交流、クライアントとの接触などセックスワークのあらゆる面でプラスの働きをもたらしてくれるわ。セックスワーカーを搾取する斡旋業者やエージェンシーを取り除くこともできるしね」。映画『タクシードライバー』のポン引き・スポーツの時代も、ようやく終わりとなるのか。

Interview with Lola Hunt

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All images via Switter and screenshots with permission from Lola Hunt
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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