「わたしたち家族じゃなかったの?」“エンタメ化するDNA検査”が無遠慮にあけてしまうパンドラの箱

唾を入れる・綿棒でささっと粘膜を取ったらあとは送るだけ。お手軽な“DNA検査”は、昨日まで葬られていたはずの真実を暴いてしまう。
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DNA検査サービスを使った「先祖探し」が、米国でエンターテイメント化しつつある。だがその渦中、思いもよらない「家族の秘密」に出くわしてしまったり、自らのアイデンティティを揺るがすような結果に、狼狽する人も少なくない。DNA検査が手軽になることで、衝撃のパーソナルストーリーに出くわしてしまったら…。

「25人に1人」DNA検査サービスを利用

 昨年ごろから「DNA検査サービス」のユーザー数が急激に伸びている最も大きな要因は、安価で手軽に試せるようになったから。誕生日やクリスマスシーズンに、ちょっと風変わりなプレゼントとして友人や家族、パートナーに“DNA検査キット”を贈るケースも増えているという。

 物事には良い面と悪い面が必ず存在する—、とは昔から言われてきたことだが、ベストセラー・ディストピア小説を書いたマーガレット・アトウッドは、今日のテクノロジーについて興味深いことをいっていた。良い面と悪い面、そして「考えも及ばない愚かな面がある」と。安価かつ手軽に受けられるようになった今日のDNA検査は、まさにそれではないか、と思う。好奇心から軽い気持ちで手を出したくなるが、それは開けてびっくり、パンドラの箱かもしれないのだから。

 ここ数年の間で、DNA検査キットの質は向上している。それでいて、以前は100〜200ドル(1-2万円)程度していたものが、いまでは「23アンドミー 」や「アンセストリー・ドットコム」「マイ・ヘリテージ」など、100ドル以下でサービスを提供しているブランドも少なくない。また、宣伝なども積極的におこなってきたことから、DNA検査キットのユーザー数は右肩上がりで、2017年の伸び率は前年の2倍以上。そのユーザーは北米在住者で1,200万人以上に達した。今後、米国外でも広がる可能性もあることから、さらなる増加が見込まれている。
 
 値段の安価さもそうだが、利用方法も手軽だ。ユーザーは、DNA検査用のキットをオンラインで注文し、キットに含まれる容器に唾(つば)を入れたり、専用の綿棒で頬の内側を擦るようにして粘膜を採取したものを、指定の宛先に返送するだけ。数週間後にはオンラインで分析結果を見ることができる。
 これらの検査では、両親から受け継いでいる遺伝物質を調べることで、DNAを採取したユーザーの家族の民族的・地理的な起源がわかる。また、各社のデータベース上の同じ遺伝物質を共有する顧客同士を結びつけるサービスも展開している。

 つまり、だ。たとえば、会ったことのない親族を意図的に探している状況であれば、いままで知らなかった血縁者の存在やそのルーツが明らかになるし、または離散した家族を探している場合にもその助けになる。が、特にそうでなければ、浮気や養子、婚外子など、長年の間、隠されてきた家族の秘密を無遠慮に暴き、逆に分裂を招くことにもなり兼ねない。どちらにせよ、安価で手軽なDNA検査という近年のテクノロジーの影響力には、計り知れないものがある。

家族の秘密がなくなる時代は、もうそこまで来ている

 最近聞いた米ポッドキャスト『ディア・シュガー(Dear Sugar)』では、こんな悩みが寄せられていた。

 相談者は、ボーイフレンドにクリスマスプレゼントとして、軽い気持ちでDNA検査キットを贈った。すると、その彼が自分の父親だと信じていた人は血の繋がりでいえばまったくの他人であることが判明。それを機に彼が鬱になってしまったという。
 なんでも、相談者のそのボーイフレンド、両親は厳粛なムスリム教徒。父親が別の人、つまり婚前交渉だったとすれば大問題になる。彼は「敬愛する母は父以外の人と関係を持っていたのか、父親は僕が実子ではないことを知っているのか、二人はずっと僕に真実を隠してきたのか」と困惑。また、相談者も、彼の家族の信頼関係を揺るがす事態を招いてしまったことで、罪の意識に苛まれている、という。 
   
 米ワシントン・ポスト紙は、2014年時の「23アンドミー」社の推計では、上述のような思いもよらない父系の血筋や、それまで知らなかった兄弟姉妹を見つけたユーザー数は約7,000人にのぼると報じている。同社のユーザー数はその2014年から2倍以上に増え、いまでは200万人以上だ。

人間は嘘をつくが科学は嘘をつかない?

 そもそも、米国は移民の寄せ集めの国。ネイティブ・アメリカン以外の多くの先祖は、どこかしらの大陸から海や陸を渡ってきており、国自体の歴史もたかだか300年程度と浅い。諸外国と比べると、確固とした文化的統一性に欠けていることも影響しているのか、かつては深い愛国心を拠り所にしていたものが、近年は国外の祖先のルーツに自らのアイデンティティを探している人が少なくない印象だ。また、米国は養子縁組の数や混血も多い。そういったアメリカという国の様々な背景が、DNA検査を受ける動機に繋がっていると考察されている。

 先述のポッドキャストでは「米国は70年代頃までは、婚前交渉、及び中絶をご法度とする厳格な宗教観を持つ人が、いまよりずっと多かった」という話をしていた。そのため、結婚前に望まぬ妊娠をした少女は、遠く離れた専用施設でこっそりと産み、その後、少女の母親がその新生児を「自分の子どもだ」としたり、「養子を授かった」ことにするケースもあったという。実際、この回のゲストで招かれていたのは「自分は養子だと聞かされていたのに、実は最も歳の離れた姉が母親だった」という事実に向き合ってきた人物だった。また、昔のアメリカ社会はいまよりもずっと差別が激しかった。混血の子供を授かった人の中には、本当は相手が白人や黒人だったとしても、それでは生きづらいことなどから「ネイティブ・アメリカンの混血だ」としてきた人も少なくないそうだ。

 真実を闇に葬ったのは、複雑な世の中を生き抜くため。仮にそうだったとしても、テクノロジーは容赦なくそれを暴く。ポッドキャストの相談者に対し、同じように家族の分裂を乗り越えてきたホストたちはこうアドバイスをしていた。「あなたがいま知ったのは、検査の“結果”にすぎない。家族の“真実”は、生みの親にどういう事情があったのかを尋ねること、正直な会話を持ち続けることで得られるもの。そうすることで家族のアイデンティティを再構築することは可能で、ゆくゆくは会話以上に強固な繋がりを見いだすことができるだろう」と語っていた。今後、娯楽としてDNA検査を試す人は、ますます増え、血縁にまつわる騒動もそれに比例するのではと予想されている。

 真実に向き合う痛みは、長い目で見れば必ず価値のあること、テクノロジーは真実に向き合う機会をあたえたにすぎない、という意見。励まされた人は多いのではないかと思う。

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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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