10年後はスマホでネッシー解析?ドローンで水中調査〈最新科学とUMA界〉庶民化する未知の探査

「5、10年もしたら個人個人がスマホを駆使して〈ネッシー〉を探索する姿が見受けられるだろう」(!?)2週間前にネス湖の調査から帰ってきたばかりという教授を、ここで質問ぜめにしてみよう。

1930年代から目撃情報が絶えない20世紀最大のミステリー、ネッシーに雪男イエティ、UFO。科学では解明不能といわれてきた未確認生命物体(UMA)だが、目まぐるしく発展し、テクノロジーに誰もがアクセスしやすくなった現代では、どうやら事情が変わってきたようだ。遺伝子技術やリモートセンシング、探査ロボット、ドローンなど最新テクノロジーは、UMAの存在を証明できるのか。

テクノロジーで解明(?)されるUMAの謎

「イエティの正体は『クマ』」というニュースが昨年、駆け巡った。米国などの研究チームがイエティのものだと思われる骨や皮のDNA分析をしたところ、クマの可能性が高いという結果に至った。またビッグフットを追っている英人類遺伝学者ブライアン・サイクスのチームは、標本に付着した人間のDNAを除去する最新テクノロジーを開発、導入した(残ったDNAを解析した結果、ビッグフットはホッキョクグマだったのではないかという結論に)。さらに、ドローンの空撮にビッグフットらしき生物やUFOの姿が写りこんでいる少々アヤシい映像も存在する(これらの信憑性は極めて未知数だ)。最新科学テクノロジーにより、いままでベールを被ってきた生命の謎が解明される日も近いのか?

 と、ここに最先端科学の力で正体が明らかにされそうな未確認生命物体がもう一匹。スコットランドにある英最大淡水湖・ネス湖に棲息するとされているモンスター「ネッシー」だ。ジュラ紀、白亜紀に栄えた恐竜プレシオサウルス(首長竜)の生き残りのような長い首に泳げる体。UMA界の愛されキャラでファンクラブも存在、時空を越えてミステリー好きの心をくすぐってきたネッシーに、「DNA技術」で挑むのは、ニュージーランド・オタゴ大学の遺伝子学のエキスパート、ニール・ジェメル教授だ。2週間前にネス湖の調査から帰ってきたばかりという教授に、「最新テクノロジーによるUMA解明の可能性」、そして「DNA検査やドローンなど個人でも手に入れられるテクノロジーで庶民化するUMA探査」などについて取材した。

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一番左が、遺伝子学のエキスパート、ニール・ジェメル教授。

ネス湖は最新テクノロジーの実験場?

 1933年に目撃されてから、今年に入っても目撃情報が絶えないネッシー(仮に1933年のネッシーが本物だったとしても、ネッシーは今年85歳のご高齢なわけで…。生態系も変わっているなかそんなに長生きするかという疑問は残る)。ミステリーに包まれたモンスターの存在有無を確認すべく、遺伝学の教授が導入したのが、「eDNA(環境DNA)解析法」と呼ばれる新しい調査方法だ。

 環境DNAとは、自然環境に残っているDNAのこと。たとえば、海や川などには水中に生息している生物の皮膚や毛、羽、うろこ、ふん尿などの排泄物などのDNAが落ちている。科学者はこれらDNAを集めDNAシークエンス(塩基配列*)を分析、既存の塩基配列のデータベースと比較することで、その地域に生息する生物かどうかを突きとめることができるわけだ。今回のネッシー調査では、湖の水をサンプルとして採取し、そこからDNAを抽出、そしてシークエンスを分析していく。

*DNAなどの核酸の塩基の並び方で、遺伝情報をあらわす。DNAの塩基ではアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つあり、この並び方(塩基配列)が、タンパク質の情報(遺伝情報)を担っている。

 その昔、ネス湖を訪れたがネッシーは未発見、ネッシーの存在を信じないという教授は、調査についてこう話す。「同僚との会話から、環境DNAを使って未確認生命物体を調査しようというアイデアが生まれた。世界で最も有名な湖で一つであるネス湖で、最新のDNA技術を用いる。これまでの調査とは異なるアプローチだ

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 過去80年ものあいだ研究者やUMAマニアたちによって無数のネッシー調査がおこなわれてきた。興味深いことに、「ネス湖の調査には、その時代時代の最新テクノロジーが使われてきた。1930年代は〈双眼鏡〉で岸から湖を監視。50年代は、〈ハイスピードカメラ〉や〈潜水艦〉。80年代は音波を利用して水中を探知する〈ソナー〉」。近年だと、2016年に実行された水中ドローンを使った調査が記憶に新しい(恐竜のような固体を捉えたが、それは69年撮影の映画『シャーロック・ホームズの冒険』で使われたネッシーの小道具だったことが判明)。「私たちのプロジェクトのいいところは、実際に怪物を見なくてもいいし、捕獲しなくてもいいところだ」

 教授と15人ほどの調査団は、6月、2週間ほどネス湖に滞在。70年代からネス湖を調査しているエキスパートが用意してくれたボートに乗り、湖のあらゆる箇所と水深(200メートルの水底まで)から259の水のサンプルを収集した。そこに含まれるDNAを採取し、これから3つの研究所で分析が進められ、来年1月に結果が出るそうだ。

「ネッシーはいないだろう。しかし私が間違っていたら、それは喜ばしいことだ」と教授はネッシーに懐疑的。しかし万が一「抽出したDNAがデータベースに一致しない=未知の生物がいた可能性がある」という結果が出た場合はどうするのだろうか? 未知のDNAが見つかったとしても、照らし合わせるべき怪物や恐竜のDNAはない。「ネッシーがプレシオサウルスだとしたら、祖先状態再構成というプロセスを経て、プレシオサウルスのDNAの仮説を立てることができる。クロコダイルか鳥に近いもの、という具合にだ」

テクノロジーの庶民化で、UMAハンター急増?

 科学技術は、すでにいくつかの新発見をもたらしているようだ。環境DNAによって、個体数が少なく10年以上“失踪”していたアラバマスタージョン(チョウザメ)がまだ健在であることがわかったり、シカゴの水辺にアジア産の鯉を確認、外来種の存在が明らかになった。さらなる技術の発展により、未確認生命物体調査はどう影響を受けるのだろう。「深海などの調査にテクノロジーが大いに役立つと信じてる。火星探査機のような深海探査ロボットだ。またドローンも役立つと思う。実際にドローンフィッシングというものがあるが、それと同じ要領でボートに乗らずとも水上に飛ばしたドローンが水のサンプルを採取してくれることも可能になるね

 ネッシーの他にもテムズ川のテッシーや英ウィンダミア湖のボウネッシーなど、未確認生命物体の出現は絶えない。未来のUMAリサーチについては、「テクノロジーの民主化が進んでいる。5、10年もしたら個人がスマホを駆使してネッシーを探査する姿が見受けられるだろう」。最近では、自分の祖先や体質を調べるべく個人のDNAキットの活用やドローンの所有など、テクノロジーがラボから飛び出し庶民の日常生活に溶け込んでいるのも確かだ。「たとえばスマホにプラグインできるポータブルDNA分析装置もすでにある。グーグルの画像検索をするようにDNAのデータを閲覧できるんだ。ちなみに、『いま泳いでいる湖にどれくらいバクテリアがいるか』というのもわかる。このような装置はいまは高価だが、これから値段も下がっていけば一般的になると思う」

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 ここで一つ疑問がある。たとえ科学技術が「ネッシーは存在しませんでした」と証明したとしても、ネッシービリーバーたちはこうべを垂れて大人しく引き下がるのだろうか。「私たちの調査でネッシーの存在が明らかにされなくとも、『ネッシーは休暇でどこかへ出掛けている』『エイリアンだからDNAの痕跡を残さない』などと言う人も出てくると思う。そういう意味ではネッシーの存在は解明されることはなく、永久的なミステリーとして止まるだろう」。それでは、科学が未確認生命物体を暴こうとする意義はどこにあるのか。「科学は“神話”を探求することができる。ある神話は解明され、またある神話は神話であり続ける」。実際、絶滅したと思われたシーラカンスが再発見されたように、と教授は例をあげた。

 最後に、科学の力を頼りにする教授に究極の質問を投げかけた。「なぜ人は科学で証明されないものを信じようとするのか」。答えは、「人は理解を超えたものを信じることに快感を覚える。ネッシーもイエティもビッグフットも情熱をもって信じている。人は信じたいから信じるのだ」。超常現象を追う2人のFBI捜査官を描いたSFテレビドラマ『X-ファイル』を思い出す。2人のオフィスに掲げられたUFOのポスターには「I Want to Believe(真実を求めて)」と書いてある。未確認生命物体の真実は科学の力でもっても証明されないのかもしれない。ここはあえて、「それでも私は信じたい」と直訳しよう。

Interview with Professor Neil Gemmell

Loch Ness Research images via @profgemmell
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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