NYCのシティ文化〈イエローキャブ〉の抗戦。“まるでウーバー”なタクシーアプリでライドシェアからストリート奪還か?

ニューヨークのシティの文化、イエローキャブを守るべく、ウーバーやリフトに対抗するアプリが登場した。謳い文句は「YELLOW IS THE NEW BLACK(“黄色”はいまの流行りの色)」
Share
Tweet

ネットフリックスで大人気のドラマタイトル(『Orange Is the New Black(オレンジが流行の色)』)をパロった謳い文句で堂々登場したのは、新しいドラマ…ではなく「タクシーアプリ」。そう、“流行りの黄色”とはニューヨークを代表するシンボル、イエローキャブのこと。ウーバーやリフトなど配車サービスに押され気味な“昔がたきのイエローキャブ業界”と、誇り高きイエローキャブ運転手をテクノロジーで救おうと、あるスタートアップが立ち上がった。

イエローキャブだって乗る前に料金がわかる。イエローキャブ専用アプリ

 マンハッタンからブルックリンまで縦横無尽に走りまわるニューヨークのタクシー、通称イエローキャブ。ニューヨークを代表するシンボルで、ドラマや映画に登場すれば「あ、ニューヨークね」とすぐわかるほど顔が広いシティのアイコンだ。

 そんな“ニューヨークの顔”も、近年はなんだか浮かない様子。原因は、数年前から一気に押し寄せた配車サービスの波だ。いまや大半の現代人のスマホにダウンロードされている、日本でも広まりつつあるウーバーに、ピンクのヒゲがシンボルのリフトだが、これらライドシェアが現代人の心を掴んだのも「乗車前に料金がわかる」、そして「現在地までピックアップしに来てくれる」からだろう。

 比べて、イエローキャブは料金はメーター制だ。混み具合・かかる時間で値段が変動し、乗車価格は目的地についてはじめて知る。路肩で手をあげてタクシーをつかまえようとも、なかなかつかまらないし、そもそもイエローキャブが見あたらないちょっと辺鄙なところでも、数分待てば車が来てくれる安心感といったら革新的だった。また、相乗りサービスも出て価格帯も下がり、若者の夜遊びも捗っていることだろう。せっかちな都会人のニーズに応えた配車サービスに、イエローキャブは対抗できずにいた。

 のだが、ここで営業“危険信号”を発していたイエローキャブを救おうと立ち上がったのが、テックスタートアップ「ワーべ(Waave)」。ウーバーやリフト同様、「乗る前に料金がわかる」「現在地までピックアップに来てくれる」「乗車前に目的地への推定到着時間がわかる」の三拍子が揃った“イエローキャブ専用”の配車アプリを開発した。


(出典:Waave Official Website
カーブ(Curb)」など、“タクシーを呼ぶ”だけに特化していた既存のタクシー専用アプリにも差をつけるかたちとなった。

 タクシーあるある「メーターと睨めっこ」の不安を解消してくれるワーベ。その背景にあるのは、今年3月、市のタクシー・リムジン委員会によりおこなわれた規制緩和*だ。タクシー運転手たちはワーベを使用し、事前価格設定することが可能に。支払いもウーバーやリフトと同じくアプリ内で完結可能、便利性も兼ねそなえている。ワーベCEOのダニエル氏は「これで、イエローキャブもウーバーやリフトなどと対等に競争できるはずだ」と、イエローキャブの巻き返しをはかる。

*それ以前の料金は、タクシー・リムジン委員会によるメーター制で決められており、運転手が乗車前に料金を設定することは認められていなかった。

イエローキャブは運転手の“誇り”。シティの文化を救える?

 昨年11月から今年8月までに、収入激減を理由に6人のイエローキャブ運転手が自殺した。ニューヨークのウーバー運転手の平均時給が23.69ドル(約2,700円)に対しタクシー運転手は15.74ドル(約1,779円)と、収入の差は顕著に(全米経済研究所、2015年)。全米でみても、ウーバーやリフトは交通市場の70.5パーセントを独占している一方で、イエローキャブを含むタクシーは6パーセントだった。

 またウーバーやリフトは空き時間と自分の車が自由に使えるのに対し、まずイエローキャブを運転するには営業許可証「メダリオン」が必要だ。ピーク時に比べ下落したとはいえ、いまでもメダリオンを取得には約2000万円もかかる。多くのイエローキャブ運転手はメダリオンを所有するオーナーにリース料を払い車を借りて運転している。中には、借金をしてまでメダリオンを取得している運転手も。

 こういった厳しい労働条件にも関わらず、頑なにやめない人も多い。以前HEAPSで取り上げた30ヶ国で大売れのNYC中年タクシー運転手カレンダーの制作者は「一瞬だけウーバーに乗り換えた運転手がいたけど『肌に合わなかった』と、すぐにイエローキャブに戻った」と言っていたし、6月に自殺した運転手歴30年のイエメン移民(59)は、家賃が払えず周囲にウーバーに乗り換えることを勧められていたが、最後までイエローキャブを運転し続けた。

 シティの文化ともいえるイエローキャブに誇りを持つ運転手たち。彼らの意地にリスペクトを払いつつ、勢力を強める配車サービスと対等に闘ってもらおうと、ワーベは登場した。すでにアプリローンチ初日にワーベに登録したイエローキャブ・ベテラン運転手も「これで客を取り戻せる」と胸を踊らす。ちなみに、別の会社も今年中にワーベと類似のタクシー配車アプリをローンチする予定と聞く。

 タクシーは各都市の個性を反映している。格式高い黒塗りタクシーが堂々と走るロンドン(昨年、営業許可証を取り消していた)に、自動ドアが自慢の日本、“ベンツ”が当たり前のドイツ、初乗り約100円の圧倒的安さを誇るフィリピン。そして、自由の女神と同列に並ぶ“ニューヨークの黄色い文化”、イエローキャブ。ワーベは、都会人のタクシー離れに歯止めをかけ、シティの文化を救えるのだろうか。

★★FOLLOW US★★
HEAPS Magazineの最新情報はTwitterでも毎日更新中。
毎週火曜日は〈スタートアップで世界の動きを見てみる〉最新のプロジェクトやプロダクトを紹介中。

———————–
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load