「難民のなかにもいろいろいます」難民が暮らす欧州都市、ラジオ局から流れるパンデミック下のそれぞれの日常|CORONA-XVoices

コロナウイルスの感染拡大の状況下で、さまざま場所、一人ひとりのリアルな日々を記録していきます。
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2020年早春から、世界の社会、経済、文化、そして一人ひとりの日常生活や行動を一変する出来事が起こっている。現在160ヶ国以上に蔓延する、新型コロナウイルスの世界的大流行だ。いまも刻々と、今日そのものを、そしてこれからの日々を揺るがしている。
先の見えない不安や混乱、コロナに関連するさまざまな数字、そして悲しい出来事。耳にし、目にするニュースに敏感になる毎日。

この状況下において、いまHEAPSが伝えられること。それは、これまで取材してきた世界中のさまざまな分野で活動する人々が、いま何を考え、どのように行動し、また日々を生活し、これから先になにを見据えていくのか、だ。

今年始動した「ある状況の、一人ひとりのリアルな最近の日々を記録」する連載【XVoices—今日それぞれのリアル】の一環として、〈コロナとリアリティ〉を緊急スタート。過去の取材を通してHEAPSがいまも繋がっている、世界のあちこちに生きて活動する個人たちに、現状下でのリアリティを取材していく。

※※※

国々が国境を閉ざし、渡航を制限し、人々の行き来を取り締まる状況のなか、難民たちの状況はどうなっているのだろうか。

ドイツ、ハンブルクを拠点に「難民による難民についてのストーリー」を届けるインターネットラジオ局がある。レフュジー・ラジオ・ネットワーク(Refugee Radio Network、以下RRN)」、ラジオパーソナリティーは全員難民で活動。ドイツのみならず、フランスやイタリアなどヨーロッパの他国に住む難民たちも遠隔で参加し番組を作ってきた。話す内容は「難民たちのざっくばらんな日常生活や恋愛話」など。もちろん、避難中や日常生活であったネガティブな話もあればポジティブな話もある。時にはラジオを飛び越え、難民たちの受け入れ国でのローカル生活に密着した動画の配信もおこなっている。

そこに、今回のコロナ危機。感染拡大への対応として移民・難民の強制送還をおこなう国もあるなど、難民の受け入れはどうなっているのだろう。街の難民たちの生活にどのように影響があるのだろうか。RRN創立者のラリー・マコーレー(自身もドイツに避難したナイジェリアからの難民)に、2年ぶりに、コロナ状況下の難民の日常のリアリティや、ラジオの活動を聞く。

いまから5年ほど前に世界を揺るがせた「難民危機」。2015年だけでも、中東やアフリカ諸国から100万人もの難民・移民がヨーロッパへ押し寄せ、ヨーロッパ諸国は難民の受け入れ問題に直面。難民の就労や生活支援をおこなう動きが起きるなど、各国の政治や経済、文化に影響をあたえた。

世界中に約7,000万人存在し、母国から国外へと避難し、難民認定を受けたのは約2,500万人に(国連難民高等弁務官事務所、2019年)。受け入れに最初は寛容であっても、送還などの措置を検討せざるを得ない状況に陥る国もある。


RRN創立者のラリー・マコーレー。

***

HEAPS(以下、H):取材から2年ほど経ちましたが、欧州、またドイツの難民受け入れは近年どのような状況でしたか? 昨年には、地中海を渡って欧州を目指す難民の受け入れを分担することを、ドイツ、フランス、イタリア、マルタの4ヶ国が同意しました。

Larry(以下、L):変わっているとはあまりいえないです。政府や政治家によって、難民の受け入れに対する対応が違う。右派の政治勢力が強い国、たとえばオーストリアやハンガリーは受け入れの姿勢を見せていません。

H:まだまだ欧州が難民問題に揺れるなか、パンデミックを迎えた。オーストリアは、感染していないことを証明しないと難民の入国を許さないなどの措置をとっていると聞きました。また、難民キャンプなども人々が密集しているため、感染拡大の恐れも大きいと思いますが。

L:コロナ状況下で難民はないがしろにされているともいえます。難民キャンプで亡くなった人たちの遺体を、まるでゴミを扱うように外に放置していることもあると聞きます。政府によっては、難民に助けの手を差し伸べることなく突き放し、結果、難民たちは食料などもないまま通りをさなようことになったり。

H:街がロックダウンされた状態だと、どこにも助けを求められないですね…。

L: 難民の受け入れは続行されているし、毎日のように難民も欧州へ漂着しています。北アフリカやシチリア、ランペドゥーザ島を経て、スペインやギリシャの島々などへ。 でも、国々のシステムがダウンしているから、警察もいない。難民申請する移民局も休業している。申請したくてもできないという状況でした。やっと最近になって再開しています。

H:ラリーが住んでいるハンブルグにいる難民たちの生活に、コロナが直接影響をあたえたことはありますか。難民たちは、このコロナという状況をどう思っているのでしょう。

L: 難民・移民コミュニティのあいだでコロナに関する誤情報もたくさん流れています。「5Gアンテナがコロナウイルスを拡散する」のような。これらの情報に惑わされた人々によって混乱が起きる。
ちょうどさっき、ランチ休憩から戻ってきたのですが、通りには人々が集団でたむろしていました。コロナの問題は、難民たちどうのこうのというより、すべての市民に降りかかっていること。難民のなかにもコロナをシリアスに受け止める人もいれば、自分の教会やモスクが出している指示に従う人もいる。まあ、いろいろいます。

H:ラジオもまだ続けているのですか? ロックダウン中はラジオの収録も集まってできないと思いますが。

L:はい、続けています。私たちのラジオは以前から遠隔で制作して放送していたので、変わっていません。

H:RRNのフェイスブックには、手洗いやエチケットなどコロナ感染削減を促すインフォグラフィックや、コロナ期間中に違法移民の居住を認めるイタリアの決定に関するニュースや、コロナに翻弄されるLGBTQの難民についての記事など、他媒体のポストもキュレートして流しています。ラジオでは難民のパーソナリティーたちが、どんなことについて話していますか。

L: 特にドラマティックなものではありません、コロナ下での生活などについて話していますよ。コロナの影響で彼らの生活のなかでも見通しが立たないことも多くなりましたから。たとえば、(受け入れ国での)居住許可が失効してしまっても、その手続きも一時停止になってしまったり。

H:ラリーがホストを務めるトーク番組「Let’s Get Kritikal(レッツ・ゲット・クリティカル)」では、コロナ編も放送したそうですね。ここではどんなことを?

L:特別なことはしていないですよ。 コミュニティに向かって「コロナウイルスがいま感染を拡大しています。これは冗談ではありません。さまざまな情報を共有して、体には気をつけてください」と呼びかけました。また、コロナの影響で法的な問題に直面した難民たちへの助言もしました。

ロックダウン中の取り組みとしては、難民に関する情報やニュースを毎週配信するチャンネルを、ドイツ、イタリアにいる協力者と一緒にオーガナイズしています。「亡命申請をしたい。どうしたらいいか」や「どうやって居住許可を延長したらいいのか」のような、難民が抱える質問に対してアドバイスする。 プラットフォームは、ユーチューブ。みんなユーチューブ見ていますからね。難民へ向けて“正確な情報”を発信しているイタリア在住の移民、BLACK MALIKのユーチューブチャンネルの制作も手伝っています。


H:“正確な情報”とは?

L:難民を騙す詐欺が横行しているんですよね。そんななか「難民申請に必要なその書類、無料で取得できますよ。有料といわれたら、絶対に支払わないこと」というような、難民が知るべき基本情報を教えています。他には、昨年RNNが制作に関わった動画プロジェクト「Ramadram」をユーチューブで配信している。10分のエピソードからなるドラマシリーズで、難民がテーマなので多くの難民が視聴しています。

H:今年のラマダーン(イスラム教の断食月)にあわせて配信したそうですね。さて、コロナによるロックダウンも世界各地で徐々に解除されてきました。ラリーの周りの難民コミュニティは、コロナ明けにはどんなことをする予定だと言っていますか。

L:私の周りの多くは、もう“難民”ではありません。 受け入れが決まったらEU市民と同じように学校に行って、仕事をする。起業だってする。私のオフィスの1階に入っているレストランは、元シリア難民が開店したレストランです。DJやスポーツ業界の職業につく人など、コロナ状況下でも元難民はいろいろなことをしています。難民申請者は、また別の話。彼らは申請で足止めを食ってしまいましたが。難民もそうじゃない人もみな同じ人間。いい話もあれば、ネガティブな話もある。いろんなことがあります。

H:ポストコロナでは、難民のためにラジオネットワークとしてどのような活動をしていきたいですか。

L:今年3月にギリシャで移民・難民に関する大きなイベントを開催する予定でした。難民に対するメディアの意識を向上する目的で、移民や難民、ジャーナリスト、政治に関わる人々を集め3日間のディスカッションやワークショップをする。コロナの影響で中止になってしまいましたが…。これからも、やることは特に変わりません。移民や難民の権利向上について引き続き訴えて、このような国際的なイベントも続けていきたいです。

レフュジー・ラジオ・ネットワーク/Refugee Radio Network

2015年、ドイツのハンブルクで元ナイジェリア難民のラリー・マコーレーによって創立されたコニュニティ・インターネット・ラジオ・ネットワーク。欧州に散らばる難民たちがホストやパーソナリティとなって、自分たちのこれまでの体験や現在の日常生活などについてトーク。番組内では、母国の音楽を紹介するコーナーなども。またラジオだけでなく、ユーチューブで配信する番組や、難民とメディアに関する国際的なカンファレンスなども開催。来年10月にハンブルクでカンファレンス「CMMA2020」を開催予定。

Instagram @refugeeradionetwork

Eyecatch photo: taken at CMMA conference organized by Refugee Radio Network
All images via Refugee Radio Network

Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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